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琥珀糖に舞う、金桂と紫子さん。  作者: YUQARI
第三章 僕と盛誉。
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✤お経と度胸✤【玉垂目線】

 僕が盛誉(せいよ)に拾われたその次の日。

 

 ついに盛誉(せいよ)のお母さんに会えるんだと思って、僕はちょっぴりドキドキしながら、出掛けるのを待っていた。

 

 

 ……だけどいくら待っても、盛誉(せいよ)は動かない。

 

 お寺に鎮座するお釈迦さまの前に ひざまづいて、ずーっとお経を唱えるんだ。

 そう、それも何日も何日も。

 

「所謂諸法 如是相 如是性 如是体 如是力 如是作 如是因 如是縁 如是果 如是報 如是本末究竟等……」

 

 え……ちょっと、お母さんはどうなったの?

 

 ……いったいいつ行く気なんだろう? と僕がいい加減、痺れを切らした頃、盛誉(せいよ)はのっそりと動き出した。

 

「……」

『……』

 少し青ざめた顔を僕に向け、はぁ……と溜め息をつく。

 

 ……いやいやいや、そんなに嫌なら、行かなければいいんじゃないの!?

 なんなんだろ?

 盛誉(せいよ)のお母さんって、とてつもなく怖い……とか?

『……』

 

 僕はそう思って、密かに心配したんだけれど、どうやらそうじゃないみたい。

 盛誉(せいよ)は、お母さんに会いたくないわけじゃない。会いたくても、どんな風に会えばいいのか、分からないんだ。

 

 お母さんの様子が気になって気になって仕方なくて、ひどく心配しているくせに、どうしたらいいか分からない。だから盛誉(せいよ)は、なにを思ったのか、僕をお母さんの代わりにして、話す練習までし始めた。

 

 

「……」

 

 盛誉(せいよ)は神妙な面持ちで、僕を自分の目の高さまで持ち上げる。

 そして僕の目を見つめると、ごくり……と唾を飲む。

 

『……み、みゃあ?』

 

 僕はどこを見て良いのかわからなくなって、哀れな声を出す。そしてその声が合図になって、盛誉(せいよ)は決まって口を開いた。

 

「《……は、(はは)さま?

 ご機嫌はいかがでございましたでしょうか》」

 

『……ふ、ふにゃ……、』

 

 ……せ、盛誉(せいよ)? 棒読み。棒読みだから……。

 僕は思わず、目を逸らす。

 

 するとそれを見て、盛誉(せいよ)の肩が跳ねる。

「あ、……あの!そ、その。なんと言いえばいいのか……。

 えっと、その…………」

 

『……』

 

 横目でちろり……と盛誉(せいよ)を見れば、盛誉(せいよ)(うつむ)いて黙り込んでいる。

 

『……』

「………………。」

 

 要は、話が続かない。

 

 どうしているのか心配しているのに、何を話せば良いのだろう? と、盛誉(せいよ)はいつも、頭を悩ませていた。

『……』

 

 盛誉(せいよ)ってばホント、大丈夫なのかな?

 大人のくせに、今の姿はちょっと情けない。

 

 ……いやでも、それも一つの愛嬌ではあるのかも。なにも完璧である必要なんてない。

 だけど盛誉(せいよ)は、僕に出会ったあの日から、ウダウダ ウダウダと悩み続け、なかなかお母さんに、会いに行けなかったんだ。

 

 

 

 ──『(はは)さまに会いに行こうか、行きまいか……』

 

 

 

 ずっとそうやって、悩みに悩んでた。

 

 親子って、そんなだったっけ? そんな風に、相手の出方を考えなきゃいけないような関係なの?

 僕は分からなくなる。

 

 ううん。そもそも僕には親がいないから、正直親子ってもの自体、よく分からない。

 だけど、そんなに悩むもんなんだろうか?

 

 悩んでないで、早く行けばいいのに。案外、行ってみれば、悩む必要もなかったなって、思うんじゃないかな?

 

 

『……みゃあ』

 そうは思ったけれど、僕はこのとおり猫だから、励まそうにも相談に乗ろうにも、なんの役にも立たない。

 役に立たないから、こうやって盛誉(せいよ)を見てることしか出来ない。

 

 だから僕は、毎回毎回盛誉(せいよ)の読経の後に、こうやって抱き上げられて、お母さん役をする羽目になる。

 

 僕にできることと言ったら、盛誉(せいよ)が何かを言った時に、出来るだけ励ますように『にゃあ!』とか『ふご』とか『ふにゃにゃにゃにゃ』って返事をするくらい。

 

 最初は当然、僕だって、盛誉(せいよ)のためならって思って、頑張ったよ? だけど毎回毎回これじゃあねぇ……。

 しかもいくら経っても、なかなか先に進まない。

 これって、『練習』ですらないんじゃないの?

 だから僕は、盛誉(せいよ)に付き合うのも いよいよ飽きてきて、イライラが頂点に達する……!

 

 もう! いい加減にしてよっ!

 

 そんなに心配する必要なんて、そもそもないんだ!

 だって実のお母さんなんだろ?

 盛誉(せいよ)を産んでくれた人なんだろ?

 こうやって会話の練習してから会うような、相手じゃないんだよ!?

 

 確かに僕は盛誉(せいよ)の事が好きだけれど、毎回そのお通夜みたいな どんよりした顔を目の前に、こんな訳も分からない練習に付き合うほど、僕は暇じゃないんだ!

 

 もう、いい加減お母さんに会わせてくれてもいいだろ!?

 僕を口実に、会いに行くんじゃなかったの!?

 

 

 だから僕はある日、怒って盛誉(せいよ)を引っ掻いた。

『シャーッ!』

 バリッ!

 

 威嚇音と共に、前足を振り下ろす……!

 

「……!?」

 僕の爪が盛誉(せいよ)の手を(かす)めると、盛誉(せいよ)は悲鳴を上げて、驚いたように僕を見た。

 

『!』

 僕はと言うと、脅かすつもりで軽く(・・)引っ掻いた……はずだった。だけど違った。

 

 爪は思っていた以上に鋭く尖っていて、少し触れただけで、盛誉(せいよ)の手に真っ赤な血の線を描いた。

 

 あ、やば。強すぎた……!

 

 気づいた時にはもう遅い。

 盛誉(せいよ)は顔をしかめ、とても苦しそうな顔をして、僕を見る。

 

「ご、ごめん。……ごめん……」

 

 ……でも、先に謝ったのは、盛誉(せいよ)だった。

『……』

 

 その声はまるで消え入りそうで、小さな子どもが、悲痛な悲鳴を上げて、泣いているようにも見えた。

 

 なんで?

 ……なんで盛誉(せいよ)が謝るの!?

 

 

『……っ、』

 

 盛誉(せいよ)の手に、鮮やかについたその赤い線から、玉のような血液が ぷくり……と、いくつも盛り上がる。

 僕はハッとして、走り寄る。

 

 ごめん。ごめんなさい!

 こんなに強く、引っ掻くつもりなんか、なかったんだ!

 

『みゃあぁ……っ、』

 

「……?

 もしかして心配、してくれているの?

 ふふ。大丈夫だよ? こんなの舐めればすぐ治る」

 

 盛誉(せいよ)はそう悲しそうに笑って、僕が引っ掻いた傷を舐めた。

『みゃあ……』

 見上げる僕を、盛誉(せいよ)は撫でてくれる。

 

「悪かった。私がしつこかった。

 ……いい加減、腹を(くく)らなくちゃね」

 

『……』

 盛誉(せいよ)はそう言って、深く溜め息をついた。

 

 

 

           × × × つづく× × ×

   ┈┈••✤••┈┈┈┈••✤ あとがき ✤••┈┈┈┈••✤••┈┈



     お読み頂きありがとうございますm(*_ _)m


        誤字大魔王ですので誤字報告、

        切実にお待ちしております。


   そして随時、感想、評価もお待ちしております(*^^*)

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― 新着の感想 ―
[良い点] 7/8 ・ふシャァァァァ! [気になる点] いい奴。これがイケメン?
[良い点] 盛誉、不自然でもなんでもない、普通にそうじゃないかなと。 血のつながりというけれど、私は、あまり信じないですね。親子なんて、たまたま長く一緒にいただけ、法律でいろいろ決まっているので、そ…
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