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"出る杭"のなり方 2

「俺たちが依頼を受けたのはグンド山っつうところだ。麓に小さな集落があって、山を越えると第三都市ヴェルシーナがある。依頼の内容は山に作られたゴブリンの巣の壊滅及びゴブリンの殲滅。ゴブリンは分かるか?」

「えーと、はい。Eランクモンスターですよね」

「あぁそうだ……なんだそれ、魔道具か?」

「モンスター図鑑と地図を兼ねてるものだと思ってもらえれば……。」

「なんだそれクソ便利じゃねぇか、くれ」

「いや、コレ俺しか使えないんで。指を使った認証が必要で」

「指ごとくれ」

「結構無茶苦茶言いますね!?」


 あらかじめスマホで撮っておいたエインワーズ周囲のモンスターの情報を見直していると、横からスマホを覗き込んだソルに強請られる。


「そういうもんはしまっておけ。冒険者なんてガラの悪い連中ばっかりなんだからな。特に今後どんどんお前らに関わってくる低級のやつらは。そういう奴らは自分に使えるか調べてから奪ったりなんてしてこないからな。まず奪いに来る」

「は、はい。気をつけます」

「わかりゃいい。ただ便利なことにはちげぇねぇ。お前の仲間しか周りにいない時、あと俺のパーティーに入ってる間はガンガン使え。楽してこうぜ」

「分かりました!」

「おう。……お、いたな。おーい!待たせた!」


 エインワーズにある噴水広場には、ソルのパーティーメンバーがいた。ソルが手を振ると、1人は読んでいた本を片付け、1人はぶんぶんと大きく手を振って返してくる。


「リーダーおっそいよー。……お酒の匂いは、しないね」

「飲んで遅刻したと思われてたのかよ。飲まねぇっての」

「どうだか。飲まないのでなく飲めないが正しいと思うけれど」

「言ってくれんなぁオイ。っと悪いシュバルツ、こいつらがうちのパーティーメンバーだ。口うるさいのが魔導師のルナ。ちっこいのがシーフのメケメケ」

「よろしくお願いします、ルナさん、メケメケさ……メケメケ?」

「あー、うち母さんが子供全員に魚の名前付けてるから。呼びづらくてごめんねー」

「あ、いえ、大丈夫です!」


 メケメケのピタンパタン包み、魚料理だったんだ。ちょっとした謎が解決した瞬間だった。今度はグリゴッソのチェダル焼きが気になるところだが。


「本当なら荷物持ちに雇ってる奴がいるんだが、今はカラゾブートキャンプに参加してるからここにはいない」


 なんだろう、今どうしようもなく聞き返したい単語が聞こえた気がしたが、掘り下げるべきだろうか。

 しかしソルは平然と話している。昴はかろうじてやめておこうと自分を律した。


「代わりにシュバルツに荷物持ちを頼むってわけだ、よろしくな。魔術師との連携なんかも学べるはずだから、戦闘には参加してもらう。さぁ、まずはこれを飲め」

「これは?」

「レベルアップポーションー!っすね」


 昴の質問にはメケメケが答えた。


「スライムの魔石を砕いて粉状にして溶かした飲み物っす。飲んだらレベルが3に上がるっすよ」

「ルナ、俺の説明取られちゃうんだけど」

「知らないわよ。私も取ろうか?」

「やめて。……おい、そこの『どうしよう、これってめちゃくちゃ高価なものなんじゃ……。』って余計なこと考えて震えてるお前」

「なんでわかるんですか!?」

「それ5000エルだ」

「やっす!?」


 日本換算で5000円である。驚きすぎて手の震えが止まった。


「成人の儀に露店で売ってるからな、普通に。まぁお前もあまりの行列に気後れして買いそびれたクチだろうけど」

「……なんでこんなに安いんですか? 飲むだけでレベルが上がるのに?」

「レベルが2つも上がるのは必要経験値が少ないレベル1の人だけだから。それと、冒険者が死ぬ一番の理由が、レベル1の壁を変えられないことだからよ。安く設定されてあるの」

「あっ、また説明……。」

「レベル1はね、要は一般人なの。ステータスはあくまで伸び代を示すもので、そこに書かれているランクがどれだけ高くても所詮はレベル1、たかがしれてる。そんな一般人が初めての戦闘でモンスターに勝てると思う?答えはこの街の冒険者の少なさが教えてくれるわ。そのためのレベルアップポーションなの。飲んだらレベルが上がるということがどれだけ大事なことか、それこそ身に沁みて分かるはずよ」

「…….っつーわけだ。そもそもそのポーションはキク先輩が用意したもので、俺たちからの奢りってわけでもねぇ。お前が気にするならきっちり報酬から引いて先輩に返しておいてやるからさっさと飲め。流石にレベル1を戦闘に出せねえんだよ」

「キク先輩に叱られるもんねー。まぁリーダーはケチってレベル1でスライム倒しに行った伝説残してるけど痛い痛いよご主人様!」

「ご主人様って言うんじゃねぇ!!真似する奴が出るから言うなっつってんだろ!あの頃は没落したてで金がなかったんだよ!」

「……私たち2人分のポーションはきっちり用意したくせに」

「ルナー?聞こえてるし恥ずかしいからマジでやめてくんねー?……おい何見てんだシュバルツ。見せ物にするなら金取るぞ」

「すいません飲みまぁす!」


 ジロリと向けられた目がそこそこ怖かったので、誤魔化すように昴はレベルアップポーションを一気に呷った。

 瞬間、肉体が弾けるかのような感覚に襲われる。


「うあっ……あっつ……!?」

「普通はそうはならないんだけどな。一気にレベルが上がると肉体の変化、魔力の増強でぐっと体温が上がる。それは正常だ」

「ふぁああああっ!!」

「つぎに快楽に似た成分が脳から全身を駆け巡る。……あー。そこまで反応するようなアレじゃなかった気がするけど、正常だ」

「リーダー、あれほんとに正常かな」

「快楽に慣れてねぇガキかもしれないだろ!しっ!そんなこと言うんじゃありません!」


 なんだろう、とても失礼なことを言われている気がする。


「…………ふぅ。これが、レベルアップ、か。ソルさん、ゴブリンが俺を呼んでいます。はやく、いきましょう(吐息)」

「……えー、最後に、ステータスアップによる全能感に包まれ、る。うん、せいじょう」

「ねぇ、私達依頼が終わるまでこの子の面倒見るの?」

「ごめん、ルナ。俺もちょっと後悔し始めてる」


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