"出る杭"のなり方 3
「殺してください」
木曾昴くん無敵モードはきっかり5分で終わった。具体的にはメケメケにダル絡みしている最中にぷっつりと切れた。
「そうしてやりたいのは山々なんだけどよ、荷物持ちがいなくなるのは困るんだわ。既にお前のマジックバッグに食料ぶちこんでるし」
「些細なことじゃないですか!」
「些細じゃねぇよ、お腹空いたら困っちゃうだろうが。ほれさっさと立ち直れ。どうせこの先一気にレベルが上がるなんてことそうはねぇよ。俺たち4人の秘密だ」
「……ウン、ヤクソクスルヨー」
「ふっくく、言わない、うん、言わないから……。」
言いそうな人が2人いるんですけど。
顔が真っ赤になるのを感じつつ、しかしどう考えても自己責任でしかないので昴は唇を噛み締めることしかできなかった。真下に穴を掘って埋まりたい、今すぐに。
「つか、俺たち相手で良かったとも言えるぜ?お前仲間にあの姿見せられるかよ」
「無理です」
一生馬鹿にされる未来が確定する。
「そうだろうが。ポジティブに行こうぜ、シュバルツ。お前はラッキーだった。最悪噂が街を駆け回ろうとも、俺が言ったわけじゃないってことだけは保証してやるよ。あっちは……依頼を終えるまでに頑張って説得しろ」
「なんとかしてくださいよリーダー」
「悪いな、リーダーこのパーティーで1番地位が低いんだ……。」
なんとも世知辛い話だった。高専でも女はやたら強かったので昴は軽く同情する。腕相撲で柔道部をぶっ倒した文芸部の女子のことは今は思い出したくない。
「だから……お前がきてくれて良かった」
「はっ倒しますよ先輩」
〜・〜・〜・〜・〜
「お、金のなる草だ、採れシュバルツ」
「どれですか、どれのこといってますか」
「三歩右、まっすぐまっすぐ、はいしゃがんで手ぇぐっと伸ばしてそれ!」
「これ!……他の草と何が違うんでしょうか」
「全部引っ張ったら分かるっすよー」
「全部……うわっ、なんだこれ!」
昴が引っこ抜いた草は、30センチほどの触手のような根っこが2本ついていて、それがまるで走ろうとしているかのようにバタバタと動く。
ベシッ
「いたっ!結構力強いなこの根っこ」
「正確に言えばそれは根っこじゃなくてそいつの足だ。地面の栄養が足りなくなったら地上に出てきて魔力の濃い場所に走って移動する。根無草って言うんだ。MPポーションの素材の一つで売れるから取っとけ」
「これ仕舞えるんです?」
「足を適当な紐で縛れ。動けないようにしておかないとバッグの中で暴れ回ってバッグの中がめちゃくちゃになるぞ」
「えぇ……。こんな、もんかなっと」
「なんだ、手際良いな」
昨日才途を縛るのに使った麻縄で簡単に縛ると、その様子をソルに褒められた。ロープワークは授業で散々やったからなぁと高専を思い出す。
「マジックバックは拳一つ分常に開けとけ。咄嗟に中の物が必要になることがあるからな」
「拳一つ分……。こんなもんかぶへっ」
「ちょっと!?ポーションが目に突き刺さったわよ!?」
「だっははは!あはははげほっげほっ、ひーーーー!!」
「笑いすぎたメケメケ!テメェ縛り方はちゃんとしてんだからもうちょいちゃんとしたロープ使え馬鹿野郎が!!」
〜・〜・〜・〜・〜
「お、金のなる草だ。採れシュバルツ」
「また根無草ですか?ん?どこにあります?」
「金のなる草その2だ。そこの木の近くの目立つ花があるだろ。それに袋を被せろ」
「このボールみたいなのが、花、ですか?」
「おう。おっと花には絶対に触れるなよ。Cランクモンスターすら痺れさせる花粉が詰まってるからな」
「危ないなぁほんとこの世界!……はい、被せました」
「よーし、茎の半分を切り取って採取だ。それは使ってもいいし売ってもいい。お前にやるから肥やしにしとけ。ただ……。」
「?」
「根無草、もう一回ちゃんと縛っておけよ」
「もうアイツ捨てません?」
〜・〜・〜・〜・〜
「お、金のなる茸だ」
「採りますか?」
「分かってきたじゃねぇかシュバルツ。道中価値のあるものはバンバン採取していけ。ただあれは採らなくて良い、俺たちが貰う。ルナ!」
「"イル"」
「うわっ、キノコが見えなくなった!?」
「暗闇を作り出す魔術よ。そのキノコ、昼に触ると麻痺性の胞子をばら撒くの。ソル、採っていいわよ」
「おう。……あばばばばばば!!」
「あ、ごめんなさい手が滑って解除しちゃったわ」
「ルナ先輩、一昨日リーダーが朝帰りしたのまだ怒ってんすかぁ? そんなに気になるならさっさと告ればいいのに」
「メケメケ、揚げるわよ」
「まな板の上まで連れていけたら考えてやるっす」
〜・〜・〜・〜・〜
「なぁ、ルナ。なんで怒ってんの?」
「怒ってない」
「(ソルさんが痺れてた間の話は墓場まで持っていこう)」
ルナからじっと見つめられたのは、『言ったらこちらも言うぞ』という脅しだろう。昴はキツツキも引くレベルの速さで頭を縦に振った。
「ねぇ、シュバルツ」
「昴です」
「えっ?……?(ソルを指差しながら不思議そうな表情を浮かべる)」
「その人が一生間違えてるだけです」
「そ、そう。ごめんなさい。スバル、貴方の仲間にはINTの高い魔術師が2人もいると聞いたわ。名前はなんというのかしら」
「悦司と才途です。悦司は全部のステータスが高くて、才途は魔術特化って感じです」
「そう。……この街ではラスクさんの次に魔術に自信があったけれど、それも昨日までね。いつか抜かされちゃうのかしら」
「おめーもこれからガンガンレベル上げてきゃいいんだよ。この世はレベルだ。全部レベルが解決してくれるぜ」
「……ちょっと気になったんですけど。皆さんのレベルはいくつくらいなんですか?」
「私は73。冒険者を始めて4年になるわ」
「ウチ69っすね。同じく4年っす。で、リーダーが……。」
「昨日の夜にあがって114だな。こいつらとスタートは同じだ」
「えっ!?……みなさん、ずっと同じパーティーなんですよね」
「リーダーはウチらが寝た後にもレベル上げに行く人なんで」
「言っても聞かないから諦めたわ」
「仕方ねぇだろ。俺のステータスはオールEなんだからよ」
「えっ」
ソルの言葉に、思わず昴は声を上げた。さも普通のことのように言ったソルに驚いてしまったから。
「シュバルツ、お前はあのバケモンみてぇな仲間に囲まれてるから常識ってやつを教えておくぞ。Eランクは一般人、Dは冒険者を一生やっていくのに充分、Cは才能あり、Bで一流、Aは上澄み、Sは偉人でSSとEXは伝説だ。ルナ、俺間違ってるか?」
「いいえ。あなたは一般人よ」
「ありがとよ一流。分かったかシュバルツ、お前は才能のある人間だ。2レベルアップの影響があれだけ大きいのもお前のSTRが大きく上がったからだ」
「な、なるほど」
「そして同時に噛み締めろ。一つレベルが上がるたびに、お前の仲間はバケモンみたいに進化していく」
「……っ!」
すぐにでも思い出せる。4人の輝かしいステータス。それに比べればどうしても、自分のステータスは見劣りしてしまう。自分もこの世界ではやっていけるステータスなのだと言われても、それでも拭えないのだ。
「……だから、誰よりレベルを上げるんだ。レベル上げはいいぜ?なんせ限界がない。もしかしたらどっかで限界があるのかも知れねぇが、少なくとも昔倒された魔王のLv.819までは保証されてるから安心しろ」
「はっぴゃくじゅうきゅう!?」
「途方もねぇだろ!一歩一歩積み重ねていけ。誰よりも多く数を積み重ねれば、周りの大きな一歩にも置いていかれねぇからよ」
勝てる。そう言わないのはソルなりの優しさでもあった。
でも強くなりたいなら。
仲間と対等でいたいと、その原動力で戦えるのなら。
それは昔の自分と何も変わらない。だから安心して言えるとソルは感じていた。
(なんでぇ、ギルドから"異能を二つ持つ少年の調査"を依頼された時は、せっかく俺が目をつけたガキに余計なこと考えさせるんじゃねぇよと思ったが……。話してるかぎり普通の奴だな。ちょっと構いたくなる不思議な魅力があるが)
そんなソルの思惑などいざ知らず、昴は改めて自分を再確認しようとステータスを開き、そしてある点に目が留まる。
「……ソルさん」
「あん?どうした、休憩ならまだしねぇぞ」
「リーダー、スバル君まだ何も言ってない」
「レベルが5になってます」
「……あ?」
「ステータス、可視化」
他人に見えるようになったステータスを昴はソル達に見せる。そこには確かに、モンスターを倒したわけでもないのにレベルが5に上がっているスバルのステータスが示されていた。
「「「なんで?」」」
「いや、すみません。それ俺が聞きたいです」