表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/46

第16話 同じタイプの嘘つき

 桃色の髪の毛に赤い眼。活発な印象を与えるヘソだしコーデ。

 そんな少女の背後から蜘蛛の長い脚が静かに生えていく。

 体が浮き上がり下半身が黒く変化して、やがて、全長3メートルほどの巨体へと変貌する。


「騒がしいと思ったが、まさか、宝物庫にたどり着くものがおるとはのお」


 そのヘソあたりから、何かが飛び出してわたしの体に張り付いた。

 それは白い粘着質のある糸だった。

 体が引っ張らられる。


――シュパッ。


 わたしの体が宙に浮いた瞬間、その意図を見えない刃が切り裂いた。


(エルドか。感謝する)


 わたしは杖を構えて、巨大蜘蛛――シュピネモに向けた。


「ルドラ・アロー・ユルルングル」


「ヴェータ・ウォール・デルピュネー」


 杖から風の矢が放つが、シュピネモは長い足で顔を覆って『硬化術』を使いそれを難なく防いだ。


「伏兵もいるらしいな! アバンダ、離れておれ!!」


 シュピネモが体に空いた無数の穴から、それは周囲に糸を巻き散らす。

 地面には白い粘着質の糸が張り巡らされ、地面を移動できる状況じゃなくなった。


(見えないが、エルドが捕まっていたら最悪だ)


 わたしは『変身術』で翼を生やした。

 生憎、ここは迷宮と違って壁がなく天井も高い。糸を空中に張り巡らすのは不可能だ。


「逃がすわけなかろう!」


 しかし、当然、相手は直接糸をぶつけにくる。

 わたしは上手く旋回をして、シュピネモの糸を避けながら、何とか岩山の背後に隠れた。


(『探索術』で相手の場所を把握して、この岩ごと貫通する最高速度の矢で殺す)


「ヴィス・エコー・ラミア」


 わたしはその『探索術』を使い周囲の状況を把握した。

 興奮するアバンダ(こいつが暴れたら大変だ)。

 シュピネモは動かないが、何らかの詠唱をしている。時間を与えるのはまずい。

 それから……。

 わたしはその『探索術』で、ダインに息があることに気付いた。


(いや、待て。どうしてこいつはダインを殺していないんだ)


 わたしの脳裏にシュピネモの情報が過る。

 はぐれ者たちのリーダー。それにこの姿と話し方は、ストロベルの昔話に出てきた少女と一致する。


(どうする? もしも、こいつがダインを助けたとするなら……だが降伏するリスクは……)


 交渉とは対等な立場を築いて初めて成立する。

 相手を無力化してからでも、話し合いは遅くない。

 けれど、この場にはアバンダがいる。

 圧倒的暴力が暴発したら最後、わたしたちの誰かが犠牲になるかもしれない。


 そのとき、『探索術』の魔力がシュピネモの背後に現れる人物を捉えた。


「エルド、待て!」


 わたしは杖を仕舞い、岩山の影から飛び出した。

 直後、シュピネモの体から無数の糸が放出される。

 それは自動で敵を追尾するようで、わたしの体を捉えると即座に岩山へと磔にする。

 無数の糸のうち一つの束は自動的に、“黒霧”を解いたエルドさえも捉えていた。

 その体は地面に叩きつけられ、もう身動きが取れなくなっていた。


「グゥルルル!!」


「落ち着け、アバンダ」


 アバンダは突然始まった戦いに興奮して、体を上げていたが、シュピネモの言葉で動きを止めた。


「どうした、侵略者。急に攻撃をやめたところで、儂が見逃すとでも思ったか?」


 シュピネモの蜘蛛の足の一本が鋭く刃物状に変化し、地面に拘束されたエルドの首元へ向かう。


「わたしはそこにいる男……ダインの仲間だ!」


 わたしは何とか糸の隙間から、声を張り上げた。

 わたしが邪魔をしなければ、エルドはシュピネモを殺せたかもしれない。

 しかし、こうなった以上、もう戦って勝てる未来はない。


「…………」


 シュピネモの動きが止まる。その眼にはまだ強い疑心が残っている。

 そうだ。シュピネモは怒っていた。

 わたしたちが宝物庫を開けたこと、理由は分からないがそれが地雷だったのだろう。


「ジャグナロは……その男の家族を殺した」


(損得で動く相手には損得で、感情で動く相手を止めるには感情に訴えかける)


 それが、わたしの答えだった。


「復讐のためにどうしても、この宝物庫にある物が必要だった!」


 できる限り声を張り上げた。

 それは感情訴えかけるためだけではない。


「そうだろ! ダイン!!」


 わたしの呼びかけを聞いて、ダインがようやくピクリと動いた。


「……フィルデ」


 弱り切った男は目を開けて、声の方を見た。


「……申し訳ありません。どうやら、魔力切れのようです」


 そのあまりにも場違いな言葉に、シュピネモはぽかんと口を開けた。


「……そうか。6年前のアレは、ジャグナロの仕業だったんじゃな」


 毒気を抜かれたように、シュピネモの体が見る見るうちに縮まり、普通の少女の体へと戻る。


「いきなり襲い掛かって、すまなかった」


 シュピネモは頭を下げると、手の穴にするすと周囲にばら撒いた糸を回収し始めた。

 わたしは自由になり翼を使って、地面に着地した。

 体に粘着質な液はついたままだが、外傷はほとんどない。


「……ジャグナロが久しぶりに来るとは聞いていたが、今日は迷宮が騒がしいわい」


 わたしはとりあえず、ダインに近寄った。


「おい、ダイン。大丈夫か?」


「……おかげで目が覚めました」


「てっきり、宝物庫にきたのはペンデルの仲間かと思ったが……どうやら違うらしいのお」


 シュピネモは自分の行動を反省してるのか、しおらしく膝を抱えていた。

 どうやら、ダインの状況といい、お互いの知らないところで様々なことが起きていたようだ。


「少し、話をした方が良さそうだな」


 エルドはダガーをしまい、少し離れて腰を下ろした。


「ええ……そのようですね……ゴホッ」


 ダインが息も切れ切れに言うのが滑稽で、わたしとシュピネモは少しだけ笑い合い、一旦彼の回復を待つことにした。

 その様子を見て、アバンダが嬉しそうにゴロゴロと唸った。



              ♢ ♢ ♢ ♢ ♢



「儂がその男を助けたのは……恩があったからじゃ」


 ようやくダインがまともに話せるようになったころ、まずはシュピネモから事情を話し始めた。


「恩、ですか……?」


 当人であるダインに心当たりはないようだった。


「ああ、お主はストロベルを拾ってくれたじゃろ。あやつが存分に振るえるような地位を与えてくれた」


「……それは彼自身がチャンスを掴んだのですよ」


「それだけではない。お主はジャグナロの政策を引き継ぎ、地下階層の住民への支援を続けてくれた」


「…………」


 疲れ切ったダインはそれを聞いても何も言わない。


「バングに対してお主が睨みを聞かせてくれたからこそ、今の地下階層の秩序はある。そうでなければ、バングは地下階層の者を奴隷のように扱い、儲けのほとんどを持っていていたのは想像に難くない」


「……買いかぶりですよ。すべて、ジャグナロがやっていたことです」


「それでも、儂らはお主に感謝しておるのだ。だから、お主が攻撃されていると住民から知らせを受けたあと、儂は『擬態術』を使ってペンデルの様子を監視していたのじゃ。話は以上じゃ」


「…………」


 ダインは静かに顔を伏せた。

 シュピネモは続いてわたしたちの方を見た。


「全部話すと長くなるから、かいつまんでな……」


 わたしは疲れ切っているダインに代わり、わたしたちの事情を説明した。

 ジャグナロが6年前に起こしたこと、ダインだけが生き残り、彼の殺害を託されたこと……。


「だいたいの事情は分かった。まさかジャグナロがそんなことを……」


 シュピネモは本当に悲しそうに俯いた。


「それで、お主がジャグナロを演じているわけじゃな」


 わたしは敢えて言わなかったことを指摘されて、少しだけ気まずくなった。


「……『変身術』を使ったのを見せたのは失敗だったか」


「いいや。お主が儂の正体を見破った時点で、『変身術』か『擬態術』の使い手であることは分かっておったよ」


 わたしはシュピネモの戦闘直前の言葉を思い出した。


「そう言えば、そんなことを言ってたな……どうして分かった?」


「往々にして、“同じタイプの嘘つき”に嘘はバレるものなのじゃよ。嘘のつき方が似ておるからな。だからお主は儂の『擬態術』の違和感を即座に見破れた」


 わたしは何も言えなかった。

 実際に今目の前の少女が、本当の姿でないことは直観で分かる。

 逆のことがわたしにも言えるとしたら、『変身術』も見破れるものがいるということになる。


「まあ、お主の考えているような心配事は起きないじゃろ。儂らレベルの術者は魔王国にそう何人もおらんわ」


「それならいいが。ジャグナロが万が一でも偽物とバレたら……」


「……『変身術』を使ってることがバレること自体は問題ないじゃろう。別に使える奴は大抵普段から使っておるしな。お互いにわざわざ指摘したりはせん」


「……そういうもんか」


 わたしは若干不安を覚えながらも、考えても仕方ないので納得することにした。


「それで、お主らはジャグナロを葬るための準備としてこの宝物庫に来たわけじゃな」


「ああ。収穫はそれなりにあった。だから、そろそろ帰らなきゃな……」


「そうか……帰り道、できる限りの協力はしよう」


 時間間隔は曖昧だが、そろそろ日が暮れるころだろう。

 わたしたちは『聖剣クリア』や手記など、できる限りの荷物を運び出すことにした。



              ♢ ♢ ♢ ♢ ♢



「……おい、ダイン。帰りは歩けそうか?」


 作業の途中、わたしは宝物庫で作業をするエルドたちから離れて、岩にもたれ掛かるダインに声を掛けた。


「今回は申し訳ありません。まさか、私が足を引っ張るとは……」


「……そんなことはいいから、あまり自棄になって無茶はするなよ」


 ダインが見るからに打ちのめされているのを見て、わたしは腹が立っていた。


「一緒に始めた計画だろ。お前がいなければ、わたしはここにいる意味がない」


「…………」


「シュピネモだけじゃない。お前に感謝している連中が山ほどいることを忘れるな。ジャグナロじゃなくて、“お前”にだ」


 わたしは“らしくない”ことを言ったと思い、宝物庫の方へと帰ることにした。


「フィルデ……」


 ダインが小さくそう呟くのが聞こえた。


「スノウィ・ヒルに帰ったら次の作戦について話しましょう」


「ああ。当り前だ」


 準備を終えると、わたしたちは亀に『擬態』してくれたシュピネモの背にのって孤島を出た。

 白い光で照らされる湖を、亀のシュピネモはぐんぐん進んでいく。


「アバンダ! また会おうな」


 わたしは寂しそうに項垂れるドラゴンに向けて、大きく手を振った。


「ギャィ! ギャイイイイイイイイイイイ!!」


 こうして、『迷宮都市』の冒険の最後は、アバンダの咆哮によって締められた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ