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第23話 分かたれた航路

 ダインは『転移術』を数回使ってコエンドロの民家にたどり着いた。

 おそらく、高度な結界が張られているせいだろう。部屋の中の様子が見えない。当然転移も行えない。


「昼間はこんなものなかったのに。この結界のせいで、ハモニエの『伝心術』も届かなかったのか……」


 ダインは罵倒される覚悟をして、部屋のドアを強くノックした。


「コエンドロさん! 魔王国幹部のダインです! 『霧岬』に敵襲!!」


――ガチャ。


 すると、ドアは意外にも静かに開いた。


「そんな大声じゃなくても聞こえるわい」


 コエンドロ――眼鏡をかけたエルフの老人は小さなリュックを背負っていた。


「敵が来たんじゃろ?」


「お気づきでしたか」


「まあ、これだけ騒がしければな。南の集会所にでも向かうべきか?」


 昼間の頑固な態度が嘘のように、コエンドロは武器も兼ねた杖をついて外に出る。


「では、私はこれで……」


「待て待て。せっかく来たんじゃから、敵の正体ぐらい教えてくれのかい」


「あ、はい。どうにも海岸からの敵襲で『洗脳術』によって――」


 ダインの言葉を聞いて、コエンドロの顔つきが変わる。


「『洗脳術』といったか!?」


「はい」


「お主。敵の総本山に行くなら、ワシも行くぞ」


 コエンドロは言うが早いか踵を返して庭の方へと走り始めた。


「コエンドロさん。危険です」


「分かっておる。だが、ワシもそれなりに腕のたつ魔法使いじゃ」


 コエンドロに杖を突き刺すと、ブツブツと詠唱を始めた。

 その聞きなれない言葉の羅列に、ダインはコエンドロが東の大陸式の魔法を使っているのだと気づいた。

 地面が光って隆起したかと思うと、埋まっていた小さな小舟のようなものが姿を表した。

 船底には巨大な車輪、頬を広げると、コエンドロの魔法で風を受けて勢いよく進み始めた。


「あっ、待ってください!」


 ダインは『転移術』でコエンドロの走る小舟に飛び乗った。


「おい。重くなったらコスパが悪いじゃろが! お主は『転移』できるならそれで移動すればええじゃろ!」


「あの、風は私が出すので良ければ、移動中に話を聞かせて貰えませんか?」


 ダインは詠唱して風を出力する。

 魔力の消耗は痛いが、コエンドロに恩を売るのは悪くない。


「……まあ、良いじゃろう。こうなった以上お主らも無関係ではないしな」


 コエンドロは小舟の椅子に寄り空を見た。


「いいか。ワシらは東の大陸を追放されたというのかは聞いておるか?」


「ええ。ハモニエから……」


「名目上は西の大陸の探索。しかし、あやつらは悪趣味な性格をしておっての……船を2隻、そして航路も2つ用意して、親しいものたちを引き剥がしおったのじゃ」


「…………」


 ダインはその仕打ちと、それによって起きた別離を想像して言葉を失った。

 シクロンは大陸から出た日に、コエンドロは恋人と別れたと言っていた。

 それは恋人が大陸に残ったのかと思っていたが、実際は別の船に乗せられて引き離されたのだ。


「そんなことが、許されるのですか……」


「理屈上は同じ大陸を目指している。西の大陸で再会出来る予定じゃった……」


 けれど、そうはならなかった。

 それが隠されていただけで当初よりの計画だったのか、船が事故に遭ったのかはダインには分からない。

 しかし、そんな別れ方をすれば自分なら耐えられないだろう。

 ダインは妻子のことを思い浮かべて、胸の前で手をギュッと握りしめた。


「そうなると、『洗脳術』の使い手というのは……」


「ああ。もう1隻の船に乗っていたエルフの得意としていた術じゃ。“プラタナス”という名の天才のな」


 その名前を呼ぶコエンドロの声には、僅かに恐れが滲んでいた。



              ♢ ♢ ♢ ♢ ♢



 同時刻、ハモニエは治療班の尽力により、何とか立って歩ける状態まで回復した。


「ハモニエさま。まだご安静にしておいた方が……」


 様子を見に来たアゼカが、見るからに疲弊している領主を気遣った。


「アゼカちゃん、そういうわけにもいかないよ」


 ハモニエは白い魔法の杖を松葉杖代わりにして、出る準備を始めた。

 こんなときほど、無駄に肉付きのいい体が恨めしくなる。


「40年前のあの日から、あたしたちはずっと自分の半分を、思い出の半分を奪われたままだから……」


 大陸についてからもずっと、多くのエルフ達がもう1隻の船の到着を待ち続けていた。

 来る日も来る日も祈り、そうしているうちに長い年月が過ぎた。

 ハモニエはいつしか期待することと待つことを辞めた。

 すべてを忘れたフリをした。

 仲間のためと言い聞かせて、自分たちの領地を守ることだけを考えるようになった。


「はい。私もできるなら、今すぐにでも飛び出したいです」


「……ごめんね。現場指揮なんて任せちゃって」


「いいえ。ハモニエさま……ううん。アビヨナちゃんは誰よりも皆のために戦って来たから」


 アゼカはあえてハモニエのことを捨てた昔の名前で呼んだ。


「大袈裟だよ。でも、ありがとう」


 ハモニエは1度アゼカにハグをすると、邸宅の出口へと向かった。


「……きっと妹は死んじゃってるだろうけど。ちゃんと、弔いに行かないとね」

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