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第17話 違和感の正体

 シュピネモは最深層から直接地上に出る道を知っていた。

 それは『迷宮都市』からかなり離れた場所に繋がっており、地上に戻るとまた移動しなければならなかった。


「儂は地下階層に戻るが……老婆心から1つ忠告じゃ」


 シュピネモは別れ際に、1つ気になることを言った。


「お主、『変身術』を使う際、ちゃんと自分の元の形を記憶しているか?」


「ああ。『変身』するよりも元に戻る方が早い程度には、肉体の形は記憶するようにしてる」


「そうか。必ず毎日元の姿に戻るのじゃぞ。ストロベルは元はあんな姿じゃなかったが、本人が元の体に無関心であったため、もう戻れなくなった。同時に生まれ持った『擬態術』も失ったのじゃ」


「え……そうだったのか」


 わたしはあのふざけた格好がまさか、『固有魔法(ユニークスペル)』を喪失した結果だとは思わなかった。


「人の形は心の形にも関わってくる。ストロベルは幸運だったが、自我を失ったものの末路は悲惨なものじゃった」


「……分かった。覚えておく」


 わたしたちは礼を言って、シュピネモと別れた。

 すでに日は沈んでいた。

 幸い、近くには『迷宮都市』への物資運搬で栄えていた町があり、ジャグナロの姿ですぐに部屋を借りることができた。


 翌朝、馬車を借りて『迷宮都市』に戻った。

 バングは入り口で夜な夜な待っていたらしく、『迷宮都市』の入り口には部下たちの大群が待っていた。


 そのため、ジャグナロ(わたし)とダインが一緒に馬車に乗って町から来たことには驚きを隠せなかった。


「ジャグナロさま、ご無事でしたか! ……ダイン!? し、心配した――」


 バングが白々しい言葉を吐くよりも早く、ダインは『転移術』で距離を詰めて殴りかかった。

 1日たっぷり休み、怒りを熟成させたダインの拳は重く、バングの肥満の体の体に突き刺さった。


「この冷血ゴブリンが! 貴様の原型がなくなるまで殴ってもいいんだぞ!!」


「な、なんだと! 黙って殴られてると思うなよ!」


「バ、バングさま!!」


 本人はもとより、周囲の部下が止めに入ろうとする。


「――バング、黙って殴られておけ」


 それをわたしが強めの語気で制止した。


「……ジャ、ジャグナロさま?」


「今回の件、ダインの顔に免じて不問とする」


 わたしはおそらくバングが、「内紛をやるなら(以下略)」の言葉を拡大解釈したのは分かってる。

 もっとも、それについてわたしが罪悪感を覚えることなどまったくなかった。

 都合よく曲解して、同志を殺そうとするやつが悪い。


「ただし、2度目はないぞ。2人とも国の中枢を担う幹部だとも言ったはずだ。それを1人でも失うような事態を引き起こすな」


「……うぐぅ。かしこまりました」


「私こそ、ジャグナロさまの顔に免じて許してやる」


 ダインは制裁もほどほどに、バングの元を離れた。

 部下の前であまり面目を潰しすぎるのも、更なる火種を生むだけだと思ったのだろう。


 わたしたちは元々の予定通り、この日『迷宮都市』を離れることにした。

 わたしたちを心配していた警護団やストロベルとも合流し、行き同様、3つの馬車に分かれて首都を目指した。



             ♢ ♢ ♢ ♢ ♢



 首都スノウィ・ヒルに向かう間、わたしはストロベルにシュピネモと会ったことを話した。


「あっしの師匠はそんなすごい方だったんですねェ……」


「まあ、だからダインはお前のおかげで救われたようなものだ」


「いえいえ、そんな滅相もありません!」


 わたしは帰り道で会話を楽しみながらも、シュピネモのいつくかの言葉がずっと脳裏に引っ掛かっていた。


――往々にして、“同じタイプの嘘つき”に嘘はバレるものなのじゃよ。嘘のつき方が似ておるからな。


――人の形は心の形にも関わってくる。ストロベルは幸運だったが、自我を失ったものの末路は悲惨なものじゃった。


 魔王城につき、執務室で1人ベッドに横たわってからも、わたしはずっと考えていた。

 『聖剣クリア』と持ち帰った暗号で書かれた手記。

 それに、宝物庫に置いてきたが勉強の形跡が残ったノート、書物のこと……。

 サインの練習……。


 わたしはそれに気づいた時、背筋が冷えて、ベッドから飛び起きた。


「……そんなことがあり得るのか?」


 しかし、考えれば考えるほど、これまでの違和感がすべて氷解する。


「シュピネモは敢えて直接は教えなかったのか? わたしが気付くと知ってたから……」


 わたしは自分の机の引き出しを開けた。

 そこにある羊皮紙の束には、国の主要人物が書かれたメモや、ジャグナロの筆跡を真似た痕跡が残っている。


「わたしと同じだったんだ」


 つまり、あれはサインの練習ではなく、筆跡の練習だったということ……。


「ジャグナロはもともと誰かが演じていたんだ」


 本物のジャグナロを殺して成り代わったのか、それとも影武者なのか……。


「わたしたちが殺そうとしているのは、いったい何者なんだ?」


 宝物庫から持ち帰った解読不能の1冊の手記。

 もしかしたら、それにすべての答えが記されているのかもしれない。

 おまけの幕間を挟んで、第二章は終了します。

 ここまで付き合ってくださった方には深く感謝いたします。

 続きが気になる方は是非、第三章以降もお楽しみいただけると幸いです。

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