お前床な
ステータス登録回というある種の義務部分を乗り越えたので、ここからは好き勝手にキャラを動かせるの楽しすぎます。
コレからも愛すべき馬鹿5人をよろしくお願いします。
「うう、ムカつく、美味しい、ムカつく……。」
「文句言うか褒めるかどっちかにしてくれない?」
「ウマつく」
「馬作るな」
「食いそびれたとんかつがまた食えるなんて……。」
結局待ちかねた才途によるとんかつの4文字で出てきた昴だった。仕方がないのだ、二度と作らないぞとか言われたら出てくるしかないのだ。たとえちょろいと言われようとも、食欲には逆らえなかった。
「卵はあるし和風出汁も作れるんだけど、米がなくてさ」
「いやいや十分よ、食える思ってなかったし」
「一応そうめんを代わりに使う案もあったんだけど」
「絶対やめろよ、マジで」
「とんかつふにゃふにゃなってまうやん」
本当に止まってくれてよかったと昴は思った。
「とんかつで立ち直る程度のメンタルなら慰める必要無かったな」
「悦司そんなこと言わんの。心配やったやろう?」
「今日どこで寝ればいいかは心配だった」
「テメェ」
「つかよお、引きこもるほどのステータスか? Dなら冒険者やれるってキクさん言ってたし、昴のSTRはC-だったろ? なに不貞腐れてんだ?」
「そりゃ落ち込みもするよ……。1人だけ足手まといじゃん。ユニークスキル?っていうのもなかったし」
「Aクラスのスキルあったじゃん」
「体調管理な!……ステータスオープン」
昴が呟くと、目の前に先程登録したステータスカードの表記がホログラムで浮き上がった。冒険者登録をした者なら誰でも使える魔術である。MPを消費することもないので、慶次でも使うことができる。
「病気にかかりづらくなり、怪我の治りが早くなる。言ったらそれだけのスキルだよ。どうするんだよ」
「ステータスオープン。訳もわからない、科学のあんまり進んでない異世界で病気になりづらいのは充分優秀なスキルだと思うけどね。俺の体調管理Fは逆に病気にかかりやすくなるんだから」
「デメリットのあるスキルもあるんだ。俺てっきり、才途のそれは効果の薄いちょっとした免疫力くらいのスキルだと思ってたよ。……あれ、それじゃ不運Aって」
「LUKが2段階下がるスキル。だから元々はE-じゃなくてもうちょいマシなLUKだったんじゃないかな。悦司が羨ましいよ、世界一の幸運持ちさん?」
「しかもLUKってレベル関係ないステータスなんやろ?ギャンブルで生計立てれるんやない?」
元々幸運だとは思っていたが、ここまでとは思っていなかった。しかしそんな昴の思いとは裏腹に、とんかつの一番脂身の多い端っこの部分をつまみながら、いつもと変わらない眠たげな目で悦司は言う。
「行くのがめんどい」
「ままならねぇな!」
宝の持ち腐れとはまさにこのことだろう。とはいえ日常生活をただ送るだけでも、運が絡むことなどいくらでもあるのだが。
「ところで話変わるけどさ、勝間だけレベル上がってたじゃん。アレなんだったの?」
「サドルで昴殴ったからその時に経験値入ったんやない?」
「誰がモンスターだ」
「「流すな、昴をサドルで殴るな」」
そっか、先に行ってた2人は知らないんだっけと、実はまだじんわり痛いこめかみを触りつつ昴は思った。しかし容赦ない男である。寝ていたのは自分とはいえ。
「というか、原因なんて一つでしょ、ねぇ勝間?」
「うーん、才ちゃんこれ言わんとダメ?……ダメかぁ。あれはね、多分猪やね。島で罠かけて殺したやつ」
「地球の経験値ってこと?でもそれじゃ他4人がまっさらなレベルなのおかしくない?」
「虫とか寮で出るもんな、あと蛇もか?」
「蛇はともかく、慶次は虫殺すときに命の危険を感じた?スズメバチじゃなくてゴキブリとか蚊とかでしょ?」
「……いや、ねぇな。それに、あんなの倒して経験になるとも思えねぇわ。俺も猪狩ってればなぁー!」
「他に理由がないってだけで、猪じゃなかった時の骨折り損感がヤバいけんやめとき。……才ちゃん、しばらくはギルドに通って依頼とかレベル上げとかすることになるんかな?」
「多分ね。魔道具の補填で金半分くらい減ったし」
「はぁ!?俺らの金なくなったの!?」
悦司が聞いたことのない大声を出した。しかし才途はそんな悦司に瞬時に顔を寄せ睨む。
「元々、全部、俺の金」
「……うっす」
「珍しい、悦司が負けた」
「ど正論だからな。俺らもなんか売れないかな」
「売るなら俺に預け?交渉術のスキルがあったし、悪いようにはせんよ?」
「あ、じゃあこれ追加のコピー用紙。3割勝間の取り分で良いから頼むね」
「慶次、悦司!俺らもカバン漁るよ!」
「「よしきた」」
「割と宝の山になりかねんのがおもろいなぁ」
「そこらへんの情報収集も今後は勝間に任せていいかな?今回は俺がやったけど、向いてるのは勝間の方だと思う」
「かまんよ。その代わり才ちゃんは文献とかこの世界の歴史関連頼んでいい?シンプルに読むスピードがダンチやろ、この中やと。4人が一冊ずつ読んどる間に才ちゃん4冊読めるもんね」
「じゃあ俺が情勢担当、勝間が経理担当で。メリナさんー、ちょっと良いかな?」
「はい、なんでしょうか?」
「5人で30日宿泊希望だとどれくらいエルが必要か聞いて良い?できるだけ値段抑えめ、朝食はありで」
「それだとスバルさんがさっき入ってた大部屋が4人用ですね。ベッドは?シーツ交換ありだと料金追加ですけど」
「流石に必要」
「あの部屋で一応5人寝ることは可能ですけど、ベッド5つは入らないですよ?」
「じゃあ2人部屋、3人部屋の2つに分けれる?」
「……部屋の空きが、ちょっと」
「走れ。早い者勝ちだ」
「っしゃ!」
「え。ちょ」
才途とメリナの会話を聞いた瞬間、悦司と慶次が飛び出した。あまりの早さに才途が慌てる。
……遅れてられない。流石に自分も今日はゆっくりベッドで寝たい。そう思った昴は、元々は手持ちのお金を分けるために下ろしてきていたバッグの一つを勝間に投げ渡しながら、叫ぶ。
「勝間、中に縄!」
「えぇやん昴、才ちゃん悪く思わんでよ!」
「そんな不穏な言葉聞いて俺が抵抗しないとでもぶふぉっ!?」
「才途、カバン返すね!それじゃ!」
「ほいいっちょあがり」
「ふふーふ!(はえーよ!)」
あまりに完璧な連携により、大部屋のベット割り振りが即座に決められた。才途は口にガムテープを貼られた状態で、縛られた縄でバランスを崩し食堂の床に転ぶ。
『おやすみ!』
(……金、全部持ってわーうるふから出ていってやろうかな)
コレは仲間と言えるのだろうか、否、きっと言わない。才途は不穏なことを割と現実的に考え始める。
「……えっと、サイトさん。流石に雑魚寝は嫌ですよね?」
「……そりゃあね」
口のテープを剥がしてくれたメリナは、才途へとしゃがみ込んで、心配そうな声で問う。怒りで苛立ちながらも、関係のない彼女にはできるだけ優しく取り繕うように才途は返事をした。頭の中はいかに奴らに仕返しをするかでいっぱいになっていたが。
「宿代をタダに、さらにサイトさんが快適に過ごせるように用意させていただく代わりに、お願いしたいことがあると言ったら、才途さんはどうしますか?」
「……詳しく聞かせてもらえます?」
時計は22時。本来なら夜更かしを始める時間帯だが、この世界では既に静かな夜だ。
コレが今日最後の大仕事かなと、才途は静かに覚悟を決めた。