"出る杭"のなり方 1
短めです
「ぜえっ、ぜえっ、ぐっ、ふうぅ……!」
「へばったか?へばったのかシュバルツ?そんなんじゃどんどんおいてかれちまうなぁ!休むか、もう休んでしまうか?」
「……こなっ、くそぉおおお!!」
「よーし良い子だシュバルツ!街に帰るまでにレベル10の壁をぶっ壊すぞ!」
「っしゃおらぁ!!先輩!」
「なんだ!」
「"スバル"です!!」
「おう、シュバルツ!」
「くっそ全然わかってないんだもんなぁ!うぉおおおおおおお!!!!」
「……暑苦しい」
「いつもリーダーこんなもんじゃーん。まぁなんかちっこいの増えてるけどさっ」
グンド山に、野太い男の声が重なり響く。
大丈夫ですよ、話は飛んでいませんよ。
強いて言うなら時間が飛んでいるだけです。では巻き戻し。
〜・〜・〜・〜・〜
「指名が来ています」
「……なんですって?」
じゃ、俺たち勉強しに帰るわ!と悦司の首根っこを掴んでひきづっていった才途。
解体作業1000匹かぁ、モンスターの急所わかるならやらないかんなぁと。暗殺者職の冒険者と共に消えた勝間。
良いんすか!マジすか!俺めっちゃ頑張ります一生ついていくっす!と第二王国騎士団の騎士団長にウキウキで着いて行った慶次。
ギルドに着いた途端散り散りになった面子はどれも昨日の登録の時点で目をつけられていたらしく、サポートの依頼料の話もそこそこにレベル上げを開始した。
1人残された昴は、とりあえず依頼を出そうと才途から分けられたお金を引き出し受付へ向かう。そこでキクから想像もしていなかった言葉を貰い、思わず固まった。
「Bランクの冒険者パーティーからの伝言です。荷物持ちやってくれるならスキルとかモンスターの知識とか叩き込むぜ、とのことです」
「え、えーと……俺当ての指名で間違いない、んですよね?」
「困惑するのも無理はありません。本来登録したてのFランク冒険者のサポートには、EランクかDランクの冒険者が依頼を受けて入りますから。朝一番でBランク、Aランクのこの町でも有数の冒険者が集まり昨日の奴等に会わせろ、などと詰め寄ることはありません。ですが、間違いありません、スバル様。スバル様に関しては荷物持ちの依頼という形で出されているため報酬もあります」
「……詐欺ですか、詐欺ですよねこれ?」
「詐欺かどうかは、直接聞いてみてはいかがでしょうか……。なんて、大丈夫ですよ、スバル様。私の後輩なので、この子達」
「へっ?」
「どーも、姐さんの可愛い後輩、ソルくんでーす」
「へぇっ!?」
いつの間にか背後にいた、自分よりも背丈の大きい男性に昴は悲鳴をあげる。
「だっはっは!情けねぇ声!なに、俺は悪くねぇから謝らない!冒険者たるもの常に周囲に気を配るべし!だ!」
ソルと名乗る男は豪快に笑う。なんだか慶次のノリに似ているなと昴はここにはいない友人のことを思い出した。
「話は先輩から聞いたか?マジックバッグはあるか?」
「あ、はい!あります」
「等級は?」
「Aと聞いてます!」
「お、おう……うちのよりデカい容量じゃねぇか、めちゃくちゃ儲けたとかいう紙の君か?」
「ソル、神様を悪く言うようなら私がお前に指導するぞ」
「すいません姐さん!勘弁してください!!そんだけでかいバッグがありゃ充分だ。荷物持ちとして俺たちの依頼に着いてきてもらう。その途中で色々レクチャーしてやるっつう、ちょいと変わった形の指導になるが、やるか?」
一瞬だけ、考える。
普通ならありえない高ランク冒険者の指導、人柄についてはギルドが保証してくれているので大丈夫として、問題は自分自身。
どう考えても足を引っ張ることになる。良いのだろうか、昴は思案する。
「……んー?なんかしょうもねぇこと考えてる顔だな」
「しょうもっ、なくは、ないと思うんですけど」
「俺なんかが一緒にいて大丈夫なんだろうかって顔だ」
「っ!……はい、その通りです」
「大丈夫じゃねぇに決まってんだろ。これは指導であり、試練だと思いな。行きの安全は保証してやるから、帰りまでに着いて来れるよう成長して見せやがれ。……どうだ、お前は自分を追い込める奴か?」
なんてことを言うのだろうかと、そう思った。自分が足を引っ張ることを前提として、それでも自分を誘っている、そのことに。
「……あの、なんで俺なんでしょうか?」
その言葉には、色々な感情が混じっていた。ソルが昨日のことを知っているならば、尚更自分を誘う理由がわからなかったから。
昴の言葉にソルはあー、とうめく。ほおをかきながら、少しだけ気恥ずかしそうにいう。
「似てるからだ。俺のパーティーメンバーは優秀で、俺は落ちこぼれだ。でも俺のパーティーのリーダーは俺だ。俺が一番、"役にたつ"。俺は強さは教えてやれねぇけどよ。……あの化け物揃いのお前の仲間の中にいて、お前が一番役に立つ方法は教えてやれるぜ。お前を指導するなら、この街じゃ俺しかいないって断言してやるよ」
「……!」
ひどく単純なもので、悩んでいるのが馬鹿らしくなってしまった。
正確には、悩んでいるくらいなら、その時間でこの人に教えを乞おうという気持ちになった。
だから、
「スゥーーー、フゥーーー」
「出産か?」
「木曾昴!18歳!!」
「うわでかっ!?なんだ!?」
ソルだけでなく、ギルドにいる周囲の人の視線も集まったのが分かる。
しかし、恥ずかしさは二の次だった。
「特技は、気合いと、根性、です!」
「----上等だ」
誠意を見せた。伝わった。
ソルはニヤリと笑って昴へと右手を差し出す。昴は躊躇いなくそれを握った。
「着いてこいよ、シュバルツ」
「あ、昴です」
手を払った。