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第35話 白竜石争奪戦4 暗殺者の駆け引き

 エルドは“黒霧”を使って廃墟の外へと出た。

 布に包まれた白竜石はまだ、先ほど少女が倒れていた場所に落ちたままだ。


(オレがあの子を助けるまで……敵はオレの存在には気付いていないようだった)


 敵の殺気や視線が自分に向けられたと感じる瞬間は、少なくとも姿を見せるまではなかった。

 自分の“黒霧”であれば、自分の位置を悟られることはない。

 エルドはそう考えたうえで、白竜石を回収することを躊躇った。


(あの石は……敢えて回収していない可能性もある)


 エルドの“黒霧”を含む『潜伏術』では、自分以外の生物や魔力の強い物を即座に覆うことはできない。

 “黒霧”で包まれた服に入れたり、包んでいる布自体を“黒霧”で覆うなどのひと手間がいる。

 エルドが拾った瞬間、エルドの姿は見えなくとも必ず白竜石の方が動く。

 その瞬間を狙うのが相手の思惑に思えた。


(かといって、このまま……動かないわけにはいかない)


 エルドは近くに植えてある枯れ木を見つけると、そこに忍び寄り、何本か枝を切り落とす。

 白竜石に注意がいっていると仮定するなら、多少の工作をする隙はある。

 エルドは廃墟から少し離れた場所で、一瞬だけ“黒霧”を解いて数本の枝に『発火術』で火を点けた。

 木から出る白い煙は風に流され、ちょうど白竜石の落ちたあたりに流れていく。


(よし、うまくいった)


 煙で視界が塞がれている今なら、最小限のリスクで白竜石を回収できる。

 エルドは“黒霧”で潜伏したまま、一気に白竜石に近付いた。

 しかし、それと同時に煙に近付く人影があった。


(なっ……)


 それは先ほどの少女とは違う、別の小さな子供だった。

 ボロボロの服を着たまだ6歳ほどの子供は、煙にも躊躇わず落ちている白竜石の元へと駆け足で向かっている。


(ああ……そういうことか……)


 エルドは一瞬頭に血が上ったが、すぐに心の奥が冷えて冷静になった。

 おそらく、この子供は暗殺者に白竜石を回収するように“おつかい”を頼まれたのだろう。

 報酬は金かそれとも食糧か……。

 そのどちらでも、この子供のその場しのぎの生活の足しになることは想像に難くない。


(オレが子供を助けたのを見て、子供を利用すれば出し抜けると思ったんだな。煙幕を焚くのが早くて良かった)


 エルドは跳躍して、子供より先に煙の中へと入った。

 それから数秒後、子供が煙に入ってすぐに布を抱えて外に出た。

 エルドは“黒霧”を使ったまま、煙から出て廃墟へと向かう。

 その服の中には巨大な宝石――白竜石が入っていた。



              ♢ ♢ ♢ ♢ ♢



 トレンチコートを着た細身のゴーレム――テオドールは、子供が帰ってくると金貨を1枚差し出した。


「この布の中身ももらっていいんですか?」


「もちろんだ。どうせ宝石のような高価なものは入ってない」


 テオドールの予想通り、子供が布を開けると中には『不夜城』を模したガラス細工が紙に包まれて入っていた。

 それはエルドが観光中、フィルデに向けて買ったお土産の1つだった。

 テオドールにとって、子供が後れを取ることは想定内だった。


「それで、煙の中にはどんな奴がいた?」


「えっと、肌が黒くて髪が金色で、角の生えた男の人がいました。ぼく向けて、この布を手渡してくれました」


「そうか。貴重な情報をありがとう」


 テオドールはほくそ笑むと少年に向けて、もう1枚の金貨を差し出した。

 もともと、この子供が敵を出し抜いて白竜石が取れるなんて思っていない。

 ただ、子供を助けるような人物なら、子供相手なら隙を見せる可能性はあると思ったのだ。


「おそらく、あの子供と男は同じ鬼の一族。キミ、“鬼の少女と男が宝石を持っている”と、歓楽街の劇場にいるスヴェンというスーツの男に伝えてくれないか?」


「えっと……」


「大丈夫、テオドールの使いだと言えばキミをぞんざいに扱うものはいないよ」


「は、はい!」


 子供は貰った2枚の金貨を握りしめて歓楽街に向けて駆け出した。

 テオドールは改めて廃墟の方を見る。


「さて、敵の正体も分かり報告もこれで済むだろう。あとは獲物を追い詰めるだけだ……」


 廃墟の奥で微かに金属の擦れるような物音がした。

 立て付けの悪い裏口を開けて、獲物2人が外に出ただろう。

 盗みを働いた子供のことをおそらく、その男は見捨てられない。

 手負いの子供を連れた相手を追い詰める。

 あとは時間の問題だ。



              ♢ ♢ ♢ ♢ ♢



 (急がないとミリアムも危険なのに……)


 その頃、教会に住む孤児たちのリーダーであるカイは、頼りにしていたエゴンをようやく見つけた。

 エゴンは髭が濃くそのボサボサの髪のおかげで集団の中でもすぐに見分けがつく。

 酒場を出た場所で柄の悪い連中と何やら真剣な話をしていたが、カイの姿を見ると、そのしかめつらを崩して笑顔になった。


「よう、カイ。どうしたんだこんな時間に」


 エゴンは男たちの井戸端会議から抜けて、カイの元に駆け寄った。


「エゴンさん、忙しそうなところすいません」


「ガキが気にすることじゃねえよ」


「実はミリアムのやつがブルクハルトのところから――」


 カイがそう口にした瞬間、エゴンの顔から表情が消えた。

 周囲の男たちも会話をピタリと止める。


「ぬ、盗みを働いたみたいで……」


 カイは恐怖を感じながらも、勢いのまま続きを言ってしまった。


「……そうか」


 エゴンはカイの肩にポンと手を置き、口元を手で覆って背後の男たちの方を1度振り返った。

 男たちの視線がエゴンに刺さる。

 エゴンはカイの方に向き直ると、大袈裟な笑顔を浮かべた。


「なあ、カイ。ミリアムのところに案内してくれねえか? オレたちならお前らの力になれるかもしれねえ……」


「……はい」


 カイはそう言うとエゴンたちを連れて歩き始めた。

 重い後悔を抱えながら――。

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