垣根のない酒宴 【月夜譚No.258】
幽霊にも色々な人がいる。生きている人間も様々だから、当たり前といえば当たり前だが。
正直なところ、生者も死者もそう変わらないと思う。生きていれば生者で、死んでしまえば死者。それだけのことである。
彼は酒のグラス片手に壁に身を預け、ぼんやりとホールの中を見遣った。
そう広くはない空間で、数十人が笑い、呑み、語らっている。
その内の一人が、にこやかに彼に近づいてきた。
「やあ、楽しんでいるかい?」
「まあね」
「この場を設けてくれて、感謝しているよ。ありがとう」
「これも仕事の内だから」
手を掲げて戻っていくその後ろ姿は、少しだけ向こうが透けて見えた。
ここにいる生者の内の大半は、人数が半分程度にしか感じられていないはずだ。〝見えない〟のだから、それは仕様のないことである。
けれど、今こうして同じ場所にいて楽しんでいることには変わりない。どちらも大して変わらない。
彼はグラスを傾け、その口元に笑みを浮かべた。