プロローグ 雪の降った日
きらきらと白い光が降り注ぐ。
その美しい光景を見つめながら、わたしは両親が帰るのを待っていた。
生まれて初めて見る雪だ。本当は周囲の子どものようにはしゃぎ回りたかった。
けれど、わたしはその光から目が離せずにいた。
「フィルデ……」
ふと、その光が話しかけてきた気がした。
「フィルデ……ごめんね……」
それは母親の声だった。
わたしは周囲の目も気にせずに呼びかけた。
「ママ?」
「ベルタをお願い……ううん。どうか、フィルデはフィルデのまま、元気でいてね……」
白い光が消えるとともに、声が消えていく。
「ママ!!」
この日の記憶を、わたしはこれから先、何度も思い返すことになる。
そのときは、雪の正体も母親の最期の言葉の意味も……何も分かっていなかった。
……いいや、今でもたぶんわたしは何も分かっていない。
他人の心なんて、分かりっこないのだから。
♢ ♢ ♢ ♢ ♢
これは復讐の物語だ。
言葉を交わし、憧れて、そして愛した相手が、もしも自分の知らない闇を抱えていたとき、わたしたちはどうすればいいんだろう。
ある人は裏切られたと思うかもしれない。
ある人は自分の無力を呪うかもしれない。
その結果、何かを傷つける選択をしたとする。
それはきっと、正当なものだろう。
大義も正義もこちらにある。
それでも、どんなに言葉で取り繕っても、心までは欺けない。
血に汚れた手を見たあとに、心はもう昔の形には戻れない。
これは、きっとそんな物語――。