幕間2 計算ミス
――時間は少し遡る。
『迷宮都市』からの帰り道、わたしはダインが寝室から落とされた話を聞いた。
「それにしても、魔力切れで動けなくなるなんて、歴戦の幹部としては不注意過ぎないか?」
魔力切れの状態で無理やり魔法を使うと、人は体力まで失い完全に動けなくなる。
ダインは『転移術』の使い手だ。
最悪消費のほとんどない『固有魔法ユニークスペル』の基本的な『転移』を繋げば、戦いを回避することはできたはずだ。
少なくとも、魔物だらけの迷宮で無防備に倒れるような事態は避けられただろう。
「面目ありません。実は凡ミスがあって……」
「凡ミス?」
「はい。『転移術』を使えるだけの最低限の魔力を残して、あと5回、魔法を使ってペンデルを始末しようとしたのですが……」
ダインはちゃんと自身の魔法の威力と回数を管理していた。
1回目で壁抜きの『転移』。
2回目でバイコーンの角を投げる→即『転移』で勢いをつけてペンデルの翼を貫く。
3回目でカエルの足を切り落とす。
4、5回目、2回分の魔力で部屋を炎で埋め尽くす。
「これでまあ、足りるはずだったんですが、実は最初の壁抜け『転移』の際にバイコーンの角も一緒に『転移』させてまして……」
「ほんとに凡ミスじゃないか……」
わたしは自分が今ジャグナロであることを忘れて、素のツッコミを入れた。
ダインの『転移術』では魔力のあるものを飛ばすことや、壁抜けには魔力を用いる。
武器のつもりで持ち運んだバイコーンの壁抜け+『転移』にごっそり魔力を持っていかれたわけだ。
「それに気付いたのが、カエルの足を切り落とした直後でして……このままじゃマズいと思いながらも、ペンデルたちを放置するわけにもいかず……」
「魔力どころか体力まで使い切って、2体を始末することにしたわけだな」
「ええ。なので、本当に捨て鉢になっていたわけではないのですが……」
わたしはダインが時折、間接的な自殺願望を覗かせることがあるので、満身創痍の姿を見せたときは腹が立ったが、どうやら本当に凡ミスだったらしい。
復讐への熱意が残っているうちは安心だと、少し安心した。
「まあ、計算ミスも悪いことだけではないですね。おかげでシュピネモに会えましたから……」
「そういえば、どうしてシュピネモは人間の少女の格好をしてるのだろうか?」
わたしはジャグナロの口調で疑問をこぼした。
それから、地下第1階層の露店の様子を思い出した。
あそこには人間の子どもを含む、弱い魔物たちが肩を寄せ合って暮らしていた。
(……あの格好なら、誰も怖がらないからだろうか)
「もしかたら、『擬態術』が楽しいのかもしれませんねェ」
わたしが頭の中で結論を出してると、ストロベルが思わぬ意見を出した。
「昔会ったとき、地下階層とは思えないほど毎回いろんなファッションをしてました。あっしが料理を好きなのと同じくらい、お師匠は『擬態』が好きなのかもしれません」
「……なるほど。その発想はなかった」
ストロベルの着眼点もあながち間違いじゃないとわたしは思った。
昔、わたしも『変身術』で様々な姿の自分を楽しんだものだ。
他種族、大人の女性、それから……。
「うっ……」
「どうかしましたか!? ジャグナロさま?」
「たいしたことではない。嫌な記憶を思い出しただけだ」
わたしは心配するなと手で制した。
まさか、この話の流れで、“男装”という黒歴史を思い出すことになるとは計算していなかった。
ちょっと書き直して再投稿しました。




