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越えよ暗闇、それが貴方への試練であると信じて

 落ちて、落ちていく。

 感触はない。

 ここはどうやらただの穴で、例えば水が張られているとか、例えば虫がのたくっているとか、そういうことはないみたいだ。


 ただ、これにはきっととか多分とかをつけて話さなければいけないのだけど。五人一緒に、ついでに自転車も二台落ちたが、すでにそれらは見えなくなっている。


 光が一切入って来ていないのだろうか。ともかくここには誰もいないし、感じられない。


 そう、感じられないんだ。いっそここには何もないような気さえしてくる。皆がいることはわかっているけど、それでも少し怖くなった。



































 本当に? 本当に誰かがいるとでも?



























 落ちて、落ちていく。

 今、どれくらい落ちてきたんだろう。そもそも俺はふつうに落ちているのだろうか。

 かつてバンジージャンプをしたことがあるけれど、あの時は全身にふうあつがかかり、まさに落ちているという感覚があった。バンジーでなければ、あれだ。ジェットコースターのような。自転車で急な坂を思いっきり降ってもいい。とにかくあのかんかくだ。

 あれが、いま一切ない。

 とにかく何かじょうほうがほしくて目を開ける、そのどうさをする。暗闇だ。とじてもひらいてもなにも見えない。だから、何もない。



























 そもそも、ちゃんと目を開けられているのか? 開き方を覚えているか?

 …へぇ、そうかよ。

 だったらなんで、瞼を閉じたその感触がない?




























 落ちる、おちていく。

 そもそも落ちているのかさえふあんになってきた。これだけ圧力がかかっていたら脳にそうとうなふたんがかかっていそうなものだけど、しこうはいつにも増してクリアだ。今ならむずかしいもんだいさえ解けそうなくらい。































 おちて、落ちていく。

 そういうことにしておく。でないとたいせつな何かがこわれそうな気がした。

 それはじょうしきやこていかんねんといった、いつもはわずらわしく思っていても、けっきょくそれがないと人が人らしく生きることのできないきわめてたいせつな何かだ。

 てばなすわけにはいかない。これをなくせばきっと耐えられなくなる。


 グッと強く噛み締めて食いしばる。


 くいしばったことにしておく。

 そのかんかくなんて、もう分かりやしなかったけれど、

































 おちて、おちていく。

 いくらてをバタつかせても、バタつかせたつもりでも。

 いくらあしをおりまげても、おりまげたつもりでも。

 どこにもあたらない。くうきにさえさわれない。そもそもうでをふれているかんかくがない。

 いっそ振れていると言うなら気が触れている。つまらないじょうだんだ、一人でしかわらえない。

 そういえばいまふとおもいだした。4人とじてんしゃ2つ、やっぱりどこにもないのだろうか。それともみんなこうなっているのだろうか。




























 落ちて、落ちていく。

 手も、目も、足も無くなったようなこの体で、それでもなぜか、思考だけが急に冴え出した。

 キチガイじみたこの落ち着きも、俺しかいないこの空間では標準だ。なにも問題ない。
























 落ちて、落ちていく。

 そもそも問題だらけの空間だ。あるいはこれも空間ですらないのかもしれないが、だからこそゆえに自分の感覚程度問題にならない。

 ……話にならない。


















 きっと、落ちて、落ちている。

 全ての感覚がなくなって、思考だけが尚も冴えている。ならこの考え方だけが俺を形作っている。なんだか自分が球体にでもなったような錯覚に襲われて、あぁ、感覚ないからわかんないやと笑い飛ばした。もちろん笑えたかなんて知らない。仮にだれか見ているならば、そいつにしかわからない。






















 だれか、見てないのか。とっくに狂ったこの俺を、誰か助けてはくれないのか。

































 きっと、落ちて、落ちている。

 だからどうか、滑稽な俺を笑ってくれないか。声が聞こえればそれで良い。視線が感じられればそれでいい。

 どうにもこの空間は狂っている。

 いや、ここは本当に何かの場所であるのか?俺という存在だけがある……あるはずの世界で、呼吸もいらず、行動もままならないこの場所で、俺以外の存在が必要なのか?

 必要で無いなら、それはもはや無いのでは無いか?

 感覚は未だ存在せず、ここにいる理由も分からない。ただ思考だけははっきりとしていて、だからこそこの思考だけが俺を証明する唯一のものだ。思考だけの存在だ、自分は。

 どうか見つけてくれ、どうか助けてくれ。未だあるかどうか分からない手を取って、この暗闇から連れ出してくれ。連れ出してください。でないとひどくちっぽけな自分と言う存在が、いつしか考え方すらも壊れて自分で無くなる。

 そうすればこの暗闇に溶けて混ざって、きっとこれらに等しくなる。

 だからどうか、そうなる前に。

 誰かが救ってくれると言うのなら、誰でもいいから助けてくれ!











 …。

















 ……。





















 ………。
























「残念時間切れだ。地獄すら極楽になるだろうこの闇を、どうやら君は突破できなかったようだが、それが普通だ。異常なのはあちら側だな。まぁ心配無用、新しく生まれ直すといい。」



















 














 え

 いま

 なにかちかくでこえがしたような

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