第34話 白竜石争奪戦3 邂逅
ダインは数分間の転移ののち、ようやくベルタの姿を見つけた。
場所はカジノ。ケッテと並んでルーレットの台を囲みチップを数字に乗せている。
「ふーーーっ」
ダインは大きく息を吐いてから、2人の後ろに転移した。
「お2人ともゲームは上手くいってますか?」
「…………」
ダインの優しい声を聞いて、2人の表情は固まった。とっくに門限を過ぎている自覚はあるようだ。
なおさら良くない。
「申し訳ございマセン! 私がついていながら……」
「ごめんなさい。つい熱くなってしまって!」
「ふう……」
ダインは溜息をつき心を落ち着けた。
「実はお2人にも協力して欲しい事態になりまして……」
ダインは白竜石が盗まれたことを話した。
「ベルタさん。多少は危険を伴いますが、情報収集をお願いしていいですか? ケッテさんにも警護団の方々に報告をしていただいて、いつでも出動できるよう待機していただきたい」
ダイン自身はブルクハルトの面子を立てることに拘っていなかった。
大がかりに動くつもりはないが、ベルタやフィルデ、エルドには白竜石の回収のために動いてもらいたいと思っていた。
その間、自分はブルクハルトの様子を見ながら、現状をタワーに報告するつもりだった。
「承知しマシタ!」
「はい!」
「それでは、私はエルドさんを探して、その後はタワーさんのいる『不夜城』に報告に向かいます。何かあったら、分かるよう派手な魔法でも打ち上げでください」
ダインはそう言うと『転移術』でカジノから出た。
エルドを探すとは言ったが、2人と違って気ままに観光しているであろう彼を探すのは骨が折れた。
途中、柄の悪い連中が何やら興奮気味に話しているのを見かけたので、ダインは身を潜めて話に耳を傾けた。
「ブルクハルトのやつ、馬鹿な失敗をしたな」
「白竜石だろ。1億はくだらねえ……いや、魔王が欲しがってるもんを無くすとはヤツも焼きが回ったな」
「何としてでも俺たちが手に入れたいもんだな。帝国や『霧岬』のエルフにでも売れば、いい金になるぜ」
「あの牛野郎への嫌がらせにもなるんだから一石二鳥だぜ」
どうやら、ブルクハルトとは別の犯罪組織の構成員らしい。
この様子では街の悪党どもがこぞって白竜石を狙う事態になりかねない。
(エルドのことは諦めて、一旦『不夜城』に向かいますか……タワーが動けば牽制になるかもしれない)
♢ ♢ ♢ ♢ ♢
同時刻、エルドはダインの予想通り気ままに観光を行っていた。
歓楽街のゲテモノ料理店やカジノを回り、自由に動き回れないフィルデのためにお土産を買ったりした。
そんなエルドも、街の様子が少し変わったことには気付いた。
柄の悪い連中が血相を変えて、何かを探している。
時には人を脅して手荷物を検閲までしている。
「クスリや武器でも盗まれたのか?」
しかし、それにしてはあまりにも人数が多い。
「……仕方ない。密偵の出番と行くか」
エルドは『潜伏術』“黒霧”を使い、周囲の情報収集を始めた。
エルドは話を聞くうちに気になる単語を拾う。
「……白竜石が盗まれたらしい」
「しかも、犯人は不明だとよ」
「見つけりゃ一生遊んで暮らせる金になるってよ」
白竜石は今日、フィルデがジャグナロとして競り落とすはずだった品物だ。
(これは、1度フィルデやダインと合流した方が良さそうか?)
そんな会話をしている不良の3人組が路地裏に向かっている。
「この辺にガキどもの溜まり場があるんだ。もしかしたら、奴らなら何か知ってるかもしれねえぞ」
エルドはその会話が気に掛かり、あとをつけることにした。
不良たちがその路地裏につき、屋根のついた小さなスペースを漁る。
「おーい、カイ! ミリアムやメリタでもいい! 白竜石についての情報を知らねえかー?」
不良は周囲に聞こえるように叫ぶが、それに対しての返事は帰ってこない。
「ちっ、アテが外れたか」
「けけけ、お前のアテってガキしかいねえのかよ」
「んだと、だったらおめえもまともな情報――」
エルドは不良たちが揉めている最中、その路地裏から“黒い影”が動いていることに気が付いた。
(あれは……)
直感が自分と同じ『潜伏術』だと告げる。
エルドは路地裏で言い争う不良たちから離れ、その黒い影を追った。
(知らなかった。“黒霧”の状態だと、他の黒霧を使っている人間が見えるのか? それとも、相手の魔法の精度が低いのか?)
エルドは疑問に思いながらも、この潜伏している人物が白竜石について知っているんじゃないかと思い、尾行の対象を変更した。
やがて、街の外れにある廃墟についた。
エルドはそこで急に身震いをした。
異様な殺気だった。
自分に向けられたものではない、遠くから射抜くような冷酷な視線。
爆発音とともに何かが高速で何かが視界を横切る。
(あっ……)
エルドが尾行をしていた人物の“黒霧”が解けていた。
ぼろきれのような服を着た少女。
少女は倒れ足元に血が流れている。
その脇には布に包まれた、何か大きなものが落ちている。
再び殺気がした。
「おい、まさか。この状態の子供に……」
エルドは気がつくと倒れる少女の元へと走り始めていた。
風を切る音ともに黒い鉱石の塊が高速で飛翔する。
間一髪、エルドは“黒霧”を一瞬だけ解き、少女の体を抱えてその場から離れた。
「うっ……」
少女が呻く。気は失っていない。
“黒霧”は使っているが、抱えた少女にその効果は適用されていない。
エルドは急いで廃墟に入って身を隠した。
「君、大丈夫か?」
狙撃を行った敵の位置は遠いと判断して、エルドは一旦“黒霧”を解いて少女に話しかける。
さいわい、鉱石の弾が貫いたのは足の側面で出血も大した量ではない。
「……は、白竜石は?」
「今はそれどころじゃない。殺されるぞ?」
エルドの言葉に少女は目を見開いた。
「もう殺されてる。アレを失くしたら、全部が……無駄になっちゃう!」
「……分かった。分かったから、ここで足の傷口を抑えていろ」
エルドに迷う時間はなかった。
子供を殺そうとした暗殺者と、今懸命に叫んでいる少女――どちらの味方をするか。
「白竜石はオレが回収してきてやる」
そんなことは、考えるまでもなかった。




