7話 結局、アホってわけよ
「俺という人間は、あの時、死んでおけばよかったんだ」
「政宗……」
ど う し て こ う な った ! ?
チョリース皆の衆。 チャラ男こと、 西谷 瞬でぇーす。 ウェーイ! ……おふざけはこんなものでいいかな。 しかし困った。
――泣かしちゃったぜ。
出会って二日目だぜ? 入学式は顔合わせ程度だからノーカンノーカン。 屋上汚ぇ寒ぅーでもお気にの友達出来たかもワクワクとか思いながら政宗の名推理(笑)を聞いてたんだけど、突然雲行き怪しくなっちまってよ〜マジヘルプミー。
そもそもの前提な? 結論だけ言うと、この名推理(笑)を繰り広げた政宗の大半の話は間違ってない。
微妙に意味合いが違ったり、そんな意図ありませんが? 的なことは多々あるが、一緒に居て楽しい奴を一人でも多く欲しいって気持ちは変わらずあるし、その為に人間観察なんかしてみちゃって。 でも基本的にノリで生きてる俺は松原ちゃんや政宗程の観察眼は無い。 俺は直感でなんとなくどんな人間か感じ取れるだけ。
――断じて、あんな変態的な分析力なんて持ち合わせていねぇわ。 松原ちゃんに対する見解が答え合わせみたいで、すげぇ楽しかったから絶対またやりてぇー、 マジウケる。
「いや、でも……俺のせいか」
笑ってる場合じゃねーな。 こいつの過去にどれほどの事があったかなんてわからない。 今日一日がとても長時間に感じる程、少し濃い時間を過ごした。 朝、 初めて政宗の本性に直で触れた気になって、 もっと知りたいと思うようになった。
――それが何故かってさ。
「政宗」
「……んだよ」
「西谷 瞬って男はさ、山田 政宗って面白い奴と友達になりたいだけなのよ」
「――は? 」
お前と居れば退屈しない。 お前ととにかく遊び尽くしたい。 青春して、心から笑わせてやりてぇ。
いいぜ。 言葉で全部伝えなきゃわかんねぇなら、教えてやるよ。 ――俺の本性ってやつをよ。
☆☆☆
久しぶりに泣いた気がする。 少し冷静になり、目の前に居るクソムカつくチャラ男にまたも弱みになりそうなものを自然に晒してしまうという屈辱。 俺は相変わらず行動が矛盾するのか、 これも運命なのか、 神様からの試練とやらか。 ……厨二病みたいだな、きっしょ。
「――西谷 瞬って男はさ、山田 政宗って面白い奴と友達になりたいだけなのよ」
チャラ男の考えてる事が理解出来ない。 ニヤついた顔や、爽やかな面。 ……そして、今みたいに、ふとした時に見せる親友と似た優しい表情。 ――どれが本当のお前なんだ?
「お前の過去とかすごい気になるけど、今はそれは置いとく。 さっきの、最後の言葉は一度忘れておいてやる! ……泣き顔はずっと覚えとくな」
「頼む、 死んでくれ」
「無理ぃ☆」
腹立つこいつ!? ウィンクとかするなよ、 思わず顔面殴ってしまいそうになるじゃないか。 ……まあでも、その他者を思いやる点は評価してやる。 気持ちは有難く受け取っておいてやろう。 (謎の上から目線)
「俺は面白い奴が好きなんだ。 昔から、一緒に馬鹿やって楽しみ、 腹から笑い合えるような友達が一人でも多く欲しかった」
「流石、陽キャだな」
「そうかぁ? 」
朗らかに笑う者と、無表情を貫く者が相対している。 いつの間にか、冷風の勢いが無くなっていた。 その代わりなのか、今になって暖かな陽の光が屋上に照らし出す。 心が暖かい。
「俺、要領がいいんだよ。 ――天才、 なのかもな」
……あれ、 なんかまた寒くなってきたな。 お日様ちゃんと仕事してる?
心做しか、目を光らせドヤってる表情に見えるが、 そんなのを見せつけられても俺の目は死ぬだけ。 何故急に自慢されるんだ。
「天才なんだぜ! 」
「あ、 はい」
「何でもそつなくこなすぜ」
「あぁ」
「す ご く ね ! ? 」
――う ざ く ね ! ? さっきから顔の圧が強いわある意味凄い。 凄いんだろうけどまだ知り合って間もないんだぞ。 褒めて欲しいのか。 でも俺、 チャラ男に興味無いんだよね。
知り合って間もない奴に、 泣き顔晒して、 情緒不安定になってしまった俺って……。
「でも、毎日がずっと退屈だった」
「ん? 」
「何でもすぐ出来たからかな。 何に対しても本気になれないんだ」
チャラ男の顔から笑みが消えた。 俺を見ているようで、何処遠くを見つめているのか、 少し寂しそうにも見える。 これが彼本来の姿なのだろうか。 どこかで見たような顔で、 やっぱりムカつく。
「モテると思って中学でもサッカー部に入ってたけど、 適当に流しても、 本気で努力出来る奴を差し置いてレギュラーなんかになっちゃったりしてよー」
「死ぬほどムカつく」
「だよな」
殆どの人間を敵に回すかのような存在だ。 モテたい気持ちはわかるが、 本気でレギュラー目指して、 夢や目標の為ひたすら練習していた部員からすれば、こいつのような天才タイプが近くに居るのは複雑だろう。 ポジションが同じ奴からしたら、 目の上のたんこぶだな。
「でも俺は努力をしないから、 才能を活かせない。 ……活かさない」
「興味が無いからだろ」
その通りだと言うかのように深く頷く。 チャラ男のことだから、 ニヤついてからかってくるなりすると思っていたが、 今は真剣モードのようだ。 ずっとそれで居てくれないだろうか。 普段がウザすぎる。
「ダチと遊ぶのは楽しいだろ? 俺にとっては部活はその延長線でしかない。 別に強豪でもなかったから全員がマジだったわけじゃないけど、 本気で努力してた数少ない部員で、心から尊敬した先輩 からあっさりレギュラーを奪ってからは更に興味が消えた」
「辞めたのか」
「あぁ辞めた。 だから中学では一年ちょっとしかやってないが、 一応高校でもサッカー部に入部するつもりだ」
「モテたいからか」
「それもあるけどなー」
苦笑いするなよ。 茶々入れて悪かったよ。 先にモテたいから入ったとか言ったのはお前じゃんかよ。
「純粋に、 頑張ってる奴を見てる分には楽しかったからな。 友達作りの一環でもあるし、 必要なことだとは思ってる。 飽きたら辞めればいいしな」
「なんだ。 やっぱりクズだったんだな」
「そこはかとなく納得いかないが、 話進まないから無視するわ」
頑張ってる奴を見ているのが楽しい、ということは自分が1日かからず出来ることを、 沢山努力して出来るようにしてる奴を見てニヤニヤしてるんだろ? 愉悦感に浸っているのだろう。 チャラ男君さいてー。
「やっぱりってなんだよ」とか言って肩を竦めているし、 多分本当に純粋に応援していると思うが、 個人的にチャラ男にはもっとクズでいて欲しいからなー。 ← 本物のクズ
「多分、世間一般的には俺は恵まれているんだろうな。 ……でも退屈だった。 何でも出来るから飽き性にもなる。 友達も沢山出来るし会話に困ることもない。 孤独じゃなかった」
「――なのに孤独感が俺の心を蝕む。 毎日に刺激が欲しかった。 理不尽が必要だった」
チャラ男の顔に笑みが浮かぶ。 どこか凄みがある。 ニヤついてるだけなのに猛々しい様子。 ……つまり、こいつの望みは――
「お得意の分析力で理解したか? 俺の望みは、 理不尽で、 ブッ飛んでいて……そして、一生懸命な面白い奴等と出会うこと」
「そんな奴等と友達になって、 毎日面白可笑しく過ごしていたい」
「……うーわぁ」
「ただそれだけが、 望みなんだわ」
お前のような奴とな、とでも言いたげにこちらを餌を見つけた腹ぺこの猛獣のようにギラついた目で睨みつけて見てくるんじゃねぇよ。 ――でもだとしたら、どういうことだ。 昨日のやり取りは俺の弱点を探る為の行動ではなかったのか? 俺を嵌める為のクズ思考のもとに練り上げられた作戦の一部ではないのか?
「後な。 ずっと言いたかったんだが、 お前変に俺を過大評価し過ぎだぜ? 」
「え」
「俺は望みの為に人間観察をするようになって、 目の前の奴がどんな奴かって探るようになったのは間違いないんだがな。 別に油断とか誘って相手の弱みを握るとか考えたこともなかった」
「え」
「松原ちゃんも直感で面白そうだったから、 これまた直感で面白そうな隣の席の奴と関わらせてみようと話振ってみたけど、 本当にそれだけ」
「え」
「後、 顔面偏差値がどうのこうのってやつは、 純粋にテンション上がって話振っただけ。 基本的に男はえろいんだぜ〜? 」
「え」
「それにそれに! 面白そうな奴等が睨み合ってる間に挟まってるような奴がお前だぜ? そんな巻き込まれ体質、 俺が興味持つのもしょうがなくね? ……多分、 ある意味愛されてるぜお前。 プププッ」
「――え 」
「多分、 過去に居たんだろうな。 そんな感じで悪さしてた奴がさ。 だから二の舞にならないよう最大限注意していた。 俺とその誰かを混合させちまったから徐々に混乱して推理が可笑しくなったんだ」
「え、おかしく? ……え? 」
ど ゆ こ と ? ――待て、マシンガントークしんどいって、冷静になれ。 確かにさっきの俺は変だった。 チャラ男を視ているようで他の奴を視てた。 それはわかる。 実際そうだった。 ……つまり、なんだ。 ……俺の勘違い?
「俺はノリで生きてるような奴だから、 他人を見たり、 表情とか見ても直感で何となくこんな奴なんだなって感じる程度で、 後からゆっくりとどんな奴だったか思い出して本当に何となく分析してる程度」
「……直感だと? 」
「おう直感だ。 政宗や、多分松原ちゃんもなんだろうけど、 お前等程分析力が高いわけじゃねぇーよ」
確かに、 松なんとかさんも他人をよく視てる印象はあった。 彼女の望みは俺には叶えられないし、 今のところは距離感が近すぎる以外はあまり危険にならない為気にしていなかったが、 一つ分かっているのは、彼女の分析力は断トツで高いということだけ。
「彼女は別格だ」
「いや、俺の直感ではお前も同格だと思うぜ」
「……直感」
「直感舐めんなよ? ……今お前が松原ちゃんに劣っているんだとしたら、 それは他者への意識の差だろ」
「――クソが」
「あっ、今の発言から読みとったろ!? 俺の反応から色々思考巡らせたんだろ? 言ってみ? ほらほらー」
――最悪だ。 この一言に尽きる。
松なんとかさんはとにかく他人と関わろうとする。 それはつまり、 他人に興味を抱くということ。 そいつの性格、興味、 癖等を知ることによって相手への理解を深める。 それを常に続け、恐らくノートかスマホのメモ機能も日常的に使うことによって記憶力も深めている。 常に完璧で皆の理想像で在りたい彼女のことは素直に尊敬している。
……そうだ。俺は松原さんに興味を示していたから自信を持って分析出来ていたんだな。 それと比べると、 確かにチャラ男に対する見解は的外れな所がある。 ストレスもあった。 そもそもチャラ男が関わって来なければこんなことにはなっていないけど。 イラついて舌打ちをする。 本当にこいつはムカつく。 俺が捨てたものを拾おうとするなよ。
「――やっと目が合った」
「……なんだよ。 やっと、って」
「なんとなくだけど、俺を見てるようで見てない感じがしてたんだよなー」
核心を突かれた気分になる。 それを誤魔化すために目をそらそうとしているのに、 何故か動けない。
「今お前は、 きちんと俺を認知したことによって分析力にも幅が拡がったはずだ。 その感覚、 忘れんなよ。 そうすればお前は、 俺達のクラスを纏められる唯一無二の存在になるかもな」
『――唯一無二の存在に、 お前がなれ』
また誰かとこいつの姿がダブった気がする。
まるで似てないのに、 確かに俺にも望んだモノがあったはずなんだと思い出させて来るんだ。 だから、 嫌悪感があったのかな。 馬鹿みたいに期待してくるんだ。 何も成せなかったのに、 どの面下げてって感じ。 過去の人生は後悔しかない。
「なぁ」
「どした? 」
だからきっと、 これからも後悔ばかりするんだろう。
でも、 ムカつくから、 ムカつく奴等の思い通りになんてさせてやらねぇ。 モブで在りたいことは変わらない。 だから、 これから先どのような問題が起きようと目立たないことを第一に行動する。 その為には協力者が居る。
「お前の名前、 なんだっけ」
「……西谷 瞬でーす」
ジト目で呆れたように投げやりに言われると流石に申し訳なく思うが仕方ない。 今までは本当に興味が無かった。 知ろうとしなかった。
「俺は目立つのは好きじゃない。 でも、 俺は不幸体質なのか問題が勝手に向かってくる」
「マジウケるよな」
「いつかコロス」
ピリついた空気なんかじゃない。 腹抱えて心から笑える奴と、 顔を顰めて笑えない奴の二人。 腹割って話し合ったことによって得られるモノとは一体何なのだろうか。 少なくとも、 嫌なモノでは無いんだろう。
「俺が面白かろうが、 もうどうだっていい。 ……けどな、 俺に関わってくるんなら、 俺は俺の望みの為にお前を利用するぞ」
「――今はそれでいいぜ。 なら俺も、 俺の望みの為にお前を利用させてもらう」
「……ムカつく奴」
何が嬉しいのか分かりたくないけど、 少し分かってしまう。 少なからず俺自身、 このチャラ男に興味が出てしまったからなのか。 勉強は出来ない馬鹿のくせに無駄に思考はよく回る。
「っておい!? 予鈴鳴っちまったぞ」
「先行けよ、 西谷」
「一緒に行こ、う…ぜ……!? 」
「先行け」
「――おっしゃー!! 」
万遍の笑みを浮かべて校内に戻る西谷は、 それは凄い速さだった。 成程、 名前呼べば言うこと聞かせられるのか。 今度パシらせよ。 目立つだろうから嘘だけど。
本当に長い間話したもんだ。 昼休みの終わりを知らせる予鈴のチャイムが鳴り響く。 根は真面目なのか、 切り替えが早いのか、 西谷はあっという間に消えていって屋上には俺一人。
西谷は彼奴等の誰でもない。 でも、 似ている部分もある。 だから混乱していた。 凄くイラついた。 俺と似た部分もあり、 気が合うと言われて否定したかった。 俺には眩しすぎる生き方で、 真似出来ない。 お前があの時に居たら、 俺は変えられたのだろうか。 ――世迷言か。しかしなんというか、 うん。
「……そうか、 勘違いか」
――はっっっず!? 恥ずかしい! なんか、 とっっても恥ずかしいことやらかしてないか俺ェー……。 とんでもない勘違いを長々と話、 決めつけ、 誰かと間違い、 余計なことばかり言うという。 ……しかも涙ぁぁぁぁあああ死にたいぃぃぃぃ。
「高校に入って早々、黒歴史作るとか……」
屋上から飛び降りちゃおっかなーとか思って少し下を見ると思いの外高くてゾッとする。 よく考えたら高所恐怖症だったわチビりそう。
少し呆然と立ち尽くしていた、 こんな情けない俺を見て嘲笑うかのように五時間目開始の本鈴のチャイムが鳴り響いた。 遅刻が決定した瞬間である。
「――あっ。 約束」
プンスカと両頬を膨らませて怒る松原さんの顔が思い浮かぶ。 結構可愛いからそれもありかもしれない。 また目立ちそうだな、 やれやれ。 今日はもう疲れた。
考えるの、 やーめた。
――そしてこの日から、 この高校の一年のクラスには問題児が三人も居るということで、 【問題児トリオ】という渾名が付けられることになる。
その一人に山田 政宗の名前があることを、 本人はまだ知らない……。
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