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昴のアイデア

「夕べはお楽しみだったな?」

「……おはようございます」


 そっちがそれを言うのかよと喉元まで出かかった言葉を呑み込み、昴はソルへ挨拶をする。

 時刻は午前5時半。高専の起床時間が5時50分だったため、いつもより少し早い起床時間ではあるが、その分いつもより早く寝ていたため体の調子は万全だった。

 体調管理のスキルもいい具合に味方しているのかなとなんとなく思ったが、このスキルは常に発動しているものなのであまり実感は湧かない。


「おはようさん。……で、実際にどうだったんだよ、昨日は」

「何もなかったですよ。なんですかお楽しみって」

「あれ、メケメケのやつ言ってねぇのか……。それなら俺から言えることはなんもねぇわ。すまん、なんでもねぇ」

「(いやまぁ全部聞いてるけども)」


 一応声量を落としたつもりなのだろうが、わりと耳のいい昴にはバッチリ聞こえていた。ただ貴方が聞いている理由の方はこじつけですよとも言えないので、聞こえていない素振りをする。


「調子はいいみたいだな。レベルアップした次の日は大体活力に溢れてるもんだ。シュバルツなら今日もガンガンレベルアップするだろうし、しばらく疲労とは無縁の生活を送れるんじゃねぇか?」

「そういうもんなんですね。なにせ昨日は一気にレベルが上がったからあんまり実感はないんですけど」

「1日で12レベル上がってるからな。まぁ聞かない話だぜ、普通は。魔術師でも無理だろうな」

「魔術師は何か違うんですか?」

「あいつらは新しい魔術を覚えることでも経験値が入る。その代わりレベルアップにかかる経験値は近接職より多いけどな」

「……。」

「シュバルツ?」

「あ、いえ、なんでもないです」


 ……それならば、悦司と才途にはまだ勝ててないかもしれないな、などとは言えなかった。

 昴は自分のレベルアップの速さを、異世界人特典だと考えていた。理由は単純で、レベルアップを促進するようなスキルを何も持っていないから。

 そもそもそんなものがあるのかすら知らないが、職業によってレベルアップに必要な経験値は一定ということをソルから教わっているため、よく分からないが名前からして経験値に関わりがないであろう異能二つのことを考えると、それくらいしか心当たりがなかったのだ。

 そしてそれを前提に考えた場合、このレベルアップの勢いは5人全員が共通しているものだと予想していた。

 つまり、魔術の習得でさらに経験値ブーストを掛けられる2人ならば、自分のレベルにも追いついている、もしくは抜いている可能性もあるのではないかとうっすら思っていた。


 良いことのはずなんだけどなと、昴は思う。

 事実、わけもわからない世界で生きていく上で、5人に明確にメリットになる特典が与えられているという考えは本来喜ぶべきことなのだ。


 それを素直に喜べない、自分のステータスに対する劣等感が、昴は嫌で仕方がなかった。


 だが、やることは変わらない。どうしようもなく。


「今日も、ガンガン戦います。よろしくお願いします」


 モンスターを倒す。レベルを上げる。モンスターに対する知識を増やす。

 結局のところ昴に今できるのはそれだけであり、地道に積み重ねることが一番の近道なのだと常に言い聞かせるしかない。


「おう、言われなくてもそのつもりだ。安心しろよ、既に依頼の足を引っ張らない地力はお前にあるんだからな」


 そんなソルの言葉は自信には繋がらなかったが、それでも昴の固い表情を崩すには充分だった。


 〜・〜・〜・〜・〜


「今更だがシュバルツ、今回の依頼がBランクの理由は分かるか?」

「……実はさっぱりで。昨日、ゴブリンを実際に倒したじゃないですか。ゴブリンがEランクなのに、どうして依頼はBなんだろうってずっと不思議に思ってて」

「実際昨日聞いてくれたもんな、お前。悪かったな、その場で答えなくてよ」

「答えてくれる前に次のモンスターが来ちゃいましたからね……。」

「メケメケ、説明任せてもいいか?」

「……いっすよー」

「(あ、まだ不機嫌なの治ってないや)」


 起きた時は会った時と同じようなテンションだったメケメケだが、2人……特にルナに会ってからは昨日の夜と同じ不機嫌モードであった。今までグンド山を歩いている途中にも、ヘタレとルナの背後から呟き続けルナを半泣きにしていたくらいには。


 メケメケはプルプルと震えるルナをスルーして昴の隣にやってくる。


「実際、ゴブリン一匹ならなんの問題もないんすよ。スバル君も特に苦戦しなかったっすもんね」

「パララビットに比べると楽な相手ではありましたね」


 痺れる唾液を飛ばしてくる上にやたらすばしっこいウサギのモンスターであるパララビットは、昨日の昴が最も苦戦した相手である。正確には一番相性が悪いのは空を飛んでいるモンスターなのだが、それは魔術師に頼るという"手段"を持っているので考えないことにする。


「ゴブリンを5匹討伐、みたいな依頼はEランクの依頼にあるっす。けど、今回の依頼はBランク。違いはなんだったか覚えてる?」

「ゴブリンの巣の、壊滅?」

「そう、巣の壊滅及びゴブリンの殲滅。要するに、何匹いるか分からないゴブリンを、一匹残らず討伐する必要があるっす。ゴブリンはEランクモンスターの中でも、いや、モンスター全体の中でもトップクラスに繁殖力の高いモンスターっすからね。しかも統率力が低くて、すぐ逃げる。これを全滅するのは骨が折れるからこその高ランクの依頼なんすよ」

「ちなみに、一匹でも逃した場合はどうなります?」

「……嫌なこと聞くっすね。答えは、一ヶ月後に同じレベルの巣が作られるっす」

「一ヶ月、ですか」

「ちなみに巣にいるゴブリンの数を20匹と仮定した時の話っす。残ったゴブリンはそれがオスであれメスであれオスの個体に変化して、手近なモンスターか近くの村の家畜を襲い孕ませるっす。1回目の出産でメスが3匹から5匹ほど生まれて、そこからはゴブリン同士で数を増やして回復するっすね。あ、勘違いされがちっすけど、魔物が人間を孕ませることは不可能っす。昨日泊めてもらった村じゃ、馬2頭の行方が分からなくなってたんでゴブリンが"使った"のは恐らくそれっすね。メスゴブリンさえ産んでしまえば用済みなんでおそらく骨っすけど、補填とかは別に考えなくていいっすよ」


 よくあるファンタジーものだと人が拉致されて孕まされると言った話が常なので、その部分だけは安心した昴だったが、それでも昨日倒したゴブリンの驚異的な話に動揺は隠せなかった。


「巣はどのようにして見つけるのでしょうか」

「川の流れに沿って探すのがまず一つ。次に魔物の集まることで魔力が濃くなった場所を探すのが一つ。これは魔術師か、索敵スキルを持っていれば見つかる、んすけど……。今回はちょっと話が変わってくるっす。ですよね、ルナ先輩?」

「……種類が違うけど、この山には今2つの巣があって、魔力が混ざっているせいでどっちがゴブリンの巣か分からないわ。それと、山頂にいるAランクのモンスターが持つ魔力も、探知の阻害になっているみたい」

「……実はウチの索敵もルナ先輩と同じ理由で、魔力が混ざってあんまし正確な場所を掴めてないんすよね。巣の近くまで行けば、一番汚れている巣の入口がゴブリンのやつなんで、別の魔物の巣に突っ込むってことはないと思うんすけど」

「ちなみに俺の索敵スキルはメケメケよりランクが低いから論外だ。シュバルツも索敵は低いよな?」


 言われて、自分のステータスを確認する。昨日レベルアップの途中でメケメケからスキルの"コツ"というものを教えてもらい、昴は索敵スキルと罠探知のスキルを習得させてもらったのだが、何せ実践をあまりしていないためスキルのランクはどちらもDである。Bランクのソルと、Aランクのメケメケには敵わない。


「……いや、待てよ。魔力の集まる場所がわかればいいんですよね」

「そうだな。巣さえ分かればそれがゴブリンのものかどうかは俺たちが判断できる。どうした?」

「あるじゃないですか、魔力の濃い場所が分かるものが」


 言って、昴は自らのマジックバッグに手を突っ込んだ。

 そして取り出したのは、昨日散々苦労させられた根無草だった。


「コイツは魔力の濃い場所を自分で探して養分にするため走ります。魔力が混ざって探知ができなくても、こいつの特性なら関係なく魔力の濃い場所をピンポイントに……。ルナさん、なんでそんな顔するんですか?」

「え、あ、いえ、ごめんなさい。……あまりにも正確だったから」

「顔に出しちゃいねぇが俺もメケメケも相当びっくりしてるからな、シュバルツ。……百点満点だぜ、今から教えようとしたことを、お前は自力で辿り着いたんだ」

「冒険者3日目っすよねスバル君? ねーリーダー、スバル君うちのパーティーに誘いましょうよー。絶対伸びるっすよこの子」

「……ちなみに言っておくと、こいつお前より二つ年上だからな、メケメケ」

「えっ嘘こんなに童顔なのに」

「こいつの仲間は全員童顔だ」


結構酷いことをサラッと言ったソルだが、昴がそれに何か言う前に、昴の根無草をひょいと受け取る。


「さぁ、百点満点の狩りの時間だぜ。なに心配すんな、場所さえわかればあっという間に終わるからよ。うちの魔術師がゴブリンごときを逃すわけがないからな」


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