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16話 前門のチャラ男後門の変態


やっと話進むかな

 



「政宗」

「な、 なんですか」


 チャラ男改め西谷は昼休み時間、 前の席に当たり前のように座り、 こちらの机にお弁当を置いてむしゃむしゃと食ってはどうでもいい話をしてくるというのが最近毎日続いていたわけだが、 今日は少し違った。


 やけに真剣な様子で、 それはもう深刻そうな表情だった。 何かとんでもない出来事があったのか、 もしくは俺がまた何か知らん間にやらかしていたのだろうか。 だとしたら身に覚えが無さすぎて俺は自分が怖い。 実は二重人格で気づかない内に問題を起こすようなことがあったとしたら…。


「政宗……マサムネェ」

「こわ」


 真剣な様子から顔を歪めてわなわなと肩を震わせだした。

 本当になんかしたんか俺。 そういえば昨日の夜、 三時間くらい松原さんの電話に付き合わされてその後一時間先輩の電話に付き合わされた後に二時間程ゲームしてたら突然気を失ったんだよな。


 も、 もしかして気を失った後にとんでもないやらかしをもう一人の俺が!? お、 俺にそんなヤバい設定があったのか……。




 ――普通に疲れてただけですね、 はい。

 マジで部活辞められないかなぁ。 前回の風紀委員の仕事以来、 週二日くらいで部室に集まってるけど、 殆ど女子会のようにお菓子食べてお茶飲むだけの時間になってんだよなぁ。 ……娯楽部ってこれでいいのか? いいのか。 よく考えたら名前通りだ。


「おかしくないか? 」

「何がで」

「おかしいよな? 」

「最後まで言わせて」


 後顔近い顔近い。 教室に残ってた女子数人のグループから変な歓声聞こえてきてんだよあれ腐女子だよ絶対。

 さっきから西谷の様子が変……というかコイツは元々変な奴ではあったが今は更に変だ。 ニヤニヤしてないし似合わない深刻な表情とかするし怒った様な顔もするしでぶっちゃけキモい。


「……いつも通りかも」

「何が? 」


 おっとキョトンとさせてしまった。 ついつい思ったことを口に出してしまった。 西谷はいつも通りムカつくしキモい変人ってことでいいな。 腹立たしい程に顔は良い奴だが、 ニヤついた顔が死ぬ程ムカつくからマイナス無限点。


「死ねばいい」

「ちょっと? 素が出かかってんぞ? 後普通に真顔でそういうの言われると流石の俺も悲しい」


 まじか、 ならもっと素を出していこうかな! (ゴミ屑)

 それは冗談として、 結局コイツは何をどうしたいんだ? 西谷のことは普通に嫌いだが、 なんだかんだで男子生徒でよくつるむのはコイツだからな。 いつも通りのキモさで居てもらわないと困る。


「それで、 どうしたんですか」

「おー、 聞いてくれるかっ」


 仕方なくな。 何時ものニヤついた表情が無いとかえって不気味で違和感が半端ないのだ。 断じて心配とかしているわけではない。 いやマジで。


「あのよ……」

「はい」


 また深刻そうな表情。 誰かが死んだのかってくらい空気が重くなる。 勿論ひそひそ話だから周囲には聞こえていないしこの空気は俺達二人しか感じ取れていないだろう。


 喉が鳴る。 卵焼きを掴んでいた箸を置いて傾聴するべきだろうか。 とりあえず一度箸は置くとしよう。 俺に関係あろうとなかろうと、 この先西谷という存在は何かと必要となることは間違いなく、 既にこき使って色々利用してやると決めているのだ。


 そんな相手の精神を安定させるのも道具の担い手としては必要のことだからな、 うんうん。 面倒くさがりの俺が聞いてやるんだから全部話してみろ。


「俺……」

「はい……」

「俺さ……」

「……はい」


「――影、 薄くね? 」



 ……はぁ。



「そっすか」


 ――はい解散解散。 ってか今日の卵焼き美味いな。 確か今日は母さんが味付けしてるはずだから少し甘めなんだよな。

 姉はさっぱりの方が好きだからな。 それも美味いが母さんと俺の好みの味は似てるから母さんが作る料理は基本的に全部うまうまなのさ。


「これだからリスペクトが止まらない」

「いや聞けよ!? 」


 うるせぇよ。 静かに食べろよチャラ男。 くだらない話をしている暇があるのなら早く食べてとっとと目の前から消えろカス。 せっかくだからお前の唐揚げ貰ってやってもいいぞ。 唐揚げ置いて消えろカス。


「唐揚げやるから聞けよ」

「仕方ないな」

「……最近本能のままに生きてんな。 いや、 良い事だけどよ」


 唐揚げ美味っ。

 ……本能のままにか。 最近疲れてるからか真面目君キャラ演じるの大変なんだよな。

 素のままの方が実は目立ちにくいのではないかなんて考えることもあるけど、 き、 気の所為だよね……?


「いやー、 気を許されてるって感じて嬉しいなぁ」


 ニヤつくな変なことも言うなチャラカス。 吐き気ヤバいから。


「――いや違うって!? 」

「ん? 」

「なんか最近俺の影薄くね? よく分からんがそう感じるんだよ! 」

「はぁ……」


 影が薄いってなんだよ。

 そういうのは俺のようなモブ生徒に相応しい称号であって、 毎日陽キャ集団の中心になってワイワイやってるチャラカス野郎には遠く離れたモノだろう。


「おかしくね。 俺って相棒的な立ち位置だよな。 主人公の隠された本性を知る重要な人物的な奴だろだよね違うのかよ」

「なんて? 」


 ブツブツと何言ってるか分からねぇ、 なんだコイツぅ……。 (ドン引き)


 なんなんだ構ってちゃんか。 松原さんと毎日メールのやり取り出来る権利あげるから勘弁してくれ。 時々電話してくるからそれもサービスで付けとくな。 押しつけじゃないゾ☆


「まあそんなことは置いといてですね」

「置くなよ」

「そんなどうでもいいことは置いといて」

「……おう」


 素直でよろしい。 しかしジト目がムカつくから減点。

 何時も何時も俺を振り回そうと策略してる貴様が悪いのだ。 その、 「モブとは? 」みたいな顔辞めろよ俺がモブだつってんだからそれでいいんだよゴラァ!


「体育祭の準備って結局どうすればいいんですか」

「知らね」

「おい」


 やり返しか? 珍しく俺から話振ってやったのに無視して弁当食べんな後唐揚げもう一個寄越せ。 ピーマン……は今日入ってないから人参やるから。


「HRで何か言ってたじゃないですか」

「あー……確か明日の四時間目使って個人種目とか色々決めるんだったか」


 それだよ。 やっぱ覚えてたじゃねぇか。 なんなら、 俺よりはっきりと覚えてるじゃん。 やはり頭の出来が違うのかムカつくな。 (理不尽)


「前にも言ったけど今回は体育係が中心になって動くと思うからあんまり気にしなくていいぜ。 何かあったら俺と松原ちゃんが動くし、 政宗はともかく、 他のメンバーがまだちょっと……アレだろ? 」


 つまり足手まといになるくらいなら最初から手伝うなってことか。 俺の他のメンバーって、 不良とナルシストとぼっち系女子だからな。 率先してクラスを率いてる想像が欠片も出来ねぇ……。


「お前の仕事は如何に早く他のメンバー達と仲良くなれるかだ。 そんで奴らをまとめあげて企画係のリーダーとして何時かクラスを助けてくれればいい」

「無理でしょ」

「そうでもないだろ」

「西谷氏の言う通りでござるよ」


 無茶苦茶な。

 娯楽部で一緒の妹さんは部室で時々一言二言話す程度の仲で、 これでもだいぶマシなくらいには坊ちゃんと派手男とは全くもって関わっていないし関わりたくもないくらい。


 そもそも問題児トリオなんて噂されるくらいに問題児とされてる三人を同じ係にするなよな。 それに巻き込まれてる妹さんが一番不幸ではあるけど、 協調性と積極性が無いのは妹さんも同じだから似たようなものだ。


 尚更ヤバい係だな企画係。


「……ん、 ござる? 」


 何か後ろから変な語尾を付ける変態の声が聞こえたような。


「むっほん! 」

「うっわぁ……」

「ぐふっ……流石は山田氏。 中々強烈な反応をするでござるな」


 男でもいいのかお前……。 ドM根性逞しいなこの変態は。 とりあえず頬を染めて変な吐息出すの辞めてくれない? 本当にキモいぜお前。


「おっ、 M()J()

「は? 」


 え、 この変態MJなんて呼ばれてんの? どこの国民的スーパーアイドルだよ。 コイツにはカッコよすぎるあだ名だろ。


 だってコイツ、 毎日毎日ギャル集団に土下座して罵倒してくださいってお願いするような奴なんだぞ? 好きなギャルゲーのヒロインの声に似てるからってパッケージ見せたりボイス聞かせて同じようにお願いするようなド変態なんだぞ? 最近職員室に呼び出されてんだから自重しろマジで。


「イニシャルから名付けてくださってありがとうございました西谷氏」

「気に入ってもらえたようで何よりだ」


 名付け親西谷(お前)かよ……。

 西谷なりのクラスメイトとの交流の一つなんだろうけど、 学級委員らしく変態の問題行動を何とかしてくれよ。

 コイツこそ問題児だろ。 俺の代わりにトリオ入れよ。 正真正銘のグループ結成だぞMJ。


「そうだ。 確かMJって結構頭良かったよな。 政宗、 困った時はMJにも頼ってみろよ。 結構鋭い指摘とかしてくれそうじゃね? 」

「え」

「ふむ? 確かに中間テストでは学年順位も二十位ですしそこそこ勉強は出来るつもりでござるが、 そんなに役立てないのでは? それこそ西谷氏には勝てませぬ」


 ……は!? 変態の癖に頭良いんかいっ。 上位十パーセント以下に入ってんの? ドM(これ)が!? ……世界って、 残酷だな。


「んな事ねぇよ。 俺も何時だって構ってあげれるわけじゃねーし。 本当に時々でいいんだ」


 黙れ学年九位。 なんで授業中バレないように寝てたり時々課題出し忘れてたりする癖にめちゃ頭良いんだよ死ねよ。 ……俺? 俺はまあ、 下から数えた方が早いということだけ教えといてやる。 クソが。


「全然構わないでござるよ。 西谷氏も山田氏も拙者、 尊敬してますしおすし」

「お? 」

「……おすし? 」


 尊敬どうこうより、 その変な言葉遣い辞めません? 良い感じの話になったとしてもそれのせいで全部台無しになりそうなんだよ。


「むっほん。 西谷氏は陽キャにも陰キャにも分け隔てなく接してくださる素晴らしきリーダーにござる。 松原殿もそうですが、 誰に対しても平等に接して笑顔を向けてくださるというのはとても心が温かいのですよ」

「MJ……」


 思いの外まともな笑顔で小っ恥ずかしいことを言う奴だなコイツ。 今までのドュフフ笑いはどうしたんだ。 風邪か? 何で西谷は目を丸くして薄らと笑み浮かべてんだ。 今これ感動しなくちゃいけない空気なのかな。


「松原殿とのカップリング説も濃厚ですし、 是非とも頑張って欲しく」

「いや、 それは勘違いだかんな? ……勘違いだかんな!? 」


 いや、 何でそんなに否定すんだよ。 しかも俺の方に顔向けて二回言わなくていいってどうでもいいし。 「殺されたらどうすんだよ」って若干震えてる西谷は見ていて滑稽だからもっとやれ。


「そして山田氏。 貴方は本当に素晴らしい才能を持っています」

「え」

「秘めたる思いを隠し、 仮面を被ってでも普通の日常を追い求めてモブに徹しようと――」

「……黙れ」

「ぶひっ!? 」


 どこで気づいた? ……いや、 西谷が確か鋭い指摘が何とかって言ってたな。 つまりコイツは見た目通りの変態ではなく、 コイツもまた腹の底に何か秘めたる願いがあって仮面を被って探っていた――


「待て待て落ち着け勘違いだから! 」

「は? 」

「アレだろ。 コイツなりのゲームの設定か何かでキャラをお前に重ねてんだろ」


 耳元でヒソヒソと慌てながら話す西谷の言葉に冷静になる。 いけない、 眉間にしわを寄せているのが分かる。 変態の大きな反応でクラスに残っていた生徒達やつい先程戻ってきたらしい松原さんからも視線が集まってきている。


 反応からして何時もの変態の奇行か何かだと思われているのかもしれないが、 このままだと少しマズイ。 西谷の言う通りなら変態は俺を何かのキャラに重ねて適当な設定を載っけて勘違いして尊敬がどうこうと言ってるだけの今ならただの勘違い野郎で済まされる。


 しかし問題は、 一応モブの真面目生徒として無表情を貫いて過ごしていた俺から考えられないであろう怒りの表情で一瞬とはいえ睨みつけてしまったこと。 ……そんなに怖かったのだろうか。


「ま、 まあ落ち着けMJ。 時々あるんだよ問題児だからなコイツも〜……ハハ」

「す、 すみません。 別に睨んだつもりはなくてですね」


 もっとマシな嘘の言い回しは無いのか西谷氏? 全部ヒソヒソ声だし、 何時もの奇行かと周囲の生徒の目は既にこちらには向けられていない。 ……松原さんだけチラッと感じなくもないけど気のせいだとしよう。


 とにかく後は変態に誤解を解けば万事オーケーなんだが――。


「…… こ、 これはこれで有りですな」

「「……」」


 頬を赤く染めてブヒブヒとうるさい変態を見てる限り、 どうにでもなりそうだ。 もう既に手遅れなんだなコイツ。 俺と西谷は安心して肩を落とし、 気持ち悪いモノを見たことによって食欲をなくし、 弁当を片付け始めることにした。 残りは後で食べるとしよう。


「そろそろ戻ってこいMJー」

「……はっ。 そうでござった。 ともかくですね山田氏はギャルゲーの主人公としての厄介事から逃げられない学園のマドンナやイケメンの親友ポジキャラ等を始めた個性豊かの登場人物達の中心に何故か巻き込まれてしまうという――」

「まあとにかくだ政宗」


 おっそうだな。

 スルースキルを覚えるとはやるな西谷。 いつも通りの西谷を前に、 後ろからブツブツと演説してる変態の声をシャットダウンして意識を切り替える。 体育祭の話だ。


「体育祭に関しては最低限手伝ってもらえればそれでいいさ。 お前の望むモブの一般生徒として手伝ってくれればな」

「……まあそれくらいなら」


 正直めんどくさかったし? 企画係としての仕事をさせられるとなると松原さんがきちんとやりなさいってうるさそうだったから先に何すればいいか聞いておきたかっただけだしな。 問題を後回しにしてるだけかもしれないが、 出来る限りあの問題児共とは関わり合いたくないからな。 俺も目立ちたくないし。


「まあ大丈夫大丈夫! 体育係は四人も居るんだぜ? 全員が一斉に休まない限りはお前に仕事が回ってくることはねぇーだろ、 なははっ」

「それもそうですね」


 うはは。 そんなことは絶対に有り得ないだろうから問題ねぇな。 男女それぞれ二人ずつ居る体育係で、 全員陸上部でやる気満々だと聞いている。


「彼らが頑張ってくれますよね」

「そうそう! いやー、 楽しみだなぁ体育祭」

「――で、 あるからして山田氏はですね!? 」


 もう黙って席戻れ変態。






 ◈◈◈◈◈








「え、 えー、 た、 体育係の皆さんが季節外れのインフルエンザや、 た、 大会で骨折して今病院に……そ、 そして普通に風邪でお休みの方がいまして進行できる方が居ません」

「はい」

「が、 学級委員のお二人にお任せしようと思ったのですが、 そ、 そのお二人から山田君に是非お願いしたいと推薦がありまして」

「……」


「――き、 企画係に進行をお任せしますのでよろしくお願いします」


 なんでやねん。


  ……オワタ。






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