2話 フラグは自分で立てるもの
プルプルプル…
「むぅ……」
高校生になって二日目が終わり、こんなに早くもクラスメイトと連絡先の交換が出来たとはいえ、家族以外からだとほとんど電話なんて来るはずもないんだが、うーん。 【西谷 駿】とはいったい誰であっただろうか。
あまり人の名前を覚えようとしないせいか、こういう時困るよなホント。
「あんた、さっきからプルプル電話鳴ってるけど出ないの?」
「誰の名前だったかなって」
「相変わらず物覚え悪いわね。 お得意の変なあだ名付けがあるんだから、連絡先交換した瞬間に相手の名前変えちゃえばいいじゃない」
「天才かよ。 それならわかりやすいな」
「当然ね。 私もそうしてるわ」
さすが姉さんだぜ。 自分のスマホ見せて【奴隷一号】とか【丸眼鏡】とか【愚弟】とかと、こうすればいいのだと見せつけて教えてくださるとはな。
「――出来だぜ」
「殺すぞ愚弟」
【クソ姉貴】駄目?
☆☆☆
久々に死を覚悟する程に低い声で殺害予告された結果、リビングから自室へと逃げてきたわけだが、ちらっと見た【親愛なるお母様】という名前とアイコンが目に入った瞬間にやはり姉弟なのだと思ってしまう。 怒ると怖いもんねお母さん。
とりあえず、先程の電話は恐らくチャラ男からのものなんだろう。 他に登録されてる友達リスト的に消去法で選んだことにはなるが、【松原 詩音】がチャラ男だったらどうしよ。
……ないか。 ないな。
プルプルプル…
「え」
噂をすればなんとやらなのか、【松原 詩音】とやらから着信が来た。 松なんとかさん!? 松なんとかさんからや!!
振動に合わせるかのように、スマホの持つ手も震えそうになる。 ――出たほうがいいのか。
「もしもし」
《あ、山田君。 こんな時間にごめんね。 こんばんは!》
「こんばんは」
はい可愛い。 明るく可愛らしい声からあのキラキラと眩しいほどに、周囲を照らす太陽の笑顔が簡単に想像ができる。 俺は今、クラスのアイドルと電話してんだな。 偉くなったな俺。 何もしてないけど。
《連絡先交換したから、何かメッセージ送ろうかなって思ってたんだけど……せっかくなら、声聞きながらお話できたらなって》
「こんなんで良ければ全然」
《うん! 昨日と今日で一年生のほとんどとは連絡先交換出来たと思うんだけど――》
本当にすげぇな松なんとかさん。 そんなに連絡先交換して何の意味があるのか。 覚えられるのか? 成程、化け物か。
俺なんてクラスメイトの一人たりとも名前覚えてないし。
――そもそも興味がないからな! ある意味、君と俺は対等なのかもな! (真逆とも言う)
《電話したのは、山田君が初めてなんだぁ。 ……えへへっ》
「なるほど」
可愛いすぎんか、松なんとかさん。 そもそも先程から耳元でクスクスとしながらくすぐったくなるほどの甘い声で話されてるせいか、凄く変な気持ちになりそうだ。
《それでねそれでね!? さっきカラオケ屋さんで――》
「うんうん」
《サツキちゃんと木山君のコントみたいなやり取りが――》
「おー、それはすごい」
《そういえば、西谷君が――》
「誰スか」
……結局、あれからあれこれと一時間くらい話してるが、全くもって話題が尽きないなこの人。 しかも話題の全部に誰一人と知らない登場人物が出てくるからどう反応すればいいか分からねぇ。 ――とにかく、松なんとかさんが毎日充実した日々を送っているんだなってことだけは分かった。後は知らね。
《あれ!? もうこんな時間なの!?》
「いつの間にか二十一時ッスね」
《ビックリだよ〜》
そうでもねぇよ。
しかしよく分からないなこの人。 何故わざわざ俺に電話かけてきたのか。 こんな中身の無い電話が最近の流行なのか? そんなことはありえない。 万が一、億が一ありえたとしても俺だぞ? 今日が初めましてに近いだろうし、昔何処かで会ったか? ……ないな、いくら馬鹿な俺でもあれ程の美少女そうそう忘れんだろう。
《あの、ごめんね急に。 ……こんな電話しちゃって》
「いえいえ、楽しかったッス」
《本当!? 良かったぁ》
社交辞令って知ってる? 相手との関係を円滑にする、利益を得るための偽り、やむ終えずに使うことって意味で使うこともあるんだぜ? 覚えときな。
《――あ、あのね?》
「はい」
《え、えと》
「はい」
《……て》
「はい?」
思ってた以上に急に声が小さくなったせいか、最後全然聞き取れなかった。 いや、本当に何て? 一時間もの間電話したことなんてないから、電波――いや、この場合ネット環境でも悪くなったのん? そんなことあるか? ないな、うん。 知らんけど。
《えへへっ。 ごめん、 なんでもないや》
「そーなんです?」
《うん。 そーなんですっ》
「分かりました」
《ずっと思ってたけど、なんか山田君堅くない!? 同い年だし、もう友達なんだからもっと気楽にというかさ》
「精進します」
《更に堅くなっちゃった!? もぉ〜、からかってるでしょ》
彼女はまたクスクスと笑い、結局その後軽い挨拶をして電話を切った。 よく分からないからあまり気にしないことにしたいが、一時間もの間、謎で意味不明なやり取りをしただけで友達認定されるのが最近の若者なんだなって分かっただけでも収穫はあったかな。 ――べ、別にあんたに友達って言われて嬉しいなんて、お、思ってなんかないんだからね!
「きっんも」
二度とやんないんだからね!
☆☆☆☆
――昔っから、面白い奴が好きだった。 でも、誰が面白くて誰が面白くないなんて、全部直感的なナニカで勝手に見て判断するような可笑しい俺自身もまた、意味不明すぎて面白いと自画自賛してしまう。
つまり、俺は面白いから、その周りにいる奴らも面白くあって欲しいっていうのは……まあ、考えがぶっ飛んでてこれもまた面白ぇかもな!
幼稚園、小学校、中学と、つるんでて楽しいと思える奴等はいても、面白いって奴は本当に極小数しかいなかった。
その極小数もぶっ飛んでる奴が多かったせいか、停学や退学でいつの間にかどっか行った。 本当にヤベぇ奴は海外に逃亡したとか噂で聞いたが、そん時は流石に付き合いを考えたね、うん。
比較的俺は物覚えがよくて、真面目にやらなくても勉強も運動も余裕だからかな、ちょっぴり学校生活が退屈だった。
高校生になっても、面白い奴が一人でもいいから居て欲しいなぁって願いつつ、進路とか考えるの面倒くさくて歩きで行けそうなそこそこの高校を選んだわけなんだが――。
「面白い奴、多すぎだろ」
思い出してまた笑いが吹き出してしまう。 まだまだ、全然彼等のことを理解したわけでもなく、なんならまだ話したことない奴だっているわけだが、それでも俺の直感が言ってるんだ。
「始まるんだ。 俺の、俺にとっての――」
――最高に面白い高校生活が。
「特に、やっぱお前だよな」
手元のスマホ画面に目を向ける。 俺は今、この国に住む誰もが利用しているであろう優秀なメッセンジャーアプリに最近登録した友達の名前をギラついたような目で見てることだろう。
俺の直感が過去にないくらいにビンビンに感じ取ってるんよ。 お前なんだろう。 俺の、俺達の高校生活を更に盛り上げてくれる存在はよぉ。
【山田 政宗】
何故か知らないが、こいつは目立つことを嫌がってる節がある。 自らをその他大勢の一人であることを望み、極力他人と関わろうとしない、と言うよりしたくないって感じか。
でもな、俺の感はよく当たるんだがな。 間違いなく周りがそうさせてくれないと思うぜ? そして勿論、俺も放っておいてやらねぇ。 最高に面白可笑しくかき乱してやるからよ、覚悟しとけよ政宗。
「……しっかしこいつ。 何でメッセージの既読付いてんのに電話出ねぇんだよ」
――それもまた意味不明すぎて面白いけどな。 でもせめて何かしらの反応はしろ、友達だろ。
時間帯で言うと、二十時頃のことである。
☆☆☆☆☆
「よし、こんな感じでいいかな」
昨日まで新品だったノートを最後のページまで何とか使い切り、いつもの事ではあるけど、やっぱり疲れるちゃうな。
まだまだクラスメイトのみんなのことを理解出来たわけではない。 今日で二日目が終わったばかりではあるけれど、観察すれば十人十色とそれぞれ異なる点が多々あるのだ。
最近になってまた成長しちゃったのか、とても肩が凝るからもうこれ以上成長して欲しくないと思い、己の胸元を見てはため息を吐く。 ――こんなこと、気にしてる子達の前では絶対言えないよね。
共感してくれそうな子はクラスメイトにも数人居ることは分かっているけど、昨日と今日で全然話せなかったからこれから仲良くなれるように頑張らないと。
疲れを少しでも取るために両腕を挙げて背筋を伸ばすと、ポキポキと軽く骨が鳴った気がした。
「今日も頑張ったなぁ」
既に深夜で、いい加減寝ないと明日に響いてしまうかも知らない。 皆に良い印象を与えるためにも、絶対に遅刻なんて出来ないし、早めに登校して一人でも多くのクラスメイトや同級生達と会話して仲良くなりたい。
明るい、優しい、可愛い、美しい、親切、癒し、魅力的、憧れ、他にもあるんだろうけど、全部に当てはまるような素敵な子になれてるのかな…… 。
私は、松原 詩音はそう在らなければならないんだから、そうでなければ私の存在証明なんて出来ないんだから――。
「頑張らなきゃね」
今私は、ちゃんと笑えてるのかな。
……山田君、 キミが私の本性を知ったらどうするのかな。 彼は結構珍しいタイプの異性だ。 私が声をかけたらほとんどの異性は頬を赤く染めたり、上手く話せなかったり、目が合わなかったり、仕方ないと思ってるから気にしてないけど、チラチラと胸の方を見てくる人で大半な気がする。
「あんなに、男の人と目を合わせて会話したのはお父さん以外では初めてかも」
机に置いてある、[1-B クラスメイト]と表紙に書いたノートのとあるページを開く。 我ながらよくここまで細かく分析しようと思ったものだと思うけど、癖みたいなものでまたこれから少しずつ書き直すだろうから気にしないことにする。
【山田 政宗】
性格 理性的に見えて恐らく用心深く、面倒くさがり
趣味 読書と言っても恐らく漫画等で、スマホの待ち受け画面が某人気アニメの主人公とロボットだった為、アニメやアプリゲーム等も好きかも?
特技 ポーカーフェイスと、後は……
学力 指のペンだこがあまり目立つ感じはしなかった為、天才でなければ苦手
……他にも色々と書いちゃったけど、やっぱり他の人からしたらちょっと気持ち悪いかなぁ。
「誰にも見せられないよ〜」
自分が変態みたいで凄く恥ずかしくなってくる。 でも全部必要なことだと思うから、辞めるわけにはいかないの。
「これが、私の存在証明に繋がるの」
だから……お願いだから、
誰か私を――――。
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