プロローグ
数ヶ月に一回、床屋で適当に髪を切る程度。 髪は染めず黒髪ショートでボッチャり気味の体。 身長はそこそこあるが、勉強は中の下……下の上かもしれない。
とにかく、勉強も出来ず運動も嫌いという走れるデブにもなれない個性が無さすぎるのが俺、山田 政宗という男だ。
学校は制服だからまだいいとしても、普段着は黒白グレーのお洒落とかは一切考えないパーカーやらジャージやらしか着ない。
好きな物はゲームとかアニメ。 でもアニメはミーハー的な感じで後になって気になったら観るぐらいだし、ゲームも雑食でとにかく気になった又はなんか話題になってたら買って少し遊んでハマれば適当に進めるぐらいでしかない。
将来の夢なんて考えたくもないし、昔小学校低学年の頃に発表会的なやつで将来の夢は正義の味方 ヒーローライダーになることって言ったら、当時同じくライダー好きだったはずの陽キャ系クラスメイトにも本気で心配されたことは今も忘れない。 少しトラウマだ。
「み、皆さんおはようございます。 昨日の入学式お疲れ様でした。あ、改めまして……こ、これから一年間皆さんの担任となります本郷 剛です」
高校生となって二日目、1-Bクラスの担任は強そうなイカつい名前にしては随分とオドオドとした先生だった。
「なははっ。 強そうなイカつい名前してんのに随分とオドオドとするんすね本郷先生〜」
最悪だ。 隣の席の間違いなくパリピ感強めの陽キャチャラ男と印象が被っただけでなく、お前もそう思うよなと言わんばかりに俺の肩をバシバシ叩いてきやがる……結構痛いからやめて!?
「え、え〜これから一年間一緒に学ぶことになりますのでな、仲を深める為にも皆さんにも軽く自己紹介を …… し、していただきたいのですが」
髪ボサボサで眼鏡してるし絶対ガリ勉だったなこの先生。 運動音痴で友達付き合いが苦手というか、他人と関わるのが苦手なコミュ障と見た。
誰とも目線が合わず、時々思い出したかのようにチラチラとこちらに目を向ける程度で最低限の必要事項を述べるだけだし声も徐々に小さくなるという何故教職を目指したのか分からない陰キャタイプ。
つまり俺の仲間か。
そうかこれを偏見というのか、最低だな俺。
「はいはーい! じゃあまずは私からいきますっ」
はい出ました。クラスに一人はいるいずれマドンナ的存在となる中心人物陽キャ女子。 しかしこれで先生は助かったな。 明らかにホッとしてるし、これで速やかにHRを進めることが出来るだろう。
「おっ、めっちゃ可愛いじゃん狙っちゃおっかな〜どうする狙っちゃう?」
「え」
隣の席のチャラ男君よ、急に話しかけんなよ友達かと思っちゃうじゃないか。 やだよ高校入って初めての友達が陽キャイケイケチャラ男なんて。
流石に悪目立ちになりすぎると考えたのか、本気で気になったからこそ遠回しの牽制のつもりで俺に声掛けたのかは知らないが、隣に聞こえる程度の声量で言ったことは結構ポイント高いぞ、それだけだがな。
「聖堂女子中学出身の松原 詩音です。 趣味はお菓子作りと歌うこと! 早く皆と仲良くなりたいから良ければこの後放課後みんなで親睦会のつもりでカラオケに行きたいなって思います」
よろしくねっ、と最後に音符でもつきそうな弾みのあるハキハキとした明るい声と思春期男子に刺さる天使のような笑顔。
彼女の自己紹介によって場が盛り上げられ、先生の存在を忘れるかのようにわいわいとはしゃぎながら次々と自己紹介をしだすクラス。
盛り上げとしては完璧ではあるが、中には俺や後ろの席の子のような陽キャ特有の空気を好かない、又は苦手な人間もいる為色々と自重してほしかった気はするが仕方がない。
「俺は西谷 駿! サッカー部に入ろうかなって迷ってるとこで、好きなことはダチと遊ぶこと。 勿論女の子と遊ぶのも全然ありだから気軽に誘ってくれな」
彼女はいないぜなんて、そんな大きな声で堂々と言えるのは流石と言えばいいのか隣の席のチャラ男よ。
何が良かったのかは分からないが、ギャルっぽい女子や陽キャグループに所属するであろう女子達にすごいウケてたみたいだし成功なのだろう。 何がすごいって、もう既に陽キャグループの一員にでもなっているかのようにわいわいと隣の席のチャラ男君も和に加わっているのだ。
化け物だな。
「次、お願いできるかな」
「次お前だぜ」
いつの間にか俺の番か。 司会でも務めることにしたのか、松なんとかさんがこちらに笑顔を向けて声をかけ、隣の席のチャラ男君も声をかけてくる。
被っちゃったねあははじゃねーよ勝手に青春すんなボケ。
とは言っても、俺は極力目立ちたくないし居ても居なくても変わらないような陽キャにも陰キャにもなれない無難な生徒でいたいのだ。 つまり、変なことは言わなくていい普通でいい。
「山田 政宗です。 趣味は読書で、部活はまだ決めてません。 一年間よろしくおねがいします」
「伊達 政宗みてぇな名前だな」
黙れクソ陽キャ。 ケラケラ笑ってんな、名前だけじゃねぇか全然似てねぇ。
しかしなんなんだこの陽キャチャラ男君は。 隣の席になったからか、めちゃくちゃ話しかけてくるな。
……せめて女子が良かった。
「読書いいよね。 私も本好きだから良かったら今度オススメの本教えて欲しいな」
「是非」
漫画でよろしいか。
しかしこの松なんとかさん一人一人の自己紹介に笑顔で反応してるのは凄いな。 これは好きになるかも。
本当はゲームなりアニメ鑑賞なりと言ってやっても良かったが、うっわきっも〜とか言われたら軽く死ねるしな。
「趣味は漫画やアニメ鑑賞でござる。 後はまぁ…… デュフフ」
「うっわきも」
「ぐふっ辛辣」
そうそうあんな風にな。 まあ今のは語尾やずっとニヤニヤしてギャル系女子グループの方をチラチラと見てたのもあると思うが、あんな失敗はしたくない。
今もヒソヒソと自己紹介に失敗した者達を中心に半笑い気味に馬鹿にする者が複数人いるし、これから先肩身が狭い思いをするかもしれない。
「あれがオタクか」
「あれは多分変態」
「おっ、初めて反応してくれたな〜」
黙れクソ陽キャ。 初めてオタクを見たかのような反応されたのもそうだが、先程の彼がイコールオタクと思われるのは流石に他の本物のオタク達に申し訳ないからな。
ちなみにあの変態に関しては馬鹿にされてても同情したりしない。 なんかビクビクして喜んでる感じがするから、あれは本物だな。
「連絡先交換しようぜ」
「今HR中だから」
少し反応しただけでパッと花が咲いたかのような笑顔でこっち見んな、肩叩くな、無駄に爽やかで腹立つ……チャラ男のくせに性格いいのか属性何個持ちだこいつ。
「くだらねぇ」
「ん?」
おっ、なんだなんだ。
クラスの雰囲気が変わった感じがする。 猛獣のように低く怒りさえ籠ってそうな声で発せられた方を見ると、いかにも不良っぽい長身の男がいた。
髪を派手に染め、制服は規則を大いに破って着崩し改造している。
「さっきからうるせぇんだよお前ら。 もっと静かに出来ねぇのか」
「ご、ごめんね。 少し盛り上がりすぎちゃったかな」
「パッと済ませればいいものを無駄に深堀しやがって……俺は無駄が嫌いなんだ」
「ほ、ほんとにごめん。 本当に申し訳ないと思うけど、名前だけでも教えて貰えるかな。 少なくともこの一年間は同じクラスメイトだから、仲良くしたいんだっ」
「……竜胆 廻。 下の名前で呼ぶな」
派手男は言いたいことを言って多少はスッキリしたのか、一度舌打ちし、腕組みをして目を閉じる。
松なんとかさんの悲しそうな表情を見て言いすぎたと思ったのか、慰めようとする周囲の陽キャ達が非難するかのような視線を向けられてさすがに言いすぎたと思ったのか。
――いや、あれは間違いなく唯我独尊タイプ。 恐らく周囲の雰囲気が癇に障ったりしたのと本当に無駄とやらが嫌いだからなのだろう。
「おいおい、やべぇな」
「……まあ、今時珍しいかもね」
入学したての学校で周囲の空気を全く気にせずに自分の思ったことをはっきりと言える者はすごいが、あれほどあっさりと周囲を敵に回す物言いが出来る者は本当に極小数だろうな。
「分かるか兄弟」
「誰が兄弟?」
「このクラス、女子の顔面偏差値が極めて高いぜ」
「え」
「しかも、制服越しでもわかる――」
「あ、もういいです」
なるほど、このクラスには少なくとも変態が二人はいるようだな。
まさか今までの松なんとかさんと派手男のやり取りをガン無視して女子生徒の顔や身体を見ていたとは……本物か。
「フフ……アハハハッ! 」
「次はなんだ?」
窓側に座る派手男とは対極に、廊下側から聞こえてくる高笑い。
もうお腹いっぱいなんですがね、次から次へと個性豊かなキャラが出てきて普通を目指す俺としては目立ちにくくなるし嬉しいけど全部後にして欲しいわ。
「あ、えっと、君は?」
「失礼、僕の名前は覇導 優。 名家の長男として、凡人達の暮らしを知っておくべきだと思い適当な学校を選んではみたが……フフ」
周囲から驚く声が聞こえてくる。 詳しくは知らないが、様々な事業に手を出しては大いに成功をし続けているという世界的にも有名な名家、らしい。
とにかく、とんでもない大金持ちの坊っちゃんというわけだ。
「覇導君よろしくねっ。 それで、えっと、急にどうしたのかな」
「フフ、この学校は人以外の生物も生徒とするんだな、とね」
「あ?」
もう既にマドンナ的存在となっている松なんとかさんの対応力もとんでもないが、どう考えても小馬鹿にしたかのように話す坊っちゃんもやばいな。
思いっきり派手男の方を見て言ってるし、その坊っちゃんに視線を向けた派手男も理解したことだろう。
「狂犬……いや、野良犬かな」
「おい、それは俺に言ってんのか」
思いっきり机を蹴ったのか、その前に座る生徒の椅子に激しくぶつかった影響で大きな音がクラスに響いた。
恐らく、一番驚いたのは机をぶつけられた前の生徒ではなく、ずっと空気であった担任の先生だろう。
本当に先生かこの人。 役に立たねぇ……。
「犬にしては随分と上手に言語を扱うものだ。 どうだ? 僕のペットにでもなってみる気はないか」
「喧嘩売ってんならそう言えよ七三坊」
ドスの効いた低い声を響かせて立ち上がる派手男に合わせるかのようにゆっくりと立ち上がる坊っちゃん。
ほかのクラスメイト達は怯え、松なんとかさんがジリジリと近づく双方を止めようとするの止める陽キャ達。
我関せずといった者も多くいる中、隣のチャラ男はなんか面白そうなことになってきたとニヤニヤしてるし、後ろ席の自己紹介を失敗した女子生徒は多分恐怖のあまり失神している。
「別におかしなことを言ったつもりはねぇんだがな」
「物言いはついでさ。 問題は他にもあるだろう?」
「はっきり言えよ、ぶん殴るぞてめぇ」
「フフ、弱い犬ほどなんとやら、かな」
「よし殺す」
窓側後ろ席に座る派手男と、その真逆となる位置の廊下側前の席に座る坊っちゃん。
ジリジリと他の席を避けながら近づく双方は、クラス中央付近へ。
「……」
「……」
「……」
ちなみに、他のクラスがどうなのかは知らないがこのクラスは初めの席順が特に決まっていなかった。 早い者勝ちで早く来た人から自由に選べるようになっていた。
少し遅めに来たせいか、人気の後ろ側の席は埋まっていて、前側は何となく嫌だった為空いてる席で目立たなそうな場所を選んだ結果、なんと真ん中列の中央左の席。
中央なのだ。
「ブフッ……! 」
中央右隣の席のチャラ男君が周囲にバレないように隠れて笑っている。 口を手で隠していても肩が震えまくってるのがよくわかる。 奴は今、俺の状況を見て笑っている。
「実に面白い狛犬になりそうだね」
「お望みなら、今すぐにでも噛み殺してやろうか成金坊や」
本当に意味がわからない。
何故。
何故だ。
「「……」」
なんでこいつら、モブの俺を挟んで睨み合うんだよ……。
自分の学生生活を所々組み入れながらの作品になるかもです。
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