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8話 当たり外れ



 

 男子高校生の好きな授業ランキング上位に入る体育。 特に、 勉強より青春、 部活等に力を入れる生徒にとって、 体育の授業程楽しいと思う科目もないのだろう。 好きな球技だったら尚更だ。


 しかし逆に、 学校は勉強しに行く所だと考える、 青春? 何それ美味しいの? 精神を持つガリ勉系ぼっちだったり、運動出来ないけどeスポーツは最高だと考えるゲーマーオタク達にとっては最悪な科目となる。


 つまり傾向的には、 陽キャは大好き。 陰キャは嫌いな科目ということにもなるのかもしれない。 ――え、 勉強も運動も友達も出来ないって人はどうすればいいのかって? ……趣味見つければいいんじゃね。 (適当)

 それも無い? ――人は、『恋』をすれば変われるらしいよ。 俺は誰かに恋したことはないけどな! ふはは。



 話を戻すが、 体育という科目には当たり外れが結構あるわけだが、 その中でも陰キャぼっちにとっての最大の当たり外れとは何か。 誰かわかる人ー?


「今日は最初の授業ということで、 五十メートル走を測ろうと思う」


 そうそう、 最初の授業からかっ飛ばしてあれこれと測定したがる体育会系の教師……などではない。 そんなのよくあることだし、 中には新入生達の為に校内をより知ってもらうことを目的に何周かグルグルと走らせる先生もいるのだ。 ペースはゆっくりとはいえ、 何故か先生が先頭になって『これはこうでー、あれはこうー』 なんてペラペラ話しながらのランニング。 ある意味当たりの先生かもしれないな。


 問題はそんなことではない。


「まずは、 ()()()()をするんだが――」


 ()()だ! 陰キャぼっちが異常なまでに緊張する瞬間である『準 備 体 操』。最初は屈伸なり開脚なりと一人でも出来るモノもあるわけだが、 ()()は突然やってくる。


「よーし。 ()()()()()()作ろうかー」


 陰キャで、 ぼっちの人が()()!? ()()()!? 無理に決まっているではないか。 そもそも声をかけられない。 仲の良い奴等で組むに決まってる。 陰キャにも友達ぐらいは出来るかもしれない。 しかしそれは同じクラスに、 同じ陰キャが入ればの話。 そいつらは本当に運がいい。


 時々、 陰キャ三人のグループがあったとすると、 この時とても微妙な空気が流れることもあるが、 一人じゃない事が大切なのだ。 ()()()()()()()()()()()()()()()。 それだけで勝ち組なんだよ。


 故に、()()()()()()()にとって、 この時間は地獄である。 先生の()()()()()()ではあるけど。


「んー。 それぞれ列になって並んでもらってるわけだし。 ――()()()()()()()



 勝 っ た ぜ !


 当たりの先生のようだ。 外れだと()()()()()等と、 陰キャぼっち生徒の心が分からない鬼体育会系か、 無気力系の先生が存在する。

 この先生は信用出来そうだな。 (圧倒的な安心感)


 体はがっしりしているが、 恐らく三十前後で左薬指に指輪の後のようなモノがある為、 生徒の手前ということでわざわざ指輪を外しているような人格者なのかもしれない。 中々のハンサムでマッチョとは……奥さん、 良い旦那さん見つけましたね。 離婚者だったら、 すみません。


 首から掛けてる名札には【本田】の名前。

 ――本田先生か、 覚えたぜ! (好感度MAX)


「僕と組めるなんて、 キミはとても幸運だね」

「あ、 えっと、 どうも」


 今日もナルシスト全開の坊ちゃんは陰キャその一とのペア。 坊ちゃんの癖強セリフにたじたじとなりながらも無難に対応している。 ……奴め、出来るな。


「よろしくなー、 竜胆」

「……ちっ」


 誰とでも仲良くやれる陽キャ集団のトップ西谷は、 寄りにもよってクラスから距離を置く派手男とのペアのようだ。 相変わらず派手男は生傷が絶えないようだが、 不良にしてはまともに授業は受けているみたいだ。 真面目な不良とは、 これまた珍しい。


「よしよし、 では二人一組で続ける。 このペアは一年間組むからな。今日の五十メートル走のように何かしらでペアとなって測定することもあるだろう。 仲良くしろよー」


 本当に出来た先生だ。 ぼっちの為にさり気なく友達作りのきっかけを作るとは、 こういう先生が増えるべきなのだ。 間違っても、 自分の保身の為に生徒を見殺しにするような不適格者等が教員になっていいわけが無い。 犯罪なんて以ての外ってね。


 さて、 では俺もペアの奴と準備体操しないとな。 せっかく本田先生がきっかけを作ってくださったのだ。 出来ればあまり目立たないような陰キャその二、 その三がいいぜ。 あわよくば、 高校初めての友達を作ったりしてよー。


 西谷は論外な。



「では、 僕達もやります、 か……」


「――うむっ。よろしく頼むでござるよ。 山田氏」


 ……俺のペア、 変態(お前)かぁー。



「デュフフッ。 これもまた()()。 拙者これでも山田氏には注目していたでござるよ」

「はあ……? 」

「入学早々にクラスの不良系イケメンと名家生まれの御曹司が衝突という強制イベントに巻き込まれるだけでなく、 その日に続けてクラスのアイドルと超絶イケメンとのエンカウント」

「ま、まあそんなこともありましたね」

「拙者には分かる。 ……山田氏は()()()()星の元に生まれてきた主人公ポジに居るのだと」


 ――何言ってんだこいつ。 早口でペラペラと。 準備体操しながらで、 尚且つ周囲の目を気にしてか先生に注意されない為か、 控えめに話してるから特に注意はしないが頭おかしいのではないか、 こいつ。


「とっても羨ましいが、 不良とかナルシストとか関わりたくないので別に変わりたくはないでござるな」


 結構言うなこいつ。 根はちゃんと陰キャでオタク体質であるようだが……変態だもんなー。 ギャルに罵られて喜ぶようなドMとは関わりたくねぇ。


 ()()と一年間組むのかぁー。


「そうであった。 よく分からんが割愛された気がするので改めて自己紹介するでござる。 拙者――」


 どの学校でも共通だと思うが、 体育の授業中は男女別で二クラスずつ合同で行われるものだ。 進学クラス等で奇数になりがちな高校だと、 異なる学年との合同となる場合もある。


 陰キャぼっちのモブ生徒の俺としてはどちらでも構わないが、 体育会系の部活に入っている生徒だと、 同じ部活に所属する上の学年との合同授業は気まづくなったりするのだろうか。 はしゃいでる姿見られるとなんとなくやりづらそうである。


 幸いと言うべきか、 俺のクラスは同学年との合同授業な為、 別に気にすることなんてなかったけど。


「――っと、 言うわけでギャルゲーは思っているより奥が深いのでござるよ。 良ければ今度拙者オススメの神作を貸すでござる」

「あっ、 はい」


 長々と何か説明されていた気がする。 全然聞いてなかったけど、 別にいいよな。 さてさて。 本田先生の手前、 恥ずかしいことは出来ない。 目立たず騒がず適度に頑張るとしよう。


「山田氏とは仲良くなれそうで良かったでござるよ」

「こちらこそ」


 二人一組の時はよろしくな相棒。 (棒読み)






 ◈◈◈◈◈





「まあこのように、 毎回先生が手本を見せて実践していくから。 そんなに不安に思うことは無い。 ……こう見えて先生、 学生の頃は運動苦手にしててなぁ。 出来ないのが悔しくて我武者羅にやってたら、 いつの間にか体育教師になってたよ」


 常に生徒達の立場に立って行動する教師の鑑。 五十メートル走ぐらいは説明なくても出来そうなモノだが侮るなかれ。 クラウチングスタートからスタートダッシュの流れは思ってる以上に難しかったりする。 本田先生のお手本はプロそのもののようで軽やかに流れるようであった。


 しかし、 六.四秒ってなんだ。 そんなつもりはないんだろうけど、 昔運動が苦手だったとか嘘か嫌味に聞こえてくるぞ。


「拙者、 運動は苦手でござる」

「僕も苦手だな」


 タイムはゴール付近に立つ先生が測り、 スタートの合図は体育係がするようだ。 二人一組のペアで図る為、 他の皆に見守られながらということで少し緊張する者も多い。 走るのが遅い者は余計辛いだろう。


「一緒に、 一緒に並んで走ろうでござる」

「マラソンじゃないんだぜ? 」


 アホのペアの一言に苦笑いしながら西谷が答える。 五十メートル走で並んで走るってなんだよ。 同格なら勝手に並ぶだろうし、 タラタラ並んで走っていたら先生に注意されて余計目立ってしまうじゃねぇか。 絶対嫌だわ。


「よーし、 ペアで列作って並べー」


 ピッピっ、と笛を鳴らして切り替えを促し生徒達に緊張感を持たせる。 最初のペアは他クラスのペアからだ。 中学の頃と違って、 成長期を経て出来上がってきた体となっている高校生。 やはり当たり前のように皆七秒台ぐらいで走るよな。 それぞれに走り方が違って個性があるのも地味に面白い。


「政宗」

「……なんですか」


 後ろに並ぶニヤつく西谷から話しかけられる。 相方の派手は相変わらず不機嫌そうにそっぽ向いてどうでもよさげだ。


「賭けしよーぜ」


 ははーん。 こいつ、 だいぶ足の速さに自信あるな? じゃなきゃ賭けなんてしようと思わないだろうけど。 大方、 相方の派手から良い返事が貰えなかったから俺に対象を変更したって感じか。


「お断りします」

「ちぇー」


 俺が断ると分かっていたからか、 特に突っかかって来ることは無い。 俺は既にこいつが何でもそつなくこなせることは知っているし、 下半身の筋肉の発達からしても、 スピード型で足が速そうだということくらい誰でも分かりそうなことである。 わざわざそんな奴との負け確の賭けなんてしてたまるか。 そもそも、 目立ちたくねぇーつってんだろボケ。


「賭けなんてくだらねぇことすんな。 無駄だ無駄」

「彼の言う通りですよ。 賭け事は良くないと思います」


 ナイスだ派手男。 まさかお前からそんな真っ当なこと言われると思わなかったが、 ここで西谷を責める機会が来るとはな、 ばーかばーか。 不良に正当な理由で説教されて今どんな気持ち〜? 大丈夫、 息してるー? ふはは、 ふはははっ。


「ぶぅ〜。 ……猫かぶりのくせによー」


 うっせ、 ばーか。 ボソッと言うな。


 くだらないやり取りしているとあっという間に俺達の番が来る。 やることは中学の頃と大差ない。 位置について、よーいドンの合図でスタート。 隣から「え、あっ、ちょ」なんて声が聞こえた気がするが、 気のせいだろう。


 ゴールラインまで走り、 本田先生からタイムを教えてもらう。 記録表を持ってくれている係の人から貰って記入して終わり。 なんてことのない日常の風景。 タイムもモブらしいタイムで、 オラ満足だ


「はっ…はっ……や、 山田氏中々の速さでしたな。 流石にござる」

「平均ぐらいなんですけど」


 息切れが酷い相方の記入表には九秒ジャストの数字。 多分もう少し早いとは思うが、 スタートでドタバタして転んだようだな、 膝汚れてるし。 ジャージ着てて良かったな。 怪我しなくてすんだ。


「言えばもう一回測らせて貰えると思うけど」

「拙者体力無いので遠慮したく」


 たかが五十メートルで何言ってんだこいつ。 将来在宅ワークだけは辞めとけ、 早死するぞ。 適度に体を動かすのが健康の秘訣な。 多分、 知らんけど。


 スタートライン付近で他の生徒達の盛り上がる声が聞こえてくる。 どうやら中々白熱した対決があったようだ。


「いやー、 コンマ一秒の差で負けちまったぁ」

「……ふん」


 派手男と西谷の対決か。

 おっ、 なんだなんだ。 チャラ男君負けたんでちゅか? 賭けしようぜとか言っておきながら負けちゃったんでちゅ〜? ……ならもっと悔しそうにしろし。楽しそうにしやがって。 それとは対極で、 勝ったはずの派手男は変わらず不機嫌なまま。


 もしかしたら、 勝って当たり前だと思ってたのかもしれない。 だから、 勝つのがわかってる賭けなんてしても意味が無いと思った。 ある意味、 自信溢れててかっこいいな。 俺の読みが正しければ、 の話だけどな。


「六.九秒かぁ……念願の六秒台とはいえ、 最初から黒星はついてねぇ〜なー」

「充分凄いじゃないですか」


 わざわざ俺に近づいて来なくてもいいのよ? お前、 ただでさえ目立つのに、 あれほどの勝負を繰り広げた後で注目を浴びてるんだぜ? 余計目立って仕方ない。


「政宗は七.六秒か。 ――本気で走ったかぁ? 」

「僕は常に全力ですよ。 尊敬する()()先生の前でまさかそんな」

「――先生だからか? いや、 あの先生が特別なだけか」


 西谷が少し驚いた顔をする。 鋭い奴め。 ちょーっと他人の名前呼べただけで過剰に反応されるとヤバい奴だと思われるだろう。 俺も、 お前もな。本当にこいつはやりづらくて仕方がない。


「拙者、 やはり追うより追われる側の方が嬉しいでござるよ」

「何の話?」


 この変態も意味分からなすぎてやりづらいわ。



 ――因みに、 坊ちゃんは七.七秒だったらしい。


「フフ、 ラッキーセブン。 僕は生まれながらにして幸運の持ち主、 ということか」


 別に凄くはねぇーよ。








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