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お見合いお姉さん

 コボルトを一匹倒した。

 ゴブリンを一匹倒した。レベルが6になった。

 パララビットを三匹倒した。レベルが7になった。


 ソルは満面の笑顔になった。


 〜・〜・〜・〜・〜


 そして、舞台はグンド山へと戻る。


「理由はしらねぇ、つかどうでもいい。お前はどうやらレベルアップに必要な経験値が人より少ないらしい!才能だぜシュバルツ、これはお前に一番必要なものだ!」

「はい!あとはモンスターを倒しまくるだけですね!」

「血を見るのにも慣れてきたみたいだな!あぁ、ちくしょう!お前の才能が羨ましいがそれは良い!持ってるもんは活かしていけ!そら、次はあの鳥が獲物だ!復習、空を飛んでいる魔物の対処は!?」

「惜しみなくスキルを使う!」

「使えるスキルがないなら!?」

「"魔術師に任せる"!ルナさん!」

「"リル・ファッス・フウロ"」


 わざと弱められた風の矢が、空を飛ぶ鳥の魔物の羽を貫き、地上へと引き摺り下ろす。


「落ちた後は!?」

「逃げられないように一撃で仕留めます!【パワースラッシュ】!」


 一撃だけステータスを1段階上げたSTRで攻撃できる剣術スキル【パワースラッシュ】が、今まさに地面に着こうかという魔物を一振りで切り裂いた。


「粒子になって魔石しか残さないタイプの魔物は!?」

「しっかり魔石を回収します!」

「肉体を残す場合は?」

「解体できるなら売れる部分を回収!解体できない奴は専用のマジックバッグでギルドに持ち帰ります!」

「お前のモンスターバッグの等級はいくつだ!」

「Aと聞いてます!」

「……なぁ、ちょっとサイトくんとかいうやつに会わせてくんない? シュバルツの師匠ですって紹介してくれたら後はうまくやるからさ」

「……アイツめちゃくちゃ人当たり良いように見えますけど、めちゃくちゃ人見知りで警戒心強いんでやめた方がいいと思います」

「急に真顔になるなよ」

「ソル先輩こそマジトーンでたかりにくるのやめてくださいよ。……っと」

「……おい、まさか」

「レベル10になりました!」

「ナイスだシュバルツ!っしゃあこのまま山頂までモンスターを狩りまくるぞ!山頂にはAランクのモンスターがナワバリ張ってるからそこだけ逃げるぞ!」

「サー!イエッサー!」

「……ルナ先輩、レベル10っていつなりました?」

「……一ヶ月くらい、だったと思うわ。でも私は魔術取得の経験値も込みだから」

「ウチは一ヶ月半です。……恐ろしいっすね。ギルドから目をつけられるだけのことはあるっす」

「本当にね。……それより、今日泊めてくれる村をとっくに過ぎたのだけど、ご主人様はどこまで行くつもりなのかしら」

「ご主人様って言ったら怒られるっすよ、ルナ先輩」

「ごめんなさい。……あんなにはしゃぐソル様、久しぶりだったから」

「あの笑顔に惚れたんだもんね」

「……口ばかり忙しくても嫌ね。対人訓練でもやりましょうか、メケメケ」

「嫌っす疲れたっす可能であればウチだけ先に村に行きたいっす!」


 〜・〜・〜・〜・〜


「いや実におそ……ゲフンゲフン!ようこそいらっしゃいました冒険者様、道中なにかトラブルに巻き込まれたかと心配になりました」

「「本当にすみませんでした」」


 あの後も大はしゃぎしていた2人だったが、Aランクモンスターをちらっと覗いた瞬間に我に返り、現在は大遅刻をかました村にて、代表のものと思われる30代後半程の男性に平謝りをしていた。

 ちなみに時刻は21時半を少し過ぎた頃。わーうるふには既にギルドから泊まりの任務になると伝えてもらっているらしいので、心配をかけることはないだろうと昴は考えている。

 ……そもそも、確か慶次も勝間も泊まり込みだったし、大丈夫だろう。


「しかし、まさかソル様がいらっしゃるとは……。ささやかではありますが、歓迎の食事を用意しております。旅のお疲れを少しでも癒してください」

「心遣い感謝します。ですが、今大変なのは村の方でしょう。我々は食料を持ち込んでいますから。その食事は皆に分けてください。それから、シュバルツ!」

「はい!」

「グリゴッソ、デラバード、パララビット、ビグロッグをバッグから出してくれ。丸焼きにすればこの大きさの村になら行き渡るはずだ。解体は任せてもいいでしょうか?」

「よろしいのですか?」

「遅刻の詫びに替えさせていただければ幸いです」

「ありがとうございます!おい、肉屋を呼んできてくれ!」

「……ふぅ、シュバルツが魔物を狩りまくってくれたおかげで助かったぜ。ありがとな」

「いえ……。」

「あん、どうした?」


 唖然とした。

 なんだか元気のない村だなとは、昴も感じていた。しかしそれは夜遅いからだなと1人で納得したつもりでいた。

 これが経験かと、そう思った。モンスターを倒して得られる経験値とはまた異なる。時間と関わりの中で培う社会経験。

 ルナとメケメケをチラリと見ると、2人とも心なしか嬉しそうにしていた。

 ステータスでは劣るソル。それがどうした。

 紛れもなく彼がこの3人のリーダーであり、中心だった。


「そういうのも、真似したいなって」

「別にこれは好きにやりゃいいさ。したいからしてる。さ、明日は早くなるぜ。ゴブリンは夜行性だからな。朝から昼にかけての時間で巣を探し出して殲滅する。さっさと飯食って休もうや」

「はい!」


 〜・〜・〜・〜・〜


「メケメケさん」

「ん、どったのスバル君」

「2人部屋二つなら男と女に分かれるもんだと思うんですが、何故このペアになったんでしょうか」

「えー?決まってんじゃん」


 干し肉にてグリゴッソが牛肉に近いものであることも知りつつ、村が用意してくれた今日の宿にて、何故か一緒になったメケメケに対して、若干の距離を置きつつも昴は訊ねる。メケメケはニヤニヤとしながら、隣の家の窓を覗こうと顔を出していた。


「やらしい雰囲気にしたくてさっ!」

「一応聞きますけど仲間なんですよね?」

「仲間だから後押ししてんじゃーん。つかあの2人両思いだし。あ、違うわごめん。両片思いってやつかな?」

「え、何それくわしく……げふん!」

「取り繕うの遅いっすスバル君。ささっ、これをどうぞー」

「……これは?」

「最近王都で流行りの遠見レンズ」


 双眼鏡かよこれ、何流行ってんだ王都。

 ぶん投げたくなったが見るからに高そうな道具だった。一応いくら使ったか後で才途に報告する予定でいるため、心を冷静にしようと努める。


「まったくもう……。」

「スバル君使うの早すぎだよ」

「はっ!?」


 冷静になった結果、心に残ったのは好奇心と老婆心だけだった。つまりは野次馬根性である。


「……え、あの2人はいつから?」

「ご主人様のお父さんが蒸発する前は、ここらじゃ有名な家族の一家でねぇ。グランシャリオン家って言って分かる?5年前に取り潰されたから、街にきたばかりのスバル君は知らないかな?」

「貴族とは無縁の人生なので……。」

「そうなんだ。君の仲間含め結構いいところ育ちっぽく見えるからもしかしたらって思ったっすけど。まぁとにかくご主人様はそこの跡取りで、ルナ先輩はソル様の御付きのメイド。ついでにウチはそこの雇われメイド。まぁウチは家事スキルなんて持ってないからほとんど庭師として働いてたけど。DEXは上澄みっすからねウチ。それで、一家バラバラになるって手前に、ルナ先輩と、冒険者に一番忌避感のなかったウチはご主人様と一緒にエインワーズに逃げてきたってわけ」

「そうなんですか……。」

「あ、態度とか変えたら怒るからね。特にご主人……そろそろ言うのやめとこっか、癖になっちゃう。特にリーダーが怒るっす。そりゃ冒険者として立派にやってるのに昔のこと持ち出されたら怒るよね」

「それは大丈夫です。そもそも貴族相手の話し方とか分かりませんし、俺が今日知ったソル先輩は冒険者のソル先輩なので」

「うむ、よろしい。……まぁしかし、冒険者で日々忙しい毎日を送っていると、一緒にいるのが当たり前になってつい気持ちを伝えることを忘れちゃうのか、これがまー進展しないんすよ。定期的にルナ先輩をせっついてるし、リーダーもプレゼントの相談とか毎回ウチにアドバイスもらいに来るんではよくっつけやじれったいなと毎日思ってるんすけど。今日は中々ないチャンスっすからね。いつもなら雇ってる荷物持ちと相談することもなく男女に分かれるけど、今回はリーダーにちょっとスバル君のこと気になるって言っておけばほらこの通り!いい組み合わせになるって寸法っすよ!」

「待ってください知らない被害くらってるんですけど」

「でも嬉しいっしょ?可愛い女の子と一つ屋根の下っすよ?」

「っ……!……っぐぅっ!」


 かろうじてぐぅの音は出たがその通り過ぎて何も言い返せなかった。高専で過ごした女っ気のない毎日が、スバルの心を砂漠にしていた。水が与えられるというのならば多少毒が混じっていようとも飛びついてしまうのが、高専生の悲しきサガである。


「まぁスバル君にエサをあげつつ、あの2人の距離が縮まらないかなー、具体的には付き合わないかなーって思いながら今日は過ごさせてもらうよ。流石にえっちな雰囲気になったらここから風の魔術飛ばして妨害するけど」

「あ、それは止めるんですね。意外でした」

「え、当たり前じゃん。借りてる部屋だよここ」


 ……そこの常識はあるのかよとは、思ったが言わないことにした。


 ちなみにマジで何もなかったし爆速で隣の家の明かりは消えた。メケメケの荒れっぷりはそれはまぁ凄かった。

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