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第24話 屍兵と伏兵

 シクロンの案内の元、海岸に向かっているはずが、目の前に森が見えた。


「ここの雑木林……防風林のようなものっすね。罠が張り巡らされてるんで、安全なルートを通りましょう」


「そういうことか……」


 敵からすれば、この雑木林のおかげで船を止めるのは容易かっただろう。

 もっとも、この海域は魚人の縄張りというだけでなくシードラゴンなどの強力な魔物も多く、通常なら航海すること自体自殺行為なのだが……。

 シクロンの案内で、雑木林の中に小道を見つけた。


「このルートなら罠はありません」


 そこから、息を殺してわたしたち4人は進み始める。

 しばらくして、シクロンが立ち止まる。


「……ん?」


 気のせいでなければ、黒い霧が見える。


(もしかして……)


「ジャグナロさま、オレです」


 霧の中から『潜伏術』“黒霧”を解いたエルドが姿を現す。


「シクロン安心しろ、仲間だ。……ご苦労。ちゃんと付いてきてたんだな」


 わたしは感心しながらも、こいつが姿を現すということはそれなりに不味い状況なのを察した。


「……敵に囲まれてます。割と詰みレベルで」


 案の定、エルドはあっさりと絶体絶命を告げる。


「そうか。お前がいれば何とかなりそうか?」


「はい。ただし中には生者も混ざっており、洗脳されたものも殺すことになります」


 エルドの言いたいことは分かった。

 いくら死体さえ操れる『洗脳術』でも、首を切り落とし、四肢をもげば動けない。

 だが、それは当然、操られて利用されている人や魔物を殺すことになる。


「それなら、大丈夫です」


 ベルタが話に割り込む。


「わたしが何とかしますから」


 わたしはその決意を受けて、小さく息を吐いた。


「……そうだな。エルド、今は全力で火の粉を振り払おう。オレたちを信じろ」


「了解しました」


 エルドはそう言った直後に黒霧を使って消えた。

 敵が動いたのも、その瞬間だった。

 一斉に周囲から放たれた矢をわたしの拳と、ベルタの魔法、それからエルドの見えない刃が1つ残らず叩き落とす。


 そこからは死闘だった。

 エルドは容赦なく敵の首をはね、わたしも手加減せずに全力で敵の体を破壊した。

 シクロンとケッテも弓や剣で応戦し、次々と敵を行動不能まで追いやる。

 その中でも、1番暴れているのはベルタだった。


「ベルタ! みんなから離れすぎだ!」


 わたしの叫びも聞かずに、ベルタはどんどんと前へ進む。

 当然、敵の集中攻撃を受け、槍で突かれ弓が体には何本も刺さる。


「ベルタちゃん!」


 ケッテがその様子を見て叫ぶ。

 だが、ベルタはその状態になってもなお戦い続けた。

 即座に『爆破術』で敵を吹き飛ばし、槍と弓を自分で引き抜く。

 そうしている間にも、『回復術』によってみるみるうちに傷口が治されていく。


「あははははっ!」


 ベルタはアドレナリンによって痛覚も麻痺してるのか、さらに敵を求めて斬りこんでいく。


(悪い癖が出てるな……)


 わたしの住む魔法使いの村でベルタについたは『狂戦士(バーサーカー)』だ。

 こうなったベルタは止まらない。


――ザシュ。


 一匹の巨大なトロールがベルタの頭を棍棒で殴り、嫌な音が鳴った。


「ベルタ!!」


 わたしが思わず素になって叫ぶ。

 直後、頭から血を流したベルタが立ち上がり“蘇生”する。

 ベルタは止まらない……死んでも。


「痛いなあ!!」


 ベルタは蘇って早々、巨大な氷の矢でトロール体に大穴を開けた。

 ベルタの『固有魔法(ユニークスペル)』は『蘇生術』だ。

 おそらく、効果は『回復術』の範疇なのだろうが、『固有魔法(ユニークスペル)』ゆえの最大効力且つ莫大な魔力を持つベルタがそれをさらに使うと、死んだばかりの人間なら“蘇生”さえすることができる。

 自分の死後にもその魔法は消えないため、ベルタは自分を蘇らせながら戦える。


(でもそれは、ちゃんと魔法が発動してくれればだ……)


 わたしは『蘇生術』――とくに『自己蘇生』は過信するなと普段から言っている。

 何かのはずみで、蘇生できなかった場合、ベルタを蘇生できるものは周囲にいないのだから……。


「なるほど。やはり貴様が『運命の巫女』か……」


 そのとき、知らない男性の声が聞こえた。

 次の瞬間、屍兵の1体――それに偽装したエルフの男性が、ベルタの頭に触れる。


「“眠れ”」


 死んでも戦いを止めないベルタが、その1言で戦いを止めた。


「現れたか、敵の大将が……!」


「ふっ。魔王がはるばるやってきた。いや、鴨がネギをもってきてくれたというべきか……」


 エルフの男性は気を失ったベルタを抱え、不適に笑った。

 藍色の髪にやや青みが勝った皮膚。

 眼鏡をかけたエルフの青年が深々とお辞儀をした。


「オレさまはプラタナス。花嫁はもらうぞ」


 その男――プラタナスはそう言うと、背後に跳躍して霧の中に消えた。


「待て!!」


 プラタナスを追おうとするが、屍兵が道を阻む。


「おまえ!! ベルタに手を出したら殺すからなああああああああ!!」


 わたしの絶叫は深い森の中にどこまでも響き渡った。



              ♢ ♢ ♢ ♢ ♢



――バキバキバキバキ。


 わたしが叫んだ直後、わたしたちが来た方の道から木々をなぎ倒すような音が聞こえた。

 振り返ると小さな船が森を進んでいる。

 船の上にはダインと頑固そうなエルフの老人――おそらくコエンドロの姿があった。


「ジャグナロさま、状況は?」


 船は屍兵を弾き飛ばしながら、わたしたちの近くで停止した。


「プラタナスというエルフがベルタを攫った。今は屍兵に囲まれている」


「そうですか……」


 ダインはそれを聞くと『転移術』を使い、屍兵への戦いに即座に加わる。


「倒した敵で生きている者は『氷結術』で凍らせておいてくれ! あとで蘇生ができる!」


 元より大半をベルタが倒したこともあり、敵兵はものの1分ほどで殲滅された。

 わたしたちはその中で息のある物の体を凍らせて、身動きを取れなくする。

 ようやく、話ができる状況になった……が、ゆっくりしている時間はない。


「船に乗れ。このまま、海岸に向かうぞ」


 コエンドロも事情を察したのか、手短にそう言ってくれた。

 しかし、全員乗ろうとしたがジャグナロの体が大きすぎて無理だった。

 仕方なく、わたしは進む舟に並走することになった。


「魔王さま、申し訳ありマセん……」


「……ケッテよ、気にするな。げほっ。そ、それよりも、コ、エンドロ。ゴホッ。あ、あの男について何か知っているか?」


 わたしは全速力で走りながら、移動中の時間を無駄にしないために聞いた。


「ああ、知っておる。“プラタナス”は追放された別の船のリーダー格の男じゃった」


 コエンドロはわたしに東の大陸を追放された際の2つの船について、まずは説明してくれた。

 引き裂かれたうえで追放されたエルフたち……その中でも、プラタナスという男は特別だった。


「奴は“災いの器”と呼ばれていた。生まれつきの魔力の量が尋常ではなく、なおかつ本人もそれをいいことにしたい放題していた」


「それで追放を?」


 ダインは息の切れているわたしに変わって話を聞いた。


「いいや。追放されたのは“災いの器”の性質故じゃ。過剰な魔力を生み続ける者は、いずれ周囲に大きな文字通り大きな災いを引き起こす……それを防ぐには『鉱石化』か『浄化』……つまり仮死か処刑かを選ばなくてはならん」


(『鉱石化』……?)


 わたしはそれを聞いて、真っ先にジャグナロ(本物)の状態を思い出した。

 “災いの器”……その嫌な響きも相まって、わたしは妙に胸騒ぎがした。


「当然、奴はそれを拒否した。やつは貴族の出自じゃったから、殺すわけにもいかなかった。プラタナスは妥協案として、追放されるエルフとともに大陸を去ることを提案し……おそらく海上で、クーデターでも起こしたのじゃろう」


「なるほど。そうすれば、晴れて自由というわけですか……」


「でも、なんで今さらこの大陸に来たんすかね?」


 シクロンが疑問を口にする。


「それはおそらく、連れ去られたという少女が同じ“災いの器”だったからじゃろう」


「…………」


 ベルタの異常な魔力量。

 薄々予想はしていたが、やはりそれは“危険な才能”だった。


「やつはかつて自分を“運命の寵児”と呼んでおった。自分に相応しい相手として“運命の巫女”――つまり同じ“災いの器”を探していた」


「それがベルタさんですか……」


「やつが周囲の人間を気にする性格じゃないのは、さっきの屍兵を見ても分かったじゃろう。ワシらが引導を渡すしかあるまい」


 わたしたちの気持ちを察したのか、コエンドロはそう言って話を切り上げる。

 やがて森を抜け、岩だらけの海岸に浮かぶ1隻の巨大な船が見えた。

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