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第4話 幹部会議、そして……

 魔王復活の儀式という茶番は、群衆の見守る中、無事成功した。

 やることはシンプルで……


1.生贄であるわたしが『変身術』を使いジャグナロに変身。

2.ダインが『転移術』によって、鉱石化したジャグナロを転移。


 という単純な方法だ。

 『転移術』では魔力を強いものを転移するほど大きな魔力が要求され、距離が伸びるほどさらに消費が大きくなる。ダインはこの問題をあらかじめ地下室を用意して、そこに数メートルだけ転移させるという手段で乗り切った。

 また、変身や転移に違和感を持たれないため、儀式の一環という名目で火薬や閃光のふんだんに使った。


「……この演出は本当に必要なのか?」


 そう思ったのは、おそらく一人や二人ではないだろう。

 しかし、元々バンドや料理などの派手な催しも準備されていたため、何とか“そういうイベント”という体でゴリ押すことができた。

 煙の中から現れたジャグナロ(わたし)は、よろめきながらも手を振った。

 歓声が巻き起こり、ダインは安堵の涙を流しながらそれを出迎えた。


(ああ、命懸けの茶番がうまくいってよかった……)


 おそらく、わたしも許されるのなら泣いていただろう。

 こんな綱渡りの復讐劇を、楽しそうと思ってしまった自分を呪うしかなかった。



              ♢ ♢ ♢ ♢ ♢



 セレモニーの翌日、慣れない歌や食事による疲れも癒えない状態で、わたしは城の会議室に呼び出された。

 もちろん、魔王ジャグナロとしてだ。


「えー。これより、魔王国幹部会議を行いたいと思います」


 ダインが集まった席を立って告げる。


「ジャグナロ様は復活したてで記憶も曖昧な部分があるそうなので、進行は私が努めさせていただきます」


「よろしく頼む」


 わたしは指導通りの演技でダインを労う。

 幹部達は魔王直々の指名ともあって、それを受け入れたようだ。


「それでは、各幹部たちに自己紹介か現状を報告していただきましょうか……」


 わたしは円卓についた6人の幹部を見渡した。

 人間(ダイン)、ピアスを空けた吸血鬼、肌の白いエルフ、年老いたエント、竜人の少女、肥満のゴブリン……。

 魔王国の混沌具合を示す顔ぶれだ。

 彼らは側近であるダインを除き、それぞれがジャグナロより任された領土を治めている。


 1人目はダイン。説明不要の共犯者だ。

 裏切られる前にこいつがどれだけジャグナロを慕っていたかは、演技指導の中で引くほど理解出来た。

 だからこそ、裏切りが許せなかったのだろう。


「では、時計回りで行きましょうか。まずは『不夜城』のタワーさま」


「おっけー。オレっちからね」


 ダインからのバトンを受け取ったのは、不死の街を支配する吸血鬼の青年だった。

 タワーはチャラい言葉遣いながらも、魔王への祝辞、自己紹介を済ませ、領土の情勢を簡潔に報告した。


 残る4人の幹部も次々と自己紹介を済ませた。

 『霧岬(きりみさき)』のエルフ、『屍渓谷(しかばねけいこく)』の竜人、『大樹海』のエント、『迷宮都市』のゴブリン。

 名前とプロフィールは割愛。

 わたしも現状ではほとんど覚えてないないし、ダインにも少しずつ覚えておけばいいと言われていた。


 防衛的観点で重要なのは、敵対する帝国と隣接する地域である『大樹海』、『迷宮都市』のようだ。

 この二つの領土付近では、常に小競り合いが起きているとのことだった。


「オレが不在の間、防衛ご苦労だった」


「何をいいなさる。あなたが勇者アロウを殺せなければ、勇者レンカのときのように国が半壊していたかもしれませんよ。あなたは英雄だ」


 エントの幹部にフォローを受ける。


「これからオレは各領土を回り、首都からの支援の方針を固めるつもりだ。まずは国境にある2つの自治区に向かおうと思う」


 わたしは脚本通りに話を進める。

 本来ならジャグナロの秘密を探るため、竜人の支配する『渓谷』に向かいたかったが、国防を優先したほうが自然なのと、ジャグナロと親交の深かった竜人たちとの謁見を先送りにしたいという理由があった。

 加えて、『迷宮都市』にはジャグナロ討伐のために必要な、“ある武器”があるという事情もあった。


「それならば、是非ワタクシ、バングの治める『迷宮都市』へといらっしゃってください」


 その提案を待っていたとばかりに、ゴブリンのバングが名乗り出る。

 バングは巨大かつ肥満体型のオークで、体中に宝石を付けている男だ。

 見るからにわたしの苦手なタイプだ。

 その薄っぺらい態度の裏側がどうなっているかは想像に難くない。


「よかろう。日付については決定次第使者を送る」


 こうして、会議についてはあっさりと終了した。



              ♢ ♢ ♢ ♢ ♢



 わたしは執務室に着くなり、『変身術』を解いて大きく息を吐いた。


「はぁ~~~~」


 正直演じること自体は楽しんでいるが、流石にこの人数を相手にするとなると疲労の方が勝る。


「フィルデ。最後の“よかろう”は、“いいだろう”の方が正しいです。私ならまず違和感を覚えます」


 ダインは相変わらず、気持ち悪いまでのジャグナロオタクっぷりを見せつけてくる。


「あー、わかったわかった。でも、これで当分幹部5人を同時に相手にすることはない。だいぶ楽になったな」


「どうですかね。ああいった大人数。それも会議の場だと踏み入った会話にはなりづらい。むしろ、正体はバレにくいと思います」


「……それもそうか。なら、本番はこれからか」


 これから各自治区を回るうえで、幹部との一対一の場面も増えるだろう。


「とくに個人間で交わされた会話などを持ち出されるのはまずい。記憶を取り戻すのには時間がかかる。あるいは、不可能だと納得させる必要があるでしょう」


「そうだな……まあ、今日はもう寝るよ。昨日のセレモニーから休み無しで疲れた」


「はい。明日は休養日に当てていますが、一応、昼前に起こしに来ますね」


「わかった」


 わたしは軽く手を振って、執務室と繋がっている自室へと向かった。

 執務室同様、自室は盗聴や透視の心配のない数少ない空間だ。

 わたしはシャワーを浴びると、髪を乾かしてから、ベッドに寝そべった。


「婆ちゃんやベルタに会いたい」


 ベッドは実家のものより、ずっと柔らかく心地よかった。

 それなのに、終わらない悪夢を見始めてしまったような感覚が消えない。

 まるで、目の前に黒い霧がかかっているようだ。


(今みたいに……)


 わたしはふと、本当に目の前に黒い霧のようなものがかかっていることに気付いた。


「えっ?」


 霧が晴れ、空中に突如人間が現れる。

 角の生えた皮膚の浅黒い金髪の少年、その手には輝く何かが握られている。

 暗殺者のナイフの切っ先は、わたしの喉元へと真っ直ぐに向いていた。

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