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第15話 ジャグナロの宝物庫

 全身をザラザラとしたこんにゃくのようなもので撫でられ、わたしは飛び起きた。


「うわああああ!! 餌にされる!!」


 わたしが顔を上げると、案の定そこには羽のない巨大な黒いドラゴン――アバンダの顔面があった。


「フィルデ、安心しろ。おそらく敵意はない」


 アバンダから少し離れた場所でエルドがいた。

 その髪と服が濡れており、どうやら湖に飛び込んで引き上げてくれたらしい。

 なぜかそっぽを向いている。


「グゥルルル……」


 唸り声が体の芯にまで響く。安心できる要素がまるでない。

 わたしの唾液まみれの上体を起こす。

 むき出しの肌はもちろん、体にかけられたタオルにまで涎はついていて……。


「『変身術』が解けてるじゃないか!?」


 よく見ると、ジャグナロの服は畳んで傍に置かれている。

 おそらく人間サイズになった時に、すべて脱げて湖に漂っていたのだろう。


「気絶で解けたみたいだ。でも、そのおかげか外傷はなさそうだ……」


 エルドが湖の方を見たまま言った。

 なぜかこいつとは、何度もこういう気まずい展開になる。


「そ、そうか。世話を掛けたな」


 わたしは湖の水でアバンダの洗い流すと、風と炎の魔法で体を乾かした。

 最後に服を転移させて早着替えする。

 その間、アバンダは大人しくこちらを見ていた。


「お前、一緒に遊びたかっただけなんだな」


「ギャィィッ」


 アバンダは言葉が理解できるのか、歯をむき出しにして鳴いた。

 この戯れでどれだけの遊び相手を葬ってきたのだろうか……。

 もしくは、ジャグナロはそのフィジカルゆえに、数少ない壊れない遊び相手だったのかもしれない。


「あ、そうだ。これやるよ……」


 わたしは地下の市場の買い物でパンパンになったボンサック(巾着袋みたいな筒状の鞄)から、バングの作ってくれた弁当を取り出した。

 蓋を開けると活きのよすぎる肉がぴちぴちと跳ねている。


「おたべ~~!」


「ギャィ ギャィ!!」


 わたしが弁当を差し出すと、アバンダは大喜びで箱ごと弁当を食べてしまった。

 捨てずに済んでよかった。


「ギャイ……」


 アバンダはその程度じゃ物足りないようで、物欲しそうにこちらを見たが残念ながらこの巨体を満たす食糧は与えられない。


「うっ、この餌付けはエゴだったかもしれない……」


 まあ、食べたくないものを与えたのだから純度100%のエゴなんだが……。


「……そういえば、エルド。宝物庫はどうだった? 着替えたからいい加減こっち向け」


「あ、ごめん。部屋はあったけど、開かなかった。『解錠術』も試したが無駄だった」


「うーん、そうか。エルドで開けられないんじゃわたしにも無理だろうな」


 アサシンとして『解錠術』を習得したエルドで無理とまでは想定していなかった。


「執務室と同じ構造に見えた。ジャグナロに変身したら開けれたりしないのか?」


「いや、あれは個々の魔力を判別してる。同じ人間が作ったのだとしたら、無理だろうな……」


 あの執務室はダインが誰かしらに作らせたもののはずだ。

 もしかしたら、6年以上前にジャグナロは同じ人物に部屋を作らせたのかもしれない。


「試すだけ試そうとは思うけど。あまり期待しないでくれよ」


「ギャィィ……」


 わたしがそんなことを話していると、のそのそとアバンダが岩山の方に歩き始めた。

 わたしとエルドは思わず顔を見合わせた。

 二人で後をついていくと、アバンダは岩山にある巨大な扉の前まで移動していた。

 アバンダの少し赤い鼻先が触れると、扉が光り軽やかなメロディを奏でてから開いた。


「そうか……お前が鍵だったんだな」


 こうして、わたしとエルドは最深層の宝物庫へとたどり着いた。



              ♢ ♢ ♢ ♢ ♢



 宝物庫の中は物が散らかっており、長い間人がいなかったせいか少し埃臭かった。

 わたしは魔法で風を起こして喚起、それから燭台の蝋燭に火をつけた。


 机に椅子。本棚と箪笥。様々な武器を置くための物掛けもある。

 少しお洒落な私室、あるいは書斎のようだった。 

 わたしは1本の綺麗な装飾をした剣を取って鞘から抜いた。

 その刀身は硝子のように透き通っていて、背後にある風景がそのまま見ることができた。


「期待していなかったが、普通に置いてあったな」


 先代魔王を葬ったとされる『聖剣クリア』――はるばる最深層まで来た甲斐があったという話だ。


「こっちの武器も何か重要なものかもな」


 エルドが他にもかけてある巨大な白い杖や、帝国の紋章が入った盾を観察している。


「ここに来る手間を考えたら、できるだけ多くの物を持って帰りたいな」


 わたしは一旦倫理観を横に置いて、部屋の荷物の選別を行うことにした。

 武器以外には書物や地図などがある。


「こ、これは……」


 エルドが1冊の本を見てから、思わずパタリと閉じる。


「どうした、エロ本か?」


「……いいや。サインを練習した痕跡あって」


 わたしがその本を覗くと、そこにはジャグナロ直筆のサインが何パターンも書かれていた。


「あまり、見てやらない方が……」


 エルドは羞恥心から止めてくるが、わたしは無心でそれを眺めた。

 ページをめくると、魔王国の人物の名前が書き留められたりもしていた。

 地理や歴史の勉強もしているらしく、図やグラフがびっしりと書かれていた。

 時折、余白にジョークが書かれているのもご愛嬌だ。


「サインの練習の後は勉強の跡だ。ジャグナロは相当勤勉だったみたいだな……」


 わたしは何かに突き動かされるようにして、本棚を片っ端から見ていった。

 魔王国の歴史や国土の書物。

 魔王国で売られた書物、魔法使いの村で見たことのある魔導書、帝国産の書物まで……。

 心がざわざわする。

 何か重要なことを見落としているような違和感……。


 わたしは続いて、机に立てかけてある1冊の本を見た。

 しかし、それはどこの国の言葉なのか、表紙から中身まで一切中身が見れなかった。


「これはどこの言語だ? エルフの言葉でもないぞ?」


「ちょっと見せてくれ……」


 エルドも一緒に本を見たが、さっぱりという様子ですぐに首を横に振った。

 机には一緒に古代語等の辞典が置いてある。


「暗号で……もしかしたら、ジャグナロ自身も解読していたのか? それとも、ジャグナロが書いていたのか……」


「どのみち、重要なものなんじゃないか?」


「ああ。これは持ち帰ろう。ジャグナロが凶行に及んだ理由に繋がるかもしれない」


 わたしたちはそこで手を止めた。外のアバンダに動きがあったからだ。

 わたしたちは無言で顔を見合わせ、エルドは“黒霧(くろぎり)”を使って姿を消した。

 わたしはアバンダにじゃれつかれるのも嫌だったので、『変身術』を使わずに杖を構えて外に出た。


「おお、アバンダ。久しぶりの来客かの?」


 透き通った女性の声。

 アバンダは大人しくその少女と向かい合っている。

 わたしが様子を見ると、そこには桃色の髪をした少女が立っていた。

 その脇には気を失ったダインが倒れている。


「あっ……」


 わたしは思わず声を上げてしまった。

 少女がこちらを見る。

 宝石のような真っ赤な眼……それを見た途端、背筋に悪寒が走った。


「ほう。儂の本質がすぐに見抜けるとは……お主、もしかして……」


 少女は不敵に微笑むと、その背後から蜘蛛ような足を生やし始めた。


「『変身術』の使い手じゃあるまいな?」


 こうして、地下階層3大勢力の1人――巨大蜘蛛シュピネモは突然、その姿を現した。

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