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第42話 白竜石争奪戦11 『変身術』の神髄

 エルドは息を切らしながら敵の戦力を分析する。

 ひと足先にこの場に着いたミリアムの不意打ちでは殺せなかった。

 おそらく、今の自分でも無理だっただろう。

 単純にブルクハルトの側近が強く、“黒霧”解除後の反応が早かった。

 加えて部下が10人、これも侮れない。

 もちろん、ブルクハルトもいる。ミリアム曰く彼は即死の魔法を使えるそうだ。


(間に合ったはいいが、このままじゃ死体が2つ増えるだけ――相手はそう、思ってるだろうな)


 エルドは突然、敵のいない虚空に向けてナイフを投げた。


「はあ? なにやってんだ?」


 ナイフの飛んだ先には教会の鐘があった。

 鐘はナイフがぶつかると、大きな音を立てて鳴り響く。


「くく。まさか、その鐘で仲間を呼ぼうとでも思ってんのか――」


 笑いかけたブルクハルトの部下の言葉が止まる。

 教会の主屋の方を見て、ブルクハルトでさえ固まった。

 教会から煙が上がっている。


「ミリアム、全員いるんだよな?」


「うん。少なくともわたしが知っている子は全員ここにいる」


 ブルクハルトは苦虫を噛み潰したような顔になった。

 鐘の音はともかく、狼煙まで上がっている。

 こういう異常事態にが起きた場合、とりあえずで駆け付けられる男がいる。


 『転移術』の使い手、魔王国幹部ダイン。


 それは、エルドが期待している人物でもあった――が、その数秒でダインが姿を見せることはなかった。


「……ふ。あの野郎が助けはこねえな?」


 そのことにブルクハルトは内心安堵しているようだった。


「おめえら、白竜石は持ってねえようだが、それで交渉できるだなんて思ってねえよな?」


 ブルクハルトは低い声で聞く。


「どうせその様子じゃ、大して隠す時間もなかったはずだ。おめえらを殺してからゆっくり探せばいいだけだ」


 指で合図を送ると部下達が襲いかかる。


「ルドラ・クラック・ティフォン!」


 その瞬間、業火が地面を走り、ブルクハルトの部下とエルド、ミリアム、さらに子供たちを分断する。

 ブルクハルトは詠唱の聞こえた教会の屋根の上を見る。

 そこには黒髪の魔女――フィルデが杖を構えて立っていた。


「……教会の炎を利用したのか」


 フィルデはブルクハルトを見下ろしながら、子供たちに向けて叫ぶ。


「教会の方に逃げろ!!」


 子供たちのうち年齢の高い数人が、それを聞いて率先して誘導を始める。


「屋根の上だ!」


 部下の数人が遠距離魔法を放つ。

 フィルデは難なくそれを躱し、頭上からなおも声を上げる。


「エルド!! やるぞ!!」


 エルドはその声掛けで体から痛みが消えた気がした。

 エルドが部下の1人に斬りかかり、それをフィルデが炎を操ったり、地面を隆起させる魔法を使ったりして援護する。

 エルドが1VS1をできるよう、ブルクハルトやスヴェンといった強者が介入できないよう、とにかく分断に力を入れた。

 当然敵は炎を消したり、逆に操ろうとしたりしたが、戦場を俯瞰するフィルデは絶え間なく妨害を続ける。


 時間をさえ稼げば、エルドは数秒で1人というペースで敵を殺していく。

 遠距離魔法は魔法学校の面々に比べれば低レベルで難なく躱せる。

 2人は息のあったコンビネーションもあり、僅か1分ほどの間にブルクハルトとスヴェン以外の敵を一掃した。


 そのころ、秘書のスヴェンが炎をようやく消し終わる。

 焦げた中庭には、フィルデとエルド、ブルクハルトとスヴェンだけが立っていた。


「お前ら、何者だ……?」


 ブルクハルトは怒りよりもまず困惑した。

 これほどの実力者は早々いない。

 この僅かな時間に見た動きだけで、テオドールやウルリケよりも上だとハッキリわかる。


「通りすがりの魔法使いだ」

「通りすがりの暗殺者だ」


 2人の声が重なった。


「……スヴェン。暗殺者の方は任せる」


 ブルクハルトは大きく息を吐き、覚悟を決めた。


「はっ!」


 スヴェンとエルドの戦いが始まる。

 同時に、ブルクハルトは地面を強く蹴り、フィルデの方へと向かった。



              ♢ ♢ ♢ ♢ ♢



 ブルクハルトは咆哮とともに中庭の岩を砕き、教会へと投げつけた。

 フィルデは『変身術』で体を軽量化させ、ふわりと攻撃を躱すとその地面に着地した。

 教会は火災と先程からの魔法攻撃で、すでにボロボロになっており、すでに屋根の上にいることもできないような状況になっていた。


 ブルクハルトはようやく地面に降りたフィルデに向けて襲い掛かる。


「ルドラ・メテオライツ・ティフォン」


 フィルデは火球を操りブルクハルトへと放つ。

 しかし、ブルクハルトが右手を前に出すと着弾直前に、火球は潰れて消滅した。


「なるほど……近くの空気も圧縮出来るのか」


 フィルデは空中に逃げるが、それを待っていたかのように、ブルクハルトは手に隠してい拳大の石を空中に放る。

 咄嗟に身を翻すが、石は右わき腹を掠め皮を抉った。

 フィルデはなるべく離れた場所へと着地する。

 その近くには『圧縮術』によって潰れた神父の死体があった。


(この手の魔法は……見たことがある)


 他者の肉体に介入するという点では、自身の肉体に介入する『変身術』にも近い。

 フィルデは極められなかったが、他者の肉体への介入する魔法の強さは研究の過程で十分理解していた。


「……こちらも全力でいかないと勝てる相手じゃなさそうだな」


 最強の肉体であるジャグナロを演じていたフィルデから見ても、ブルクハルトの肉体は非常に優れたもので、加えて魔力も並みの人間より遥かに多かった。


 フィルデは黒いローブを脱ぎながら、『変身術』を使い――ジャグナロへと変化した。


「……は?」


 その姿を見て、追撃のためこちらに向かっていたブルクハルトの足が止まる。


「ブルクハルト。悪いがお前は何も分からないまま死んでもらう」


 フィルデは最強の近接使いの相手に、敢えて接近戦を仕掛けるべく、こちらから間合いを詰めた。


「……くっ」


 ブルクハルトは混乱しながらも拳を構えた。わたしの繰り出す剛腕を咄嗟にガードする。

 拳がブルクハルトの腕にくい込むと同時に、『圧縮術』が発動する。

 わたしはその瞬間、体を砕けやすい鉱物に“変化”させ敢えてあっさりと潰させた。

 『圧縮術』が体に向かう前に腕ごと切り離す。

 その直後にジャグナロの腕を『変身術』で再び生やし、無傷のまま更なる一撃を繰り返す。


「グああっッ!!」


 ブルクハルトは訳も分からないまま、ジャグナロの拳を受け続ける。


(これが『変身術』での戦闘の極地……)


 魔王という役柄を演じるようになったこの半年ほどの間、フィルデは自分の『変身術』というものに人生で1番向かい合った。

 『迷宮都市』では戦闘への応用、単純に強い肉体になることの攻撃力の高さを知った。

 『霧岬』の経験を経て、『変身術』の副次効果、魂を別の殻で覆う防御力の高さを知った。

 今回の戦いでは『圧縮術』への対抗策として、『変身術』の不死性を最大限に使うことにした。


 体の構造をかえるということは、傷口や怪我を即座に無くせるのことに等しい。

 もちろん魔力切れという限界はあるが、『固有魔法』で且つ、この術を極めたフィルデにとってその天井はほぼ無いに等しい。


 ジャグナロの圧倒的なパワーと『圧縮術』を含むあらゆる攻撃の無効化により、ブルクハルトは一方的に殴られ続けている。

 ブルクハルトは最強の肉体と防御面でも優秀な『圧縮術』を持っている。

 それ故に、近接戦において防戦に回る経験などこれまでなかったのだ。


 一撃、一撃が確実にブルクハルトにダメージを蓄積していく。

 秘書のスヴェンは黒霧を使い翻弄するエルドを相手にしており、主を手助けする余裕はない。


「ふざ……けんなああああああああああ!!」


 ブルクハルトは激昂すると、両手を広げ『圧縮術』を空中に向けた。


「『圧縮術』奥義"星滅"!!」


 その瞬間、わたしの全身をかつてないほどの圧力が包み込んだ。

 体が動かない。

 地面がピキピキと音を立て、ブルクハルトは両手を前に突き出したまま、必死の形相でこちらを睨んでいる。


(周囲の空間をすべて圧縮してるのか。わたしの全身を満遍なく潰せば、『変身術』など関係ないということか)


 しかし、それは『圧縮術』の正規の使い方でないためかブルクハルトも見るからに消耗しており、傷口から血が噴き出している。

 フィルデの体からも血が吹き出し始め、微かに意識が朦朧とし始めた。


(凄まじい執念だ……)


 お互いの消耗を考えればこれが最後の攻防になる。


「ルドラ・ハンド・バジリスク」


 フィルデは予め用意していた“切り札”を――死角からの一手を切ることにした。


「ガッ……」


 ブルクハルトの背中に堅い鉱物が突き刺さっている。

 それは戦いの中で切り離したジャグナロの無数の手の1本。

 鉱物に変えた手の1つをフィルデは“爆発”させ、遠隔で動かした。


(あのバラバラのゴーレムを見ていたおかげで、この作戦を思いつけた)


 上手くいくかは賭けだった。

 従来、魔法攻撃は魔力の変換であるため、本人から離れた場所での発動は難しい。

 だが、ゴーレムのように自分の体の1部が遠くにある場合、そこを起点に魔法を発動させることができる。


 想定外の一撃にブルクハルトの『圧縮術』が微かに弱まる。


「うああああああああああああッ」


 フィルデはその瞬間に全力で『圧縮術』を突破して、ブルクハルトを殴り飛ばす。


「ぐっ……」


 さらに拳を握りしめて、腕を『変身術』で肥大化させる。


「魔奥義『ジャグナロハンマー』!!」


 その一撃は容赦なく頬骨を砕き、ブルクハルトの意識を奪い去った。

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