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第25話 幽霊船の決戦

 コエンドロの船を森に隠し、わたしたちは戦闘準備を始めた。


「ジャグナロさま、『洗脳術』対策はいかがしますか?」


 ベルタ相手には直接手で触れて魔法を使っていたが、プラタナスが遠距離でも『洗脳術』かけれる可能性は残っている。

 仮にわたしたち全員を『洗脳』された場合、その時点で詰みだ。

 それでも、策が無いわけではなかった。


「『洗脳術』には様々な形があるが、多くの場合、音を使って魔力を流すか、直に触れて魔法を流す」


 『洗脳術』を使うには魔力を出す必要があり、概ね五感のどれかを通じて行う。

 そのパターンさえ分かっていれば、対策を講じることは可能だ。


「つまり、耳栓を使うべきということですね」


「ああ、各々適当に服でも破って準備してくれ……」


 この状況で文句をいう者は誰もいなかった。

 耳栓をつける前に、最後の作戦会議を行う。


「音と接触以外にも、匂いや視覚に訴える絵などにも気をつけた方がよい。やつは『洗脳術』だけでなく、『催眠術』などとにかく他人の感覚に関与する魔法に長けておった」


 コエンドロが静かに忠言する。


「そんなの……気をつけてなんとかなるもんなすか?」


 シクロンの言うこともわかる。

 音だけならともかく、五感の全てを縛った状況でどこまで戦えるか……。


「まあ、まず1番は音じゃ。音が1番防ぎようがないからな。だが、明らかにおかしな匂いや敵兵の動きがあったら、気をつけろと言っておる」


「……分かりました」


「ジャグナロ殿、短い間ですが共に行動しあなたの魔法の知識や言動から、()()()()暴力だけの男ではないことは理解しました。ワシもお主の指示に従います」


 コエンドロは急に協力的かつ、丁寧な態度になった。


()()()()……? この爺さん、ジャグナロとは既知の間柄だったのか……)


「……それは助かる。是非力を貸していただきたい」


 わたしはコエンドロの言葉に同様にしながらも、今はチームの指揮を執ることに専念することにした。


「目標はベルタの奪還。及びプラタナスの――殺害だ。やつは『霧岬』に多大な被害を与えた。生け捕りにしろとは言わない。殺せるなら即座に殺せ」


 わたしの言葉に誰も異論はなかった。

 どんな事情があっても、すでに死人が出ている。

 プラタナスの行動は当然看過できないし、見逃すには危険すぎる人物だ。


「……早速、作戦会議に入るぞ」


 わたしたちは計画を練り、それぞれの役割を決めた。

 これから先は、声掛けによる連携は行えない。

 計画のズレは各々がその場の判断で修正していくしかない。


「行こう」


 わたしたちは最後に耳栓をつけ、そこからは手で合図をする。

 森を出ると、海岸に浮かぶプラタナスの船に向かって駆け出した。



              ♢ ♢ ♢ ♢ ♢



 プラタナスはすでに船の前に無数の兵士を用意していた。

 性格が悪いことに、生者と使者を同時に配置している。しかし、躊躇っている余裕はなかった。


(まずは、エルド! 頼んだ)


 敵の背後の“黒霧”が晴れて一瞬で首を跳ね飛ばしていく。

 崩れた陣営の間をわたしたちは駆け抜け、そのまま、足場を伝い船の甲板へ向かう。

 マストの上や空にいる鳥人が弓を放ってくる。

 海からは伏兵である魚人も顔を出して、杜を構えている。


(シクロン! ダイン! コエンドロ! 頼む)


 シクロンの弓は鳥人の弓を弾き飛ばす。

 さらに『転移術』で空中にいったダインはそのまま、頭に触れて『洗脳術』を上書きする。

 コエンドロは『固有魔法(ユニークスペル)』である『流動術』という海流を操る術を使い、海中の魚人たちを一時的に遠くへと流した。


(ケッテ!)


――あっちデス!


 そんな声が聞こえるようだった。

 敵を一掃すると、そこからは嗅覚を頼りにケッテが戦闘を走る。

 ケッテは船主の方に進む。

 そこには、玉座のような椅子に座ったプラタナスと杖を構えるベルタの姿があった。


「(うははははは! よくぞここまで来たな、お邪魔虫ども!)」


 青色のマントを翻し、プラタナスは高々に笑っている。

 わたしたちには当然、なにを言っているか聞こえない。


「(魔王とやら、お前は“運命の寵児”ではなさそうだが、魔力量は悪くな――)」


「ベルタちゃんを返してくだサイ!」


 結果として、ケッテはプラタナスの言葉を遮るように剣を振って『風刃術』を発動させる。

 勢いよく襲い来る風刃を、しかし、プラタナスは躱しもしなかった。


 ベルタが目を見開き、風刃に立ち塞がり肉壁となる。


「あっ……!」


 ベルタは切り裂かれたが、『洗脳』されても『蘇生術』は有効のようで、即座に傷口が回復する。


「うっ……ごめん」


「(まったく、権力に屈する犬の分際でオレさまの話を遮り、あまつさえ我が花嫁に傷までつけるとはな……“死んで詫びろ”)」


 その瞬間、ケッテは自らの剣を逆手に持ちそのまま、自らの首へと――。


「“眠れ”」


 わたしは即座にケッテの頭に触れて、命令を上書きした。

 ケッテは自害を中断してその場に倒れた。


(こいつ……わたしたちは今、ヤツの声が聞こえていないのに……)


 見たところ、匂いや動きによる『催眠』でもない。

 プラタナスは念じただけで、他人を『洗脳』できるとするならあまりにもそれは――。


「(ふん……話の続きだ。うん? 貴様ら耳栓をしていたのか、それは失敬)」


(もしも、そうだとしたら、わたしはもう詰んでないか?)


「(とりあえず話がしたいから、“耳栓を外せ”)」


(なんか、ずっと何か言ってるな。そろそろ殴り掛かるか?)


「(え? なんで、オレサマの奥義“勅命”が通じないんだ?)」


 傍目には意味不明なことを言っているプラタナスと、ずっと無視し続けるジャグナロの絵になっていた。


(ああ、そうか。こいつ、ハモニエの『読心術』や『伝心術』と一緒なんだ)


 わたしは遅れてそれに気付いた。

 変身術により被った外殻がおそらく“念じる”という通常なら防ぎようのない『洗脳術』の奥義に対して、盾になっているのだろう。


「だったら、話は簡単だ!」


 わたしはジャグナロのフィジカルを最大限に活かし、跳躍して一気にプラタナスとの距離を詰めた。

 その速度には『洗脳』されたベルタも反応できない。

 そして、最近ダインから教わった魔王の体術の奥義を繰り出す。

 技の瞬間だけ腕を膨張させて、渾身の一撃を叩きこむ。


「魔奥義『ジャグナロ・ハンマー』!!」


「なっ……」


 プラタナスはそれまでの余裕が嘘のように動揺したが、時すでに遅く、魔王の鉄槌は玉座を粉々に砕きその体を甲板の外まで弾き飛ばした。


「グああああああああああああああッ」


 欠点は余りにもダサい技名だが、耳栓のおかげで仲間の誰にも聞かれていないのが救いだった。

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