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文法とかしらねぇよ

「悦司、寝ないの」

「んー」

「あはは、お疲れなんじゃないですか?もうすぐお昼ですし、少し休んでも」

「そうだ、そうしよう。良いこと言うね、メリナさん」

「馬鹿タレ、まだ目標の半分も終わってないぞ。訓練から帰ってきた昴たちに笑われるのはお前なんだからな!」

「メリナちゃーん、なんか新しいこと始めるんだってー?」

「あ、うん!今日から新メニューだよー、食べてく?」

「いらっしゃいませー!……じゃあ俺は行くけど、悦司はここまで覚えるまで休憩なしだから。あとご飯何にする?」

「クリームシチュー……。」

「Cセットな、了解。ほら始めた始めた!」

「サイトさーん!B二つ、C一つ、Eが二つと大盛り一つ!あとスマイル!」

「はいよろこんでぇー!……男のスマイルなんて需要ないですよねお客様!ここはメリナのとびきり可愛いスマイルをどうぞ!」

「か、かわっ、にゃっ!?」

『かーわーいーいー!!』

「……どうしてこうなった」


 1人、シャーペンを握っている。目の前には途中まで化学で使っていたノートと、ギルドから貰っている資料の山。

 賑やかではあるがここにいつもの3人はおらず、唯一いる才途はエプロンを付け当たり前のように厨房に立っている。

 大嫌いなお勉強をしながら(させられながら)、悦司は今日の朝の出来事を思い返していた。


 〜・〜・〜・〜・〜


「才途、昨日どこで寝たの?」

「……ふふ、寝てない」

「何してんの、今日から仕事でしょ?」

「色々あったんだよ。おはよう昴、もうみんな起きてるよ」

「そうなんだよ!悦司すら起きててさぁ……疲れてたのかな」


 大部屋で起きると、自分1人だった。昴はいつもの流れでスマホの電源を入れ、ソシャゲのログインボーナスを貰おうとして……圏外のマークを見て、ここが異世界だと思い出した。

 昨日買ったばかりのこちらの世界の私服に着替え、寝癖はそのままに起きると、眠そうな3人と、朝から元気そうな1人を見つける。この男は寝てないくせになぜ1人だけ元気そうなのかと不思議に思いながら、眠そうな方の3人と同じ席に着いた。


「おはようさん、昴。朝ごはんはすぐ運んでくれる思うよ」

「おはよう勝間、それは?」

「カツサンド。慶次の方はべーコンエッグマフィン」

「ベーコンあるんだ、パンも」

「ちょっとパサついてるけど普通にうめぇぞ」

「良いね。悦司のはサラダ?それだけ?」

「朝はあんまり食いたくなくて。野菜全部分かんないけど美味しい。胡麻ドレだし」

「胡麻ドレあるんだ」

「ないよ、昨日作った」

「寝ろよ、ほんとマジで」


 厨房の方から返事をしてくる才途に思わずツッコミを入れた。今日から仕事だって何度も言っているのに、何をしてくれているのだろうか。


「俺もベッドだったら寝れたんだけどなー?」

「うぐっ」


 昨日のことを思い出す。そういえばこいつを寝れないようにしたのは自分たちだったと。


「……え?サイトさん昨日一緒にベッドで『メリナ、あっちのテーブルにカツサンド、ついでに感想聞いてきて』あ、はーい!」

「……勝間、悪いんだけど今度裁縫教えて」

「ええけど……家事スキルなかったっけ?」

「あれ長所をさらに伸ばすタイプのスキルらしくて、料理とかは食材の声が聞けるようになったんだけど、元々苦手な裁縫は適用外なんだよ」

「なんでトリコみたいな事になっとるか小一時間問い詰めたいけど、まぁええわ。なんか作りたいものあるん?」

「至急、抱き枕を」

「あ、作るんなら俺のも『うるせぇ!こっちは命がかかってんだよ!』……なにこいつ、Yogiboを神と崇める宗教入ってる?」

「この際助けてくれるんなら宗教でも入るよ……。はい昴、お待たせ。コーヒーはブラックでよかったよね?」

「コーヒーあるんだ。……作ってないよね?」

「コーヒーなんてどうやって作るんだよ」


 胡麻だれなんてどうやって作るんだよ。


 〜・〜・〜・〜・〜


「レベル上げをしたいと思います」

「っしゃあ!」

「え、仕事じゃないの?」


 才途の言葉に詳しく聞く前に雄叫びを上げた慶次は、荷物を持って出て行こうとしたところを勝間に羽交締めにされた。それを横目に見ながら、昴は才途に尋ねる。


「この宿で俺が働く代わりに宿代が浮きました。ってことで、本来なら日銭を稼がなきゃ金が減る一方だったのを、とりあえずしばらくは生活だけはできるってことで、しっかり準備をしたい。昨日昴がギルドから走り去った後にいくつか資料をもらったんだけど」

「それ言う必要あった?」

「まぁまぁ。……登録したての冒険者には、お金を払ってサポートに付いてもらえる制度があるみたいなんだよね。だからそこである程度戦いっていうのを教わろうと思うんだけど、どうかな」

「賛成、先生は必要やと思うよ。ゲームなら初見でなんも知らん5人で組んで遊んでもええけど、そうもいかんし」

「効率良く行こう。後で楽になるならなんでも良いよ」

「昨日ギルドで聞いたAランクの騎士様に弟子入りしてぇんだよ俺!さっさと行こうぜ!」

「みんなやる気だし、俺も賛成で」

「了解。それじゃ朝飯食ったらすぐにギルドに行こうか。慶次の言うAランクの冒険者が引き受けてくれるかは分かんないけど」

「俺だけ先行っていいか!?」

「良いけど金ないだろ。お前装備もツケ払いで注文してるんだから。みんな揃うまで待ってな」

「筋トレしてくる!」

「……アイツ、今から疲れに行くのになんで筋トレすんだよ」

「VITがあるから丈夫なんやろ。やらせとき、程々に疲れた方が慶次の操縦は楽なんやから」


 〜・〜・〜・〜・〜


「勝間はAランクの暗殺者が面倒見るじゃん」

「うん」

「昴はBランクの冒険者チームに着いていったじゃん」

「うん」

「慶次はAランクの騎士様に逆スカウト受けたじゃん」

「うん」

「……俺たち何してんの」

「勉強。正確には初級魔術のリストの全暗記の課題を言い渡されてわーうるふで勉強中だね」

「……はぁ」

「しょうがないでしょ、俺達魔術師は、"魔術を覚えることで経験値が入る"んだから」

「そこに不満はないけど、肩透かしを食らった気分なんだよ」


 才途と2人だからか、指導についていった3人を羨ましく思っているのか。悦司の口はよく回る。食事の提供を終えて皿洗いをしている才途とメリナがよく見えるカウンターに移動した悦司は、ゆっくりとシャーペンを動かしつつため息をこぼした。


「だ、そうですけど?メリナ先生」


 才途は隣のメリナへと話を振る。2人の指導は、メリナとメリナのパーティーメンバーが担当していた。先生と呼ばれることに多少のむず痒さを覚えながらも、メリナは真剣な様子で返す。


「大事だよ暗記は。咄嗟に使いたい魔術を反射で出せるようにならないと、冒険者は務まらないから。繰り返し発音するのも大事。長いものは噛んじゃうからね。まぁうっかり魔力込めちゃって部屋に大穴開けることもあるから大部屋ではやめて欲しいけど」

「あ、部屋の壁が一面だけ綺麗だったのってそういう……。だそうだよ?悦司学生?」

「今は休学中だろ。つか、仕事ばっかしてるけど才途はやってんの、暗記。後から来るもう一人の方が才途担当なんだろ?なんか怖いって聞いたけど」

「ラスクちゃんは怖くないよ!」

「そうだね、なんか美味しそうだね。……単語帳作ったから合間でチラチラ見てるよ。なんなら問題出し合ってみる?」


 テスト期間みたいなことをする奴だなと悦司は思ったが、紙にひたすら書く作業にも飽きてきたところだったので、提案に乗ることにした。


「……六属性の精霊の名前」

「火がエンヴィア、水がリュート、風がフウロ、大地がドリグラ、光がラン、闇がオル……じゃなかった、イル」

「形状指定、球、矢、壁、剣、波」

「5個もかよ。えー、クライブ、ファッス、プロッタ、ソルド、ウィーン」

「……正解。んじゃ」

「問題"出し合う"って言っただろ。次は俺の番だよ。じゃあさっきの答えを踏まえて、初級魔術、火の球」

「ファイヤーボールってことだろ?エンヴィア・クライブ」

「「逆」」

「あれっ」


 言われて悦司は自分のプリントに目を落とす。なるほど確かにファイヤーボール→クライブ・エンヴィアと書いてある。


「形状の指定が先だから。ファイヤーボールっていうよりボールオブファイヤーって感じ」

「魔術は想像のお絵描きみたいなものだって私は習ったかな。まず形を作って、そこに属性で色を塗るの。だからクライブが先」

「もう一問出すか。光の矢、大地の壁、大きな水の球」

「えー、ファッス・ラン、プロッタ・ドリグラ。大きな、大きな……。ラクライブ・リュート?」

「最後だけ不正解。形状の前にラを付けると複数回になるから、それだとウォーターボールを複数呼び出す呪文になる。"大きな"は"ルル"だから、正解は"ルルクライブ・リュート"」

「……本当に合間だけでそれ覚えたの?」

「単語帳便利だよ?つっても悦司は見るより書く方が覚えられるんだっけ。なら書くしかないね。昴に負けるなー」

「……別に負けないし」


 才途の言葉に悦司はムッとした表情をし、再び整理した紙を見直し、書き足す。相変わらず眠たげではあるが、その目にはそれまでとは違う色の光が見えた。

 そんな悦司の様子を不思議に思ったのか、メリナは才途に耳打ちで尋ねる。


「……仲悪いんですか?」

「いや?そんなことはないよ。悦司のこれはライバル意識だね」


 悦司に気遣って少し離れた距離でメリナへと返事をする。しかしメリナはそんな才途の答えにあまりピンときていない様子だった。


「……なんというか、コレが勝間や慶次、俺だったら悦司はこんな反応しないと思うよ。俺たちなんて悦司の眼中にないからね。俺たち、理由は違えど5人でつるんでいるのは皆昴が中心にいるからなんだ。ステータスとか普段の様子だけ見てると分からないだろうけど。慶次は友情、勝間は恩義。そして悦司は、意識すらしてなかった昴に敗北してからの執着って感じかな。あらゆることで二度と負けない。そういう感情が昴には向けられてるってわけ。悦司のやる気を無理矢理引き出させるのは、いつもアイツだ。本来興味あることしかやらないからね、コイツ」

「スバルさんが……。」

「意外って言われるのは慣れてるから、頭の片隅にでも置いておいて。悦司、30分後にもう一回問題出すよ。20問正解でお昼ご飯にしよう」

「……。」


 悦司は頷きだけで返事をした。手と目だけが動き続ける。そんな様子に微笑んだ才途は、単語帳を片手に目の前のシチューの仕上げにかかる。


「サイトさん、一つだけ聞いても良いですか?」

「うん、なに?」

「サイトさんは、スバルさんにどういう感情を持っているのでしょうか?」

「あー……。」


 メリナの質問に一瞬、お玉を動かす手が止まった。


「期待、かな」

悦司メモ

各属性は精霊の名前、魔術は祈りの儀式から派生して生まれたもの←特に信仰心とかはいらない


エンヴィア→火属性の精霊、嫉妬の炎、エンヴィー→エンヴィア


リュート→水属性の精霊、流動→リュート


フウロ→風属性の精霊、ひこうジム


ドリグラ→大地属性の精霊、ドリル→ドリグラ


ラン→光属性の精霊、爛々と輝く→ラン


イル→闇属性の精霊、隠+夜→イル←2文字だから変に覚えない


エル→癒しと豊穣の"女神"、エール→エル



※中級、上級魔術は属性の名前が変わるらしい、最悪

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