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勝間と悦司と抜けない自転車

「……きろ、起きろ、おい」

「あ……ん……?」


 光がある。体に半分、何か固くて柔らかいものが当たっている感覚と、瞼を覗く光。

 そしてよく聞き慣れた、眠そうな声。

 体に力が入らない。昴は何度か全身に力を込めるも、疲れて半日寝てしまった後のような脱力感と疲労感と頭痛が返事をするだけだった。返事をしようにも、口も半分塞がっている。うっすら目を開けると、どうやら地面のようだった。昴は地面に横たわっていた。


「ちっ、もう一回サドルで殴ってみるか、そろそろ動きたいしな」

「足で蹴るくらいがええと思うけどねぇ」

「用途と倫理観!」

「「あっ」」


 起きた。寝起きの合併症の重さなど命の危機の前には無力だった。のんびりした声でスバルの頭をどう揺り動かすか、酷く言うならどうやって吹っ飛ばすかを相談していた二人に、昴は雑草やら砂やらを飛ばしながら起き抜けに突っ込んだ。


「サドルの出番は、また今度か」

「サドルの出番は尻を乗せるかブロッコリーの代わりかの二択だバカ!」

「一択やねぇ。おはよう昴、ビリよ」

「ビリ……?」


 一番遅く起きたってこと。勝間はのんびり変わらずに昴に答えた。

 記憶を一度引っ張り出す。お腹が空いているのは変わらず、ご飯を食べていないから当然だ。昼間だからまだテストは続くし昼休みも長くない、さっさとご飯を……。


「あっつ…….。今日学ラン着れる暑さじゃないな……あれ」


 眩しい太陽を睨みつける、寝起きで視界がはっきりしていなかったが、だんだんぼやけていた視界がクリアになり、二つに見えていた太陽が一つに……ならない。

 しかも眩しい割に太陽は明るくない。


「勝間、悦司。空」

「あぁ、太陽二個あるな」

「二個ある時点で太陽言うてええんかわからんけどねぇ」

「勝間、悦司。……ここどこ」

「そやねぇ、ここにおらん馬鹿と料理馬鹿の言葉を使うとしたら、異世界。」


 異世界やねと、まるで今日の夜天気がどうなるかを言うくらいの声音で、勝間は呟いた。


「あの大きな穴を落ちてみれば、そこは異世界でしたってわけ」


 悦司の念押しは、どこかふわふわとした捉えようのない気持ちを、不安へと沈み込ませるには十分で。

 それでも自分に、自分達に起きた事の大きさを言葉にできず、しばらく口を開けたら閉めたりを繰り返す。


「……慶次と才途は」

「冷静でえぇね。なんでだ!?とか聞かれたら逆ギレするとこやったわぁ、俺らがわかる質問で助かる。アイツらは一か八か探検に出たよ」

「……はぁ!?」


 パスポートを持たないガキが外国を金もなしにうろつくような、実際にはそれ以上のことをしていると聞いて、ここで先ほど使わなかった分の大声が出た。まぁ理由はわかると言わんばかりに、悦司は頭を掻き、勝間はケラケラと笑う。


「な、なんで行かせたんだよ!」

「このなーんにもない原っぱでだべっても仕方ないやろ?」

「ならせめて、全員で行動するとか……!」

「やけん、昴。仮定でしかないけど、ここは地球じゃないんよ。」

「それはさっき聞いて……」

「聞いて、ちゃんと考えたかよ? 地球じゃないってことは、スマホの時計は当てにならない。そもそも1日が24時間って保証も、ない。あの登ってるエセ太陽が、あとどれくらいで沈んで夜になるのかわからない。……勝間が言いたいのはそういうこと。そんで、四人揃った時点で二時間は待ったんだ。最初にここに来た才途が言うに、俺らの"やってきた"時間は20〜30分くらいのズレだったから、昴だけ穴を回避できた可能性もあった。……つまりお前だけここに来ない可能性な? だから、先に情報を集める組と、お前が来た時に一人にしない組、それぞれがぼっちになんねぇようにした上でどっちもできるメンツが揃った時点で行動を始めたってわけだ。全員が孤立しないように、かつ頬をつねっても痛いだけの現実で野垂れ死ぬことがないように。一応考えて動いたつもりだよ、俺たちは」

「それは……!……うん、そうだね。なんとなく分かるよ」


 だから、一か八かなのだと昴は悟る。普段全然喋らないこの悪友の饒舌ぶりを見て理解した。全員がいっぱいいっぱいになりながらも、自分に気を遣ってくれてまで全部を諦めないための選択をしたことに。


「焦った。ごめん、勝間、悦司」

「……ん。」

「助かるよ昴。俺らもこれでいいんか、本当にわからんまんまやったけん、待ったおかげで昴を1人にせんで、良かった」

「うん、本当にありがとう。第一関門クリアだね!」

「ええやん、空元気も元気や。悦司に分けてあげ?」

「要らね。」

「つれんなぁ」

「良いんだよ。そんじゃ、寝るには暑いしとっとと行こう。あの一番目立つでっかい壁。慶次と才途はあそこを街だと見て先行してる。」

「ん、わかった。」


 冷や汗はかいている。

 勝間の笑顔はこわばっているし。悦司はいつもの何倍もよく喋る。


 明らかに平常ではない。それでも


「ちょっと早いけど修学旅行には良いんじゃない?」

「それより単位が心配やわ。国立いうても学費は高いんやけどねぇ」

「満足に寝れるならなんでも良いよ。あいつらが先にポカしてないのを祈ろう」

「そんじゃ」

「「行きますかぁ」」


 平常を、振る舞うのだ。

 5人ならそれができるのだから


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