5話 喧嘩上等ってか
――不登校になりました。 (大嘘)
流石に冗談だけど、二時間目からの記憶が曖昧で気づいた時にはお昼休みの時間になっていた。 なんとなんと、嫌いな国英数の三大クソ授業がいつの間にか終わっていたのだ。
……まじか、ショックな出来事があると時飛ばし出来るようになるのか、最高だな。 (やけくそ)
「お前、机に何も出さずにずっと黒板見つめてたからめっちゃ目立ってたぜ? 」
「え」
「もぉー、何度も声かけたのに反応してくれないんだもん。 五時間目からはちゃんと授業受けようね」
「え、あ、はい」
最悪じゃねーか。 心底愉快そうに笑うチャラ男とプンスカ可愛い松なんとかさんという目立つ二人が近くに居るからクラスメイトからの視線が多く集まってわけじゃなかったのか。
今から学食に行くのであろうギャル二人組がすれ違う時に「どんまいどんまい」 「いい事あるって」 等と言って、さらっと肩ポンしてきたのも俺がそれだけ目立っていたから故なのか。
「松ちゃん行こ〜」
「あっ、はーい! ……じゃあ二人ともまたね」
「あいよー」
「はい」
「山田君はちゃんと授業受けること! 」
二回も言うな言うなそんなに子供じゃないって。 そんなに顔を近づけて前屈みになっちゃ駄目っすよ。 ブレザー越しにでもわかってしまう豊満なお胸様が、揺ら揺らしてるじゃあないですか。 ってか、良い匂い。
いや待て理性よ働け理性よ働け。 絶対目を逸らすな下向くな大声出されて通報されて周囲から変質者を見るかのような冷たい目向けられて人生終了すんぞてめぇ!? (大マジ)
「や く そ く!! 」
「了解」
「絶対だよ? じゃあまた後でね」
「御意」
にぱぁと微笑えんで手を振り、教室から出て行く松なんとかさんを眺める周囲の男子生徒大半が魅了されたことだろう。 若干名、こちらに嫉妬の視線を向ける者もいるが、今の俺は癒しの波動を受けて無敵である。 ふふん、羨ましかろう羨ましかろう。
「結局、目立ってんじゃん」
「……あ」
「ばっかでぇ」
ケラケラと笑うチャラ男が机をくっつけてくる。 学食を利用する者が大半の中、チャラ男は数少ないお弁当派のようだが……何のつもりだこいつ。
「一緒に食おうぜ」
「……他の人と食べてはどうでしょう」
「他のみんな全員購買行ってたり、学食派なのよ」
「はあ」
「政宗も弁当だろ。 自作? 俺は母ちゃん」
「母さんだったり、姉だったり……今日は姉です」
「姉ちゃん居んのか! 何個上?」
「この学校の二年生です」
母さんはともかく、姉が作るお弁当の大半に俺の嫌いなピーマンを入れてくるからなぁ。 それが無ければ本当に感謝してる。
例え、「この私がわざわざ作ってあげてるの。 いただきますをする前に必ず三分間、手を合わせ、私という優しくて、可愛いくて、魅惑的なお姉ちゃんを持てたことに心から感謝し、お姉ちゃんの好きな所十個述べてから食べなさい」 等と言われていたとしても、感謝は一応しているさ。
――いやいや待て、そんなことはどうでもいい。 なんでこいつ、当たり前のように一緒に食べようとしてるんだ。
「そんな嫌そうにすんなよ、仲良くしようぜ」
「何も言ってないですけど」
「案外、わかりやすいもんだぜ?」
「……はあ」
ニヤニヤすんなって死ねよマジで。 え、もしかしてこれから先もこいつと一緒に食べることになんのか。 なんて罰ゲームなのん? そもそも、俺は別に友達だと思ってないし別に欲しいとも思わない。 この先友達作ろうとしても、もっと静かでこちらに必要以上に干渉しないで卒業後には連絡一つ取らないような距離感の高校限定の友達しか要らんのよ。
断じて、こんな隣に居るだけで無駄に目立つような陽キャとなんて御免だ。 本当、どうしようかなこいつ。
「――おい」
「ん?」
こいつに嫌われれば干渉は減るだろう。 しかしそうなると俺は虐められるかもしれない。 別にそれはいいが、問題はある意味目立つことになるのは困る。 何度も言うが、俺はただ平凡な生活を求めている。 それだけでいい。
「おい」
「……政宗クーン、呼ばれてますよー」
そもそも、このクラスには無駄に目立つ奴が多すぎる。 学校始まって早々に学年の生徒殆どと連絡先を交換し友達になるようなクラスの松原や、チャラ男のくせに人をよく見て勘が鋭いクソムカつく西谷。 派手な頭と高身長、態度で周囲を威圧する竜胆、己を世界の中心に置いてる天上天下唯我独尊の覇導。
それにドMの変態も居るようだし、本当にやばいクラスに入れられたものだ。
「転校してぇ……」
「――聞いてんのかこら」
「わっ、と」
ため息を吐きつつ思考を止めてバッグからお弁当を出そうとすると、背後からイラついたような声が聞こえ、肩を強く掴まれる。 振り向くと、少し驚いたように目を見開く派手男が居た。
「……お前、昔何かやってたか? 」
「えー、と? 何の話ですか」
全くもって話が見えてこないが、俺の肩を掴んでいた右手を見つめる派手男の顔は何かを熟考するようで、また厄介事かと少し不安になる。 こいつも本当に目立つから苦手だ。
少し時間が経つと、舌打ちをする音がした。
こいついつも舌打ちしてんな。
「まあ、いい。 ……ちょっとツラ貸せ」
「え」
「おやおやぁ〜」
結局厄介事じゃねぇか。
◈◈◈◈◈
「てめぇを呼んだつもりはねぇぞ」
「いいじゃん面白そうだし」
「ちっ」
場所は変わって校舎の屋上。 ここまで来るのに校内でどれだけの注目を浴びたことか。 既に学内で不良のレッテルを貼られているらしい派手男と何故か居るチャラ男に挟まれて歩くことにより、非常に目立つことになったのだ。
わかるか? 周囲からヒソヒソと「喧嘩よ喧嘩」 「きっとお互い殴り合い、泥汚く認め合うことで友情を育むのよ」 なんて言われ、「そして、ゆくゆくはお互いを気になり始め一人の友を取り合い、求め始めるの……」等と腐女子に目覚めかけてるアホも居たんだ。 不良×チャラ男×モブなんて誰が見たい? 噂にでもなったら俺は本気で転校をするぞ。
「そんなことはどうでもいい」
「それな」
「あ?」
「いや、別に」
しかし派手男は俺に何の用なんだ? もしかして、本当に喧嘩目的か? 俺が何したというんだ。 喧嘩だとしたら俺は、俺自身をリリースすることにより、チャラ男を攻撃表示にしてトンズラするぜ。 (クズの極み)
「――あー、まあ大したことじゃねぇんだがな」
「おっ? 」
じゃあ帰ってよろし? お昼ご飯食べたいねん。
頭を搔いて言いにくそうにする派手男。 険悪な空気を感じなかったからか、にやけ面だったチャラ男が爽やかイケメンモードにタイプチェンジし、人を安心させる笑みを浮かべる。
思っていた以上に優しい顔で、昨日今日ニヤケ面ばかり見てたせいか心底気持ち悪く思えてくるぜ。
後お前、喧嘩じゃないってわかった時、一瞬つまんなそうにしたのちゃんと見てたかんな。
「ほうほうー、 つい先程とはいえどこれでも俺は学級委員だかんなぁ。 クラスメイトの相談くらいいくらでも聞くぜ?」
「まあ、ついでだし頼むわ」
チャラ男がチャラ男してない、だと……!? 本当に、本当に心底気持ち悪いぜ。 (失礼)
でもチャラ男が居るおかげで話がスムーズに進むのはありがたい。 だからとっとと話せ派手男。
「係のことで少しな」
「あー」
だと思ったがな。 だってそれ以外だと本当に喧嘩ぐらいしか理由が思いつかねぇし。 とはいえ、「ツラ貸せ」は無いだろ頭使えよ脳筋め。 どうせ貴様、頭悪いんだろー、俺そういうの分かっちゃうもんね〜ふふん。 ……まあ、俺も頭悪いけど。
「企画係はなぁ〜。 ちと厳しそうだから俺も出来ることは手伝うつもりだぜ? 松原ちゃんも出来る限り手伝うって――」
「そうか、そりゃありがたい」
「……ん?」
一瞬、派手男が安心したかのように笑った気がしたのは見間違えだろうか。 でもなんとなく雰囲気が変わったように思える。 先程までとは一転して、いつかの坊ちゃんと睨み合った時の空気を纏ってる感じだ。 とても嫌な予感。
「俺はゴメンだぜ? クラスの馬鹿共の為に必死こいて働くなんてことはな。 ――てめぇらで勝手にやれ」
「……それは、すこーしばかり、我儘すぎないか? 」
チャラ男の雰囲気にも変化が出る。 派手男のように睨みつけるわけではない。 なのに声には若干冷たさを感じさせ、それが相手を戦慄させる。 ――普通なら。
「俺は別にやりてぇなんて言ってないが? 」
「やりたくなかったんなら、他の委員会なり係なり、立候補すれば良かっただろ。 政宗はそうしてたぜ」
「知るかよ」
ピリついた空気の中で俺を巻き込むとは流石だなチャラ男。 そもそも巻き込んでるのはこっちなのかもだがな。 そもそも俺は全部ジャンケン負けてんねーんあはは。 (涙目)
――所詮不良は不良ということなのかね。 自分のしたいように、思うがままに暴れていれればそれでいいのか。 よく顔を見ると、所々に怪我を負ってるようだし、毎日喧嘩三昧なのだろうか。
言いたいことは言い終えたからなのか、もう話すことは無いと言わんばかりに俺達二人を置いて校内に戻ろうとする。 言動もそうだが、態度そのものが荒々しいようであっさりしている。
「悪いとは思ってるぜ。 思ってるだけだがな。 ――俺は、無駄が嫌いなんだ」
「……行っちゃったなぁー」
「そうですね」
その言葉を最後に屋上の扉が閉まる音がした。
そういえば、なんで屋上の扉開いていたのだろうか。 侵入禁止とか貼り紙はとかは無かったが、最上階の他教室から少し離れに続く廊下を歩く必要がある為無駄に遠いし、この屋上の存在を認知してる者もそんなに居ないのではないだろうか。 それほど広くないし、日当たりも良くなさそうだしな。
この高校の隠れスポットか何かなのかな。 清潔感ゼロだから、評価は五点満点中の一にしたろ。
「きっとあいつ、昨日授業サボった時にここ見つけたんだぜ」
「でしょうね」
「しかし困ったなぁ」
「困りましたね」
分かってたことだけどね? 企画係四名の内、一人は後ろの席の女性生徒ということしか知らないし、後の二人はナルシスト坊ちゃんと、つい先程働かない宣言をした不良だ。 俺含めて役に立たねぇ、オワタ。
「まあいいや、どうせまだ先のことだし後で考えよう」
「そうですね」
よし、では話は終わった事だし俺も教室に戻ってご飯食べようか――
「それはそうとさぁ〜」
「はい? 」
「もういいぜ? 」
「……何がでしょうか」
「やっと二人になれたんだ」
「素で話せよ」
――どうやら、俺はまだお昼ご飯を食べれないらしい。
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