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第38話 白竜石争奪戦7 生肉デリバリー作戦

 ベルタは仮面の奥から、敵の戦力を分析していた。

 今蘇生させたお人好しの男を抜いても、不良の集団はざっと10人を越え20人に満たない。

 この人数いると厄介な『固有魔法』の持ち主の1人や2人いるだろう。なるべく迅速に対処しないと、いくら天才の自分でも事故が起きかねない。


「ねえ少年。きみ、そこの倒れている人以外で、他に頼れる大人とかいないの?」


「……えっ」


 ベルタが話しかけた隙を狙って、不良の1人が襲いかかるが、それを無詠唱の氷の刃が貫く。


「ぐあああああああ」


「やりがやがった! かかれ!」


「うるさいですね……」


 ベルタは土を隆起させ、それを氷で固めた壁を作り時間を稼ぐ。


「で、誰かいないの?」


 カイは不良たちの動きに気が気出ない気分になりながらも、懸命に頭を働かせる。


「……タワーさん?」


 思い浮かんだのは、教会に顔を見せない紅髪の領主だった。


「よかったです。わたしも知ってる人で。――ルドラ・トーチ・ティフォン」


 ベルタは高熱の蒸気で氷を溶かして煙幕を張った。

 彼が蒸気に動揺している隙に、さらにカイへと告げる。


「これから、キミを『不夜城』まで飛ばします」


「……えっ、『転移術』ですか?」


「いいえ。爆発で飛ばします。コントロールには自信があるので……」


 カイは少女の狂気に身を震わせた。


「……死にます、よね? あっ『防護術』か!」


「いえ、勢いが死ぬんでそのまま飛ばします。着地の際、きみは死ぬでしょう」


「…………」


 カイは絶望に言葉を失った。


「でも、予め『蘇生術』をかけるのですぐに蘇ります。生肉デリバリー作戦です」


 ベルタはそう言いながら、倒れたエゴンの方に杖の先を向けた。


「うっ……オレは何を……」


 見ると意識は朦朧としているようだが、エゴンの頭部の傷が消え、意識を取り戻している。

 その瞬間、カイの絶望が晴れた。


「分かりました!」


「いい覚悟です!」


 ベルタはそれを聞くと周囲への攻撃の手を緩めないまま、詠唱を始めた。


「白銀の巫女ベルタが 小さき生命への循環を司る」


 エルフ式の詠唱、時間はかかるが内への語りかけにより正確さは魔王国式の比ではない。


「神なる伊吹を内に秘め 流離う木の葉は枯れ果てる」


 詠唱が終わるよりも先に、カイの体が中に浮き始めた。

 何となくベルタの詠唱が不穏に感じる。


「肉は爆ぜて星となる されど地に落ちて新たな芽を紡ぐだろう」


「あっ、やっぱり滅茶苦茶怖いかもおおおおおおおお」


「『流星術』発動!!」


 カイの叫びを無視して、ベルタは杖を地面に突き立てる。


 爆音が響き渡り、同時にカイの体が砲弾のように『不夜城』目掛けて飛んでいく。

 その爆風は空き地の一体をすべてんだ。不良を巻き込み、夜の街を派手な閃光で照らした。

 強すぎる熱と光の後、周囲に静寂が訪れる。


 黒焦げの肉体は即座にベルタへと戻っていく。

 半裸のベルタは何事も無かったように粉々になった服を集め始め、焼けた喉を修復しながら呟く。


「自爆技……使ったのバレたら、お姉ちゃんに怒られちゃうな」


 それからベルタは、焦げた肉片となった不良たちの蘇生を始めた。

 もちろん、しばらく身動きが出来ない程度に。



              ♢ ♢ ♢ ♢ ♢



 こうして、カイは『不夜城』の一角へと見事に叩きつけられて死亡した。

 タワーは城壁に叩きつけられた遺体を見て息を呑んだ。

 原型を留めていないそれが、徐々に人間の形へと――少年の姿へと変化していく。


「なにが……起きているんだ……」


 周囲にいる衛兵たちも怯えながら武器を構える。


「うっ……怖かった……痛みを感じる前に意識を失ったけど……」


 少年が呻くように声を漏らす。

 衛兵たちが槍を付きつけようとするのを、タワーが制止する。

 この少年には見覚えがあった。


「……君はたしか教会の……」


 タワーはそう口にしながら、いつの間にか、子供たちの名前を忘れていることに気付いた。

 教会を建てた当時はあれだけ親しくしていたのに……。

 タワーの声を聞いて、少年が顔を上げる。


「タワーさん……。どうか、オレたちを助けて下さい」


 少年の目には涙が浮かんでおり、タワーはそれを見て、忘れていたことを思い出した。

 なぜ自分がこの『不夜城』の主になろうと思ったのか……。

 それは、こんな子供の涙を見ないためだったのに。



              ♢ ♢ ♢ ♢ ♢



 同時刻、劇場の個室で待機するブルクハルトの元に、探偵兼暗殺者テオドールからの使いがやってきた。

 子供は簡潔にメッセージを伝えた。


――白竜石を盗んだ犯人は『潜伏術』を使う鬼の少女。


 それを聞いて、ブルクハルトはすべてを理解した。

 怒りが消える代わりに、苦い思いが胸の中に渦巻く。


(安易な方法を選び過ぎたか……)


 それは罪悪感ではなく、自分の行動に対する単純な反省だった。

 だが、今さら過去を後悔しても仕方がない。


(こちらとしても気が重いが……取り返す方法は分かった)


 ブルクハルトは執事に声を掛けて、単身で『劇場』を出た。

 目指すは孤児たちの集う教会だ。

 ブルクハルトは雇った子供を訳あって殺し、その報復を受けたのだと気付いた。

 その行動自体は当然だとさえ思っている。

 無論、それと情けをかけるかは別の問題だ。


「とことん運の悪いガキどもだ……」


 ブルクハルトは明確に孤児たちを敵と見做した。

 理由はどうあれ、もう自分がやる行動は決めた。


――孤児たちを皆殺しにして白竜石を取り戻す。


 あと腐れがないよう、今度は1人残らず踏みつぶすことをブルクハルトは胸に誓った。

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