第33話 白竜石争奪戦2 2人の魔女
わたしはダインから情報を聞き、早速劇場のVIP席を離れた。
最悪なのは白竜石が手に入らず、ナティカとの交渉が決裂することだ。
劇場内にある待機室――ブルクハルトの部屋に着くと、その前で秘書が待っていた。
「ジャグナロ様。よくぞおいでくださいました」
「ブルクハルトはいるか?」
「ええ。現在、早速白竜石奪還のため、3人の専門家と話し合いを行っております。ご覧になりますか?」
意外にも、秘書の方はあっさりと部屋への入室を許可した。
部屋に入るとブルクハルトは大きくお辞儀をした。どうやら、冷静さを取り戻したらしい。
彼の前には秘書の言う通り、3人の人物が立っている。
「追跡のプロ3名、紹介しましょう。彼はテオドール。私立探偵であり、暗殺者でもあります」
まず、紹介されたのはトレンチコートを着たスマートな男。その皮膚は硬い鉱物でできており、黒く鈍く光っている。
「彼女はウルリケ。狼女の傭兵で、優れた嗅覚と経験でどんな獲物も逃しません」
続いて紹介されたのはガタイのいい青髪の女。顔は完全に狼のそれで、綺麗に磨かれた牙が特徴的だ。
「彼女はゾフィ。ヴィレッジ出身の魔女であらゆる魔法に精通しております。先の2人とは違ったアプローチで獲物を追い詰めてくれるでしょう」
最後に紹介されたのは、わたしと同郷の魔女ゾフィだ。
相変わらず黒いフードに長い前髪で目元を隠している。
「…………」
ダインはゾフィの何かが気になったが、じっと彼女のことを見つめている。
「ゾフィさん、と言いましたか? どこかでお会いしましたかね?」
「……め、滅相もありません。わたしが幹部様と謁見するなんて……」
「左様ですか」
ダインはそれ以上追及はしなかったが、どこか腑に落ちない様子だった。
「ジャグナロ様。どうかこの者たちとわたくしにお時間をください。必ず日が昇るまでに成果を挙げて見せましょう」
「分かった。お前たちの健闘を祈る」
ブルクハルトがここまで言われると、ジャグナロとしては引き下がるしかなかった。
わたしとダインは止む無く部屋を出て、劇場からも出ることにした。
「正しい判断だと思います。あそこで、相手を立てられないのはジャグナロ様ではありません……」
ダインは劇場を出ると、小さくため息をついた。
「だが、どうする?」
このまま、手をこまねく訳にもいかない。
「部屋に戻って休んではいかがですか?」
「いいや。そんなことを……」
「ジャグナロ様は動けません。今晩は“あの魔女”の活躍にでも期待しましょう」
ダインの強調した言葉の意味をわたしは即座に理解した。
言われてみればこの状況、ジャグナロでない方が動きやすい。
「……そうしよう」
わたしは劇場を去りホテルへと向かった。
わたしは部屋に戻ると、早速『変身術』を解いて、ローブを転移させて着替えた。
久々のフィルデとして活動できることに、内心では胸が踊っていた。
♢ ♢ ♢ ♢ ♢
わたしは劇場にとんぼ返りすると、目的の人物を早速見つけた。
ゾフィは現場の捜査も必要がないのか、劇場を1人で出ていた。
彼女を利用しない手はない。
わたしはゾフィの後を追い、彼女の住まいらしい集合住宅の前で声をかけた。
「ゾフィ、久しぶり」
「ひっ」
ゾフィはビクリと震え、恐る恐る振り返る。
前髪の隙間からわたしのことを見ると、キョロキョロと周囲を見渡した。
「……フィルデ? ど、どうしてあんたがこんなとこに? 死んだって聞いたけど…」
どうやら、わたしが魔王の生贄になったという噂は村中に広まっているらしい。
「まあ、訳ありでな。少し話さないか?」
「わ、わたしたちそんな仲じゃないでしょ……。そ、それとも、あんた本当はわたしのことを……へへへ」
ゾフィはどんな想像をしたのか気味の悪い笑みを浮かべた。
「わ、わたしの部屋に来る?」
「いいのか?」
「い、いいよ。これから仕事だけど、少しは時間があるから……」
ゾフィに連れられて、わたしは彼女の部屋に入った。
部屋は随分とさっぱりしていて、家具は最小限、生活感があまりない。
思いのほか綺麗好きなのだと思った。
「す、座って……飲み物出すから……」
「ありがと」
ゾフィとはまともに話したことがなかったが、学校よりも多少は堂々としている気がする。
仕事を得て自立したことで、自信がついたのだろうか?
ゾフィは暖かいお茶を用意してくれた。
色は緑色で嗅いだことのない香りがする。
「仕事って、今何してるんだ?」
「……へへへ。魔法使いとして雇われてて、今は泥棒を探してる」
有難いのことに仕事の話をしてくれる。
「へえ。窃盗犯の追跡か、わたしも協力しようか?」
ゾフィの友人であるフィルデという立場でブルクハルトの捜索に協力する。
予定では情報だけ聞き出して個人行動するつもりだったが、ゾフィの能力をアテにするのも悪くない。
「へ? い、いいの!?」
わたしはお茶を少しだけ口に含んで頷いた。
口の中に広がる苦み。
「で、でも、わたしの仕事だから……」
「そんなこと気にするな。早く終わらせて、たまには一緒に食事でも――」
わたしは言いながら、椅子から落ちた。
冷たい床の感触。ゆっくりと目蓋を落とす。
「ご、ごめんね。フィルデ……」
頭上からゾフィの声が聞こえる。
どうやら、学校で危険人物と称されていた噂は本当らしかった。
こうやって、何人の同級生を眠らせたのか……。
「き、気持ちは嬉しかった。で、でも、久しぶりに会ったらあなたで実験したい気持ちが抑えられなくて……」




