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琥珀糖に舞う、金桂と紫子さん。  作者: YUQARI
第四章 盛誉と玖月善女さま。
9/43

✤心の距離✤

 盛誉(せいよ)の住んでいる普門寺(ふもんじ)と、盛誉(せいよ)のお母さん……玖月善女(くげつぜんにょ)さまが住んでいるお寺は、実際のところ、少し離れている。

 

 ……けど、会いに行けない距離でもない。

 会おうと思うなら、いつでも会える距離だ。

 

 それなのに こんなにも会いに行かないとなると、実際の距離ではなくて心の距離が遠いんだろうと僕は思った。

 

 盛誉(せいよ)は『忙しいから』なんて言っていたけれど、そうじゃなくて本当は怖いんだと思う。

 

 もしもまた、拒絶でもされたらって……。

 

 

 だからなのか盛誉(せいよ)は、玖月善女(くげつぜんにょ)さまの所へ行き着くまでの間、信じられないほど寄り道をした。

 

 

 ……えぇ!? まだ決心つかないの!?

 

 

 僕は呆れてしまった。

 でも、……まぁ、それが少し面白くもあって、僕は黙って盛誉(せいよ)にしがみついて、大人しくしていた。

 

 

『にゃあ』

 

 僕がイタズラっぽく そう鳴くと、真っ青な顔をしていた盛誉(せいよ)は少しハッとしたように、けれどホッと息をついて僕を見る。

「ん? どうしたの?」

 って、すごく優しい顔で微笑んで。

 

 ふふ。そしてその顔は、まるで『たった今起きました』とでも言うかのような、そんな変な顔だったんだけどね。

 

 だけど僕は、そんな盛誉(せいよ)のちょっと呆けたようなその顔を見て、密かに愉しんだ。

 ホント、心ここに在らずって感じで可笑しかった。

 

 盛誉(せいよ)は僕が鳴くと、相変わらず『腹が空いたのか』って覗き込む。それがまた可笑(おか)しくて、でも嬉しくて、僕はわざと鳴いてみせたんだ。

 

 そうするごとに、盛誉(せいよ)のコチコチに凝り固まった心も、少しずつ(ほぐ)れてきたように思えた。

 遠回りをした分、盛誉(せいよ)は落ち着きを取り戻す事が出来た。

 案外、良かったのかもね。道草も。

 

 

 その長い道のりの間、盛誉(せいよ)盛誉(せいよ)で僕に色んな事を教えてくれた。

 

 

『あれが畑だよ。あれが人の住む家だよ』

『あそこには、アケビの(つる)()っていて、今頃の時期になると、甘い実がなるのだよ。

 子どもたちはそれを、今か今かと狙っていて、……ふふ、私も昔、兄と競って採ったものなんだよ?』

 

 

 なんてね。

 

 ふふ。でもまぁ、いっか。

 僕は玖月善女(くげつぜんにょ)さまの所へ行き着くまでの間、盛誉(せいよ)と一緒にいられるし、色んなものを見ることが出来たから。

 

 そう。

 初めて見る外の世界は、本当に驚くほど広かったんだ!

 

 

 僕は盛誉(せいよ)に抱っこされていたから、自分の足で歩くよりも色んなものを たくさん見る事が出来た。

 世間はものすごく広くて、色んなものがあったんだ。

 

 

 僕は盛誉(せいよ)といた、あの普門寺の敷地しか知らない。

 

 普門寺は、そんなに大きなお寺でもなかったから、体の小さい僕にだって、直ぐに一周出来ちゃう広さなんだけど、それでも僕には十分過ぎるほど愉しい場所だった。

 

 走り回ることだって出来るし、池や竹林だってあって、毎日見て回っても飽きることなんてなかった。

 

 だけど世の中は、それよりも もっともっと広かった。

 

 たくさんの木が生えていて、道があって、家があって、それから人がいて、畑って言うところで食べ物を育てていて、そしてあの頃は、ちょうど稲刈りの時期だった。

 

 

「おお! これは普門寺の坊んさん。こン前は領主さまに、話しばしてもろて、ほんに世話になりました」

 

 そう言って畑仕事中の村人が、ワラワラと寄って来る。

 

 我先にと盛誉(せいよ)と話そうとする人たちで、すぐに身動きが取れなくなる。

 

 もう! ますます玖月善女(くげつぜんにょ)さまに会う時間が短くなるじゃないか!

 

 僕はそう思って、ムスッとしたけれど、盛誉(せいよ)は何だか嬉しそうだった。

 思い詰めていた青い顔が、ホッとしたように緩んでいく。

 

「おかげさまで、今年の年貢はいくらか軽うなりました」

 

「そぎゃんそぎゃん。

 ……あ、うちで柿が出来たけん、持ってっはいよ。今年はまた、えろう採れたけん」

 

「なーん言いよっつか、坊んさん出掛けよらすじゃなかか。柿やらやん(やる)なら邪魔んなったい。

 あ、おっ()はな、今朝早う、あん球磨(くま)川で尺鮎(しゃくあゆ)(大きく太った鮎)ば釣ったけん、後で普賢寺に持っててやったい」

 

「はは、それは嬉しかけども、少し玉垂(たまたる)にも分けても良かかい?」

 

「あぁ、良か良か。

 ほほぅ、これが噂のお猫さまかい? はー、もぞらし(可愛らし)かね。べっぴんさんやなかと?」

 

「いやいや、オスだろたい?」

 

「……なんば言いよると? オスでん『べっぴんさん』言うて、なんが悪かと!?」

 

「まぁまぁまぁ……」

 始終こんな調子で話が止まらない。

 盛誉(せいよ)は間に入ったり受け答えしたりと、大忙しだった。

 

 

 

 

           × × × つづく× × ×

   ┈┈••✤••┈┈┈┈••✤ あとがき ✤••┈┈┈┈••✤••┈┈



     お読み頂きありがとうございますm(*_ _)m


        誤字大魔王ですので誤字報告、

        切実にお待ちしております。


   そして随時、感想、評価もお待ちしております(*^^*)

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― 新着の感想 ―
[良い点] 視点が低いと、いろいろ、見えにくいですよね。動物の視点カメラとかあったよな。 [気になる点] ここで、熊本弁? でますかw
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