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第8話 『迷宮都市』への招待

 最初こそ、エルドの襲撃というアクシデントがあったが、その後は魔王として安定した生活を送った。

 ジャグナロは療養も兼ねて、しばらくは力を整える期間ということにした。

 3食ストロベルの料理を食い、たまに城や城下町の視察に足を運び、あとは執務室に籠って1日を過ごす。

 おかげで、わたしはあまり『変身術』を使う必要もなく、体を休めることができた。


「このまま、魔王のフリをして過ごすのもいいが、そろそろジャグナロ抹殺のためにすべきことはないのか?」


 そんな日々を3日程過ごしたのち、わたしは痺れを切らし執務室に着くなりダインに聞いた。

 黒い霧が晴れ、エルドも姿を現す。


「そう焦らず。ちょうど『迷宮都市』への訪問の日程が決定したところです」


 ダインは一枚の封書を懐から出した。


「ジャグナロの名義でバングに手紙を送っていました。いざというとき困るので、フィルデには早く筆跡を真似してほしいものです」


「そんな数日で習得できるわけないだろ。で、いつ行くんだ?」


「明日から3日間です。エルドにも今回の訪問の目的を話しておきましょう」


「……たのむ」


 わたしたちは執務室にある巨大な机を囲んだ。

 ダインはそこに魔王国全土の地図を広げ、ペンを指示棒のように持った。


「その前に、まずは『迷宮都市』をご存知ですか?」


 ダインは『迷宮都市』を指した。

 『迷宮都市』とは、地図で見る分にはそれは周囲を『大樹海』で囲まれた巨大な山だ。

 『迷宮都市』とはこの山の中に、魔法によって建てられた多層構造の建築物のことで、帝国と魔王国を繋げる数少ない道のひとつだ。

 『迷宮都市』又の名を“アンダーグラウンド”。

 それは両国を繋げるトンネルであり、緩衝地帯であり、商業都市でもある。


「ああ。帝国から魔王国に行くには、陸路では『大樹海』か『迷宮都市』を通るしかない。当然、オレも下調べはした。そのうえで『大樹海』を選んだがな」


「賢明です。『大樹海』を抜ける術があるなら、そちらの方がはるかに容易い。『迷宮都市』を正規の道のりで突破したのは、過去に数人しかいません」


 それだけの難所でありながら人が集まるということは、通行以外の目的が大半ということだろう。


「私たちの目的は『迷宮都市』の深部にあるとされるジャグナロの宝物庫です。ジャグナロは生前、時折『迷宮都市』に足を運んでは、部下も連れずに一人で宝物庫へと行っていました」


「それは……気になるな。奴の真意が分かるかもしれない」


 ジャグナロは秘密裏に魔王国の国民を生贄にする計画を立てていた。

 その目的の一端が、宝物庫にあるのかもしれない。

 しかし、わたしたちの目的はジャグナロの動機を探ることではなく、もっと直接的なものだった。


「私は当時、宝物庫には何があるのか尋ねました。……ジャグナロは“勇者レンカ”の遺品があると答えました」


 勇者レンカ……たしか、アロウの前の勇者の名前だ。

 レンカはジャグナロの前任である先代魔王を殺している。

 ダインは地図の余白に“その武器”の名前を書いた。


「聖剣“クリア”。ジャグナロを殺すための鍵となる武器です」


「聞いたことがある……たしか、勇者レンカが先代魔王を殺すのに使った武器だったよな」


「はい。その名の通り透明の刀身を持った小ぶりの剣です。その特性はあらゆる魔法、物理的な防御を無視できることにあると聞いています」


「……それは本当か?」


 エルドは怪訝そうな顔をした。

 わたしも最初にその効果を聞いたときは同じ反応をした。

 不可能とは言わないし、理屈的にはおそらく、この執務室の結界のようなものなのだろう。

 だが、それを小さな剣に宿すとなると、通常なら器の方が耐えかねない。


「ええ。代替品を用意するのが困難、故に回収しておきたいものです」


 ジャグナロは『迷宮都市』の山、その一番下をペンで指す。


「ジャグナロはその“クリア”を、レンカを殺して奪ったと聞いています。先代魔王はジャグナロに負けず劣らずの実力者だった……“クリア”の力があれば、ジャグナロの殺害が一気に近づきます」


「わたしがバングに言い出せばいいんだな」


「はい。ただし、迷宮の下層に関しては『迷宮の支配者(ダンジョンマスター)』であるバングですら手の届かない場所です。万全の準備をしておく必要があります」


 ダインはわたしたちに迷宮についての説明を始めた。

 その特徴や注意すべき魔物など、ダインは暗記しろと言わんばかりに口頭だけで情報を詰め込んできた。


「それにしても、場所がわかっていたなら、どうしてこれまでお前自身の手で取りに行かなかったんだ?」


 わたしは情報量に辟易しながら、思わず愚痴を零した。


「別に目的を明かさなくても、お前なら動かせる軍隊の一つや二つあるだろう」


「……その理由は、私とバングの仲が悪いからです」


「……子どもか?」


 わたしの呆れたという反応にダインは首を振った。


「険悪、いや敵対と言っていいでしょう。軍など連れていこうものなら、その場で殺し合いになります」


「あー、なるほど」


 わたしは会議での二人の様子について思い浮かべた。

 たしかに、直接的な話はほとんどせず、時折互いを揶揄するような嫌みが飛び交っていた。


「喧嘩するほど……って関係だと思ってたよ」


「まさか。誰もがあなたのように素直な態度を取れないわけじゃありませんからね」


 ダインの発言にエルドが小さく吹いた。


「お前らなぁ……」


「ゴホン。で、そんな場所にダインは行って大丈夫なのか?」


 エルドが誤魔化すように質問をした。

 たしかに、いくらジャグナロの付き添いとはいえ、ダインが暗殺されるリスクはある。

 平和的に関係を築ける連中だけなら、魔王国の住民たちは人類から敵視されていない。


「本来ならやめておくのが無難でしょうね。ですが……危険だからという理由で、フィルデだけに前線を張らせるわけにはいけません。血路とは自らの血をもって開くものです」


「……」


 わたしはダインの悟ったような顔が何となく気に入らなかった。


「格好をつけるのは勝手だが、勝機はあるんだろうな」


「ええ。もちろん、策もなしに敵の懐に飛び込むわけではありません」


 ダインは不敵に笑う。



「ストロベルがバングたちに料理を振舞います。それでやつらの闘志は削がれるでしょう」



 わたしはその場に崩れ落ちそうになった。


「だから、相手は子どもじゃないんだぞ。ケーキ1つで買収できるわけないだろ!」


「何を言いますか! バングは復活祭でストロベルの料理で昇天しかけてました。『迷宮都市』出身の彼を引き戻そうとしたほどです。無論、ストロベルは断りましたし、私も断りましたが」


「そ、そんな美味いのか?」


 エルドが熱弁するダインに若干引きながら聞いた。


「ま、まあな……」


「とにかく、私が滞在中にストロベルが料理を振る舞うとなれば、彼はそちらに釘付けになるでしょう。そうでなくとも、私を殺すなんてリスクを犯すほど、やつは今の生活に困窮していません。むしろ、『迷宮都市』は魔王国でも屈指の財源。その恩恵は誰よりも受けているはずです」


 ストロベルはともかく、わたしはバングの立場が想像よりも美味しいものであることを知った。


「そんなに儲かってるのか?」


「ええ。入場料を払ってまで、帝国、魔王国問わず人が入ってきますからね。奴はジャグナロの宝物庫の情報を流して、それを餌にまでしてましたから」


「……とんでもないやつだな」


 わたしは内心、そんな商才溢れる男が今の地位で満足するのか疑問に思った。



              ♢ ♢ ♢ ♢ ♢



 翌日、わたしたちは『迷宮都市』に出向くため、首都を離れた。

 旅の仲間はジャグナロ(わたし)、ダイン、案内役のストロベル、それから警備団から数人が護衛についていた。

 エルドは密かに同行していたが、本当に近くにいるのかはわたしにも分からなかった。


「久しぶりの故郷ですネェ……」


 馬車の中で、ストロベルが(おそらく)神妙そうな面持ちで呟く。

 馬車の中はわたし、ダイン、ストロベルの3名だ。

 前後を警護団の馬車が挟んでおり、警戒に当たっている。


「ストロベルは迷宮において警備を行っていたと聞いているが、バングとは親しいのか?」


「そんな、親しいなんて恐れ多い!」


 ストロベルは声を張ってから、今度はジャグナロ相手の無礼に気づいて萎縮した。


「……気にするな」


 わたし(ジャグナロ)の言葉にストロベルは頭を下げて続けた。


「あっしは迷宮の隅を縄張りとしていたしがないミミックです。バング様と直接話したのは、首都への派遣時の1度きりです。ダイン様のスカウトがなければ、今ごろ、帝国のならず者に狩られていたでしょう」


 わたしはちらりとダインの方を見た。

 ストロベルが直属の部下であることは聞いている。


「ストロベルの料理は評判だったので……。それ目当てに魔物や人間が集まるほどでした」


「それはすごいな」


 わたしは思わず素で感心した。


「いえいえ、そんな……」


「実を言うとストロベルが如何にしてそごでの実力をつけたのか、私は知りません。相当の研究を詰んだのでしょう」


「……研究もしました。ですが、それ以上にあっしには師匠がいたので……。彼女がいなければ、今の自分はありません」


「師匠か。こと他者――それも他種族の味覚に関わることだ。確かに独学の限界あるだろう。その師匠とは今も『迷宮都市』にいるのか?」


「……それなんですが。あっしはその師匠が何者なのか分からないのです」


「ん?」


 ストロベルの思わぬ回答に、わたしは思わず聞き返した。


「いつも突然現れては消えていましたので·····。姿だけは決まって、迷宮には似つかわしくない桃色の髪をした少女でした」


「……詳しく話を聞いてもいいですか?」


 それを聞いて、ダインがストロベルの話に食いついた。


「道すがら暇ですので」


「そういうことでしたら……」


 ストロベルはそして、『迷宮都市』の地下階層に現れた謎の少女について話始めた。


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