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4話 終わりと始まり

 

 俺がノー、と言える勇気のある日本人とは程遠く、かの戦国大名 伊達政宗に申し訳なくなる程名前負けしてるなんてことは心底どうでもいい。 俺は俺、よそはよそってね。


 見るからに高級品である手鏡と櫛を手に持ち髪を整える坊ちゃんはもういいとして、昨日二時間目から怠業するという羨まけしからんことをしでかした問題児。 派手男が何も無かったかのように席に座っている。 あの腕を組んで目を瞑る姿勢は癖か何かなのだろうか。


「み、皆さんおはようございます。 き、今日もよろしくお願いします」

「「おはようございます」」


 本鈴が鳴り終わったタイミングで挨拶する担任の先生。

 この人も確か、名前負けしてた感じあるよね。 どんな名前か覚えてないけど、なんか強そうな漢字だった。


「き、今日の一時間目もまたLHRとなります。 こ、この時間にクラスの委員会や係決めをしたいと思いますので、各自で希望を考えておいてください」


 委員会と係決めか。 委員会なら学級委員とか保健委員。 係だと授業前後の号令や、黒板消しとか。 ……それ全部学級委員の仕事でよくね?

 真面目に考えると、ノート集めや書類配り等の教科係や、文化祭等の行事関連の企画係とかだな。


 他のクラスメイト達も気になるのか、周囲と相談する者がちらほらいるようだ。 少なくとも一年間はずっと続けなければいけないのだ。 特に陽キャ集団は何をやるかというより、仲の良い子と一緒になりたいという所を重点においている為、ある意味、これは戦争だ。


「ほ、他の人と被って定員を超えた場合は、ジャンケンになりますので、よろしくおねがいします」


 説明事項を話し終えてほっとした様子の先生は、手元の出席簿に挟んであったメモ用紙を見つつ板書をしていく。 さて、俺は何を選ぶか――


「政宗は何にするん?」


 隣席に座るチャラ男が熟考する俺に声をかける。 一見すると、友達との何気ない会話に見えるだろう。 しかし俺は未だにチャラ男の本名を知らない。 (覚える気なし)


「僕は、係にしようかと」

「気持ちはわかるわー、委員会よりかは楽そうだもんなぁ」

「キミはどうするの」

「んー……これは極秘にしてほしいんだけどよ」


 チャラ男が身を乗り出してくる。 誰にも聞かれないようにと、ひそひそ声で俺の耳元にまで顔を近づける。

 こいつの視線の先には、クラスのマドンナ松なんとかさん。 今日も変わらず、周りの子達に囲まれてその素敵な笑顔を振りまいてるようだ。


「多分、松原ちゃんは学級委員やるだろうから、俺もやろうかなって」

「ほー」


 青春してんなこいつ。 行動力溢れ、ある意味尊敬する。 松なんとかさんはまず間違いなく、これから先数多くの男子生徒を年上年下関係なく魅了していくことだろう。 それにいち早く察知し、今のうちにお近付きになって周囲に牽制したいわけだな、うんうん。


「不純だと思うか?」


 チャラ男が笑みを浮かべる。 まるでどこか、挑発してるような、何か試してるような空気を醸し出してるように感じるのは気のせいだろうか。 気のせいだろうな。


「いいんじゃないか?」


 俺の反応に少し驚いているように見えるのが気になるが、クラスの、いや学年のマドンナ松なんとかさんとチャラ男のビッグカップルが噂されるのもそう遠くないのかもな。


「お前は、可愛いと思わねぇの?」

「思うけど」

「あー、他に気になる子がいるとか」

「いないけど」


 誰よ誰よと、ニヤついて肩を組んで来るなよ。……なんか、友達みてぇなやり取りだな。 松なんとかさんに向けた視線をチャラ男に移してみる。


 黒髪の俺、茶髪のあいつ。

 黒目の俺。 赤目のあいつ。

 ぼっちの俺。 リア充あいつ。

 無表情の俺。 表情豊かのあいつ。



「ん、どした?」

「いや別に」


 真逆のような存在。 今の己には必要の無い物ばかりを当たり前のように持ち合わせるこいつには一欠片の興味も無い、とまでは言わないが、俺のことはそっとしておいて欲しいんだよなぁまじで。


 チャラ男から目をそらし、改めて松なんとかさんの方を向くと、偶然だと思うが目が合ってしまった。 ――周りにバレない程度に小さく手を振ってくれた。 可愛い。


「松原ちゃん気にならねぇ?」

「気にならないと言えば、嘘になるかも」

「だよなぁ。 まじ魅力的すぎるんよなぁ」


 あれだけ可愛いし、優しい。 それでいて相手が誰であれ、平等にその陽だまりのような笑顔を向けてくれるのだ。


「なんつーか、あれだけ可愛くて優しくて出るとこ出て引っ込むとこは引っ込んでる女神様のような子だから、彼氏の一人二人ぐらいかは居ると思ってたんだけどよ」

「二人居たら駄目でしょ」

「ハハッ、まあな。 ……けど彼氏居たことないって言うし、告白されても今は皆と友達でありたいから、全部断ってきたってさ。 純粋に嬉しいって言っててよ、全部相手に申し訳なさそうに話すんだぜ」

()()()だね」

「こんな短い期間であの子はクラスの中心として目立って来た。 常に周りには人が居て皆が笑顔で。 優しくて、可愛くて、陰キャ陽キャ男女関係なく、誰とでも仲良くなろうと努力出来る、とても()()()()()()な女性」


 だから何処か――


()()()()

「……てめぇ」



 ――――あ、やっべ。


 ()()なんだと聞こうとして、素が出かけていることに気づいてしまった。 幸い、隣席同士の潜めた会話であったことと、他のクラスメイト達もそれぞれ会話が盛り上がっていたこともあって聞かれることはなかったようだが、()()バレたくなかった奴に聞かれたことに違いはない。 一瞬とはいえ、睨みつけてしまったのもマズイ。 感情が揺れる。


 視線誘導されていたことにすぐ気づくべきだった。 チャラ男が観察していたのは松なんとかさんではなく、俺自身。 俺という人間の在り方を考え、素を出させるために他の話題で油断している所に、相手の嫌がる方法を用いて感情を剥き出しにさせ、本性を見抜く。 思ってた以上の切れ者だ。 ただのチャラ男じゃなかった。


「やっぱ()()()が素かぁ〜。 この前の暴言は俺の聞き間違いじゃなかったんだな」

「いや、えっと――」


 聞こえてたのかよ……。

 随分と楽しそうに笑うじゃないかチャラ男。 今この瞬間、この空間には、俺とお前だけしか存在していないのかと、辺りが静まり返っているようにすら思えて錯覚する程に、俺達の間に緊張感が漂い始まる。


 俺は今、()()()()()()()。 クラス最初のHRで担任の先生への印象が被った時からそれとなく思ってたことだが――


「俺達、()()()()()

「死ね」

「ウケる」


 駄目だ。こいつの前ではやはり、感情の制御が難しくなる。 とにかくムカついて仕方がない。 こちらの固めた分厚く高い壁をあの手この手で乗り越えて来る。

 少し、ほんの少しだけ思考回路が似ているのかもしれない。 本当に少しだけだがな。


 俺は今、ちゃんと無表情でいられているだろうか。 気持ち悪い程にニヤつくチャラ男を見ていると、ある意味顔が歪みそうだ。

 なんなんだこいつは。 なんで俺に構うんだ。 俺はただ平凡に他人とあまり関わらずひっそりと過ごしたいだけだというのに。 なんて危険な奴。


「昨日電話出なかったお返し」

「チャラ男の分際で」

「なんだそりゃ」


 組まれていた肩から腕が離れ、チャラ男が椅子に座り直したことにより、モノクロとなった世界から日常の色が取り戻されていく。 周りは相変わらずガヤガヤと騒がしく、担任も板書を続け、俺達の微妙に変化した会話が気づかれることはなかった。


「楽しみだな、一時間目」

「……そうですね」


 お前が隣の席に座ってなかったら最高に楽しいだろうなクソが。 一先ず、こいつのことは置いておくとする。 今は一時間目のことだ。


「か、開始のチャイムがなりましたので一時間目を始めます」


 まだ決める前ということで、号令は先生が行う。 人前で話すのが苦手なのか、ぎこちなさが相変わらず抜けていない。


 早速、委員会決めから始まっていく。 どこでも同じなのか、まずは学級委員を男女一人ずつ決め、残りの進行は全て学級委員に任せるというのは、共通のルールか何かなのだろうか。


「私、立候補します! 」


 女子はあっさり決まる。 誰もが納得する松なんとかさんだ。 彼女が手を挙げた途端、その周囲のクラスメイト達が拍手して盛り上げる。 周囲の反応が盛大すぎたのか、少し照れて恥ずかしそうだ。 とても可愛い。


 問題は男子の方だった。 松なんとかさんが手を挙げた後を確認した狼少年数十名が一斉に手を挙げるという快挙を成し遂げる。 これほど学級委員が人気なクラスもないだろう。 勿論俺は手を挙げなかった。 ある意味、手を挙げない割合の方が高かった為、少し目立った気がして複雑な気分だ。


 手を挙げてない男なんて他には、坊ちゃん、派手男、俺、変態君の他には、手を挙げる勇気がなかったであろう生徒数人程度だ。 大人気だな学級委員。

 そして、隣で元気よく手を挙げてるチャラ男はとっととジャンケンして負けろばーか!



「おっしゃー! 勝ったぜ」

「よろしくねっ。 西谷君」


 勝っちゃったよ西谷君(チャラ男)

 勝利のピースなのかチョキなのか知らないけど、こっちに見せつけるんじゃないよ松なんとかさん苦笑いしてんじゃんか。 はよ進行しろカス。


「では、僭越ながら私松原が進行を進めさせていただきます。 皆さんよろしくお願いします」


 頑張れ松なんとかさん!

 チャラ男は書記真面目にやれ、漢字間違えたり字が汚かったりしたら大いに笑ってやるぞ。 (クズ思考)


「では、次は保健委員――」


 よし、ここら辺は全部気にしなくていいな。 委員会活動なんてしたくないし面倒くさい。 俺が望むのは出来る限り目立たないかつ、楽な仕事だ。 候補は二つ。


 進路係と電気係だ。


 進路係ってマジ何するの。 することなくね? 恐らく、この先進路に関する行事というか授業関連で使う資料等を運搬したり何かしらのお手伝いをする係なのだろうけど。 ……学級委員でよくね?


 電気係はその名の通り、移動教室や体育等で教室を空ける場合最後に残って電気を消したりつけたりの仕事だ。 ……最後に教室出る奴がどうせやるだろ。 気づいた誰かがやれば良くね? もう義務教育じゃねぇぞ。


 しかし気持ちは分かる。 クラス30人前後居る中で、出来る限り一人一人に役割を持たせたいのだろう。 どうせ今決めたとしても学校に慣れてくればどの仕事も出来る奴が勝手にやってくれるというのに、本当に無駄な事だ。


「次、係決めを――」


 進路係 ジャン負け


 電気係 ジャン負け



 ……まあ、こんなこともあるだろう。 まだ他にも楽な係はある。 そのどれかをやれればいいのだ。


 ――間違っても、間違っても!

 ()()()なんてものにだけはなってはならない。 何をやるか知っているか?


 高校生にとっての二大イベントとは何か。 それは()()()()()()

 元々、日本人は祭りごとを好む傾向にあり、クリスマスの前日にイブなんて付けて祭りにしてしまうほどだ。 勿論この学校でも特に注目される行事であり、間違いなく準備から大変だと思う。


 体育祭ならまだ、体育係が中心となって共に進行するかもしれないが、文化祭に関しては全て企画係が中心となって進行しなくてはいけない。



 文化祭実行委員は無いのかって? この高校では文化祭実行委員イコール企画係である。 ――つまり、役職が二つあるようなものなのだ。 これだけはヤダ。 絶対嫌だ。






◈◈◈◈◈





「え、えーっ、と……な、なんとか時間内に決まったね、うん」

「ブフォ……く……ッ! あははははっ」


 

――尽くジャンケンに負け、最後まで残り続けた結果、残り者達によって結成された最後の係のメンバーがこれだ。



 企画係 四名

 山田 政宗 (俺) 「……(呆然)」

 竜胆 廻 (派手男) 「――どうでもいい (興味無し)」

 覇導 優 (坊ちゃん) 「今日も僕は美しい (興味無し)」

 鷺宮 忍 (誰?) 「……(絶望)」


 司会進行を務めた松なんとかさんの何とも言えない様子と、その後ろでお腹を抑えて笑うチャラ男。

 ……そして、なんとなく周囲の同情するかのような視線が集まるのを感じ、俺はやっと全てを理解した。


「お、終わった……」


 後ろの席から、か細い声でそのような言葉が聞こえた気がするが、全くもってその通りだ。





 ――神様、俺なにかしましたか。





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