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第40話 白竜石争奪戦9 決別

 ウルリケとゾフィに変身したフィルデは、歓楽街にできた人だかりに駆け寄った。

 そこでは体をバラバラにされたテオドールが、周囲の酔っ払いに笑いものにされていた。


「おい、オメェら! 見せもんじゃねえぞ!」


 ウルリケは少しだけ狼化するとその圧倒的な体格とドスの聞いた声で周囲を脅した。

 酔っ払いたちは散り、ウルリケはすぐに体を縮小させた。


「おい、テオドール。獲物はどこにいった?」


「一旦、体を寄せてくれ。くっつけば時間はかかるが再生する」


「は、はい……」


 フィルデは無駄な問答を省くためにとっとと、バラバラになった鉱物の体を寄せた。

 ゴーレムの実験は魔法学校時代に経験している。

 体の部位などは存在しないため、とにかく近づけておくのがコツだ。


「敵の正体は鬼の少女と男だ。“黒霧”という『潜伏術』を使う」


 それを聞いて、フィルデは息を呑んだ。


(おいおい、その男の方ってエルドじゃないよな……いや、どう考えてもエルドか……)


 フィルデは一瞬楽観的な思考に逃げようとしたが、頭を振って受け入れることにした。


「会話を聞いた限りでは少女の方が盗みを働いた。男は顔見知りだかは知らないが、この状況に首を突っ込んだようだ」


「そんなことはどうでもいい。それで、やつらはどこに逃げた」


 ウルリケはとっとと標的を追いたがった。

 だが、テオドールはそれでも説明を止めなかった。


「その少女の方は孤児院となっている教会に住む孤児だ。その少女を殺して“白竜石”を奪い返せば、この事件は終わる」


「……それが犠牲が最小になると言いたいんですね」


 フィルデはテオドールが必死に伝えてくる意図を理解した。


「……ああ。らしくない察しの良さだなゾフィ。だが、その通りだ。奴らは教会に向かった。ブルクハルトもおそらく向かっている。どちらが先に着くかは分からんがな」


「分かった、教会だな。確か南の通りの外れにあったな? とにかくオレたちで“白竜石”を奪い返すぜ」


 ウルリケはそう言うが早いか、飛ぶように路地を駆け始めた。

 フィルデも急いでそれを追う。


「ウルリケさん、子供を見つけたらどうしますか?」


 路地裏に入ったところでフィルデが訊く。


「ああ? 殺すに決まってるだろ。どのみち、ブルクハルトが許さねえよ」


「あ、そうですよね」


(そりゃそうだよな)


 フィルデは納得しながらも、ウルリケの後頭部に向けて無詠唱で『爆破術』をぶつけた。


「――ガッ……ハッ」


 精度も威力も大したものではないが、それでも至近距離で放てば人1人を殺す威力はある。

 フィジカルに優れた狼女でも流石に一時的に意識に空白ができる。

 畳みかけるように『拘束術』をかけ、さらに杖で容赦なく急所を殴りつける。


「……ゾ、ゾフィ……」


「悪いが、わたしはゾフィじゃない」


 フィルデは一応正体を明かすために『変身術』を解いた。

 あとで殺し合いをされても寝つきが悪い。


「……うっ……」


「白竜石はわたしがもらうよ」


 多くは語らず、フィルデは気絶したウルリケを放置してそのまま教会へと向かった。


「エルドのやつ。ダインから話を聞いた可能性はあるな」


 子供の事情を聞いたうえでの立ち回りも考えられる。

 フィルデは走りながら、この歓楽街を飛び回っているはずのダインのことを考えた。


(あいつがブルクハルトについていれば、そうヤバい事態にはならないと思いたいが……)


 事件を収束させるには、惨劇が起きる前にジャグナロになるだけでいい。

 ダインが傍にいれば時間くらいは稼げるはずだ。

 フィルデはそう思いながら、場所もよく分かっていない教会へと向かって走った。



              ♢ ♢ ♢ ♢ ♢



 その頃、警護団長シークは『屍渓谷』の支配者である幹部のナティカの遣いに呼ばれ、自室を出て『不夜城』の一室に出向いていた。

 ダインの指示でシークへの報告に向かったケッテとは、すれ違いとなっていた。

 『不夜城』に着き、衛兵に案内を頼もうとすると周囲は騒がしかった。


「すいません。どうやら、城に大砲か何かが撃ち込まれたようで」


「そうか。それは大変だな。首都でもよく反権力のグリフォンたちが特攻しにきたり、魔法使いが魔王を出せと暴走したりするから分かるよ」


 シークは魔王国における警備がどれだけ大変か理解していたため、腕を組んで頷いた。

 シークは案内を諦め、ナティカの居場所だけ聞くとそこへと向かった。

 城の4階にある空き部屋にナティカはいるらしい。


(しかし、こんな密かに呼び出すなんてなんのつもりだろう)


 シークは彼にしては珍しくため息をついた。

 ダインは直属の上司であり恩人だ。

 ナティカは故郷の領主で、彼女もまた自分の能力を認めて育ててくれた恩人だ。

 事情を聞く限り、復活後のジャグナロとナティカの関係は芳しくない。

 こんな形で板挟みに会うとは思わなかった。

 気づくと、綺麗な装飾が施された扉の前に着いた。


「シークです!」


「遅いじゃない。入って」


 シークが扉を押すとナティカがなにか巨大な物体……机の上に置かれた棺のようなものを触っていた。

 嫌な予感がする。


「ナティカ様、それは……?」


 シークは途中で言葉を失った。

 その箱の上部はガラス張りになっており、中に1人の男ーーダインが入っている。


「っ……ダイン様?」


「『永久の檻』に入れた。これで厄介な転移は使えないわ」


「今すぐにダイン様を解放してください!」


 シークは怒りのあまり叫んでいた。


「相変わらず直情的ね。なぜ私がこんなことをしてるか考えないの?」


 2人の距離は5メートル程ある。

 シークは棺を破壊するため、懐に入れてした小型の槌を投げる。

 投擲の瞬間、彼の『固有魔法(ユニークスペル)』である『強化術』によってその強度を極限まで引き上げる。


「はぁ……ちっ」


 ナティカは苛立ち、棺の方を殴って槌の攻撃を回避した。ダインの入った棺が壁に叩きつけられる。

 その衝撃で壁にヒビが入ったが、棺には傷一つついていない。

 シークのハンマーは後方の壁に刺さって止まる。


「私の本気の殴りの方が強くて、それでも棺は壊れない。無駄なことはやめてよね」


 シークは刀を抜こうと思ったがさすがに理性が止めた。

 それをしたら殺し合いになる。

 そして、ナティカの『固有魔法(ユニークスペル)』との相性を考えれば、負けて死ぬのは自分の方だ。


「なぜ、このようなことを……」


「あんたの仕えてるジャグナロ――あいつ偽物よ?」


「は?」


「ダインもその共犯。こいつはジャグナロをおびき寄せるための人質」


 ナティカは簡潔に状況を説明する。

 すべては理解できないが、その飾らなさが、シークに彼女が言っていることが真実であると気付かせる。


「あんたの役目はただのメッセンジャー。『屍渓谷』に来るように伝えて。偽物、そこで決着をつけましょう」


 シークは言葉を失い立ち尽くす。

 ナティカはダインの入った棺を軽々と担ぐと、部屋のバルコニーから飛び出した。

 闇夜に溶けるようにして、翼をはためかせて『不夜城』を離れていく。

 そしてそのまま、この眠らない街から退場するのであった。

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