✤盛誉《せいよ》✤
ここで少し、幼い玉垂を拾った【盛誉】の事について、説明いたしましょう。
玉垂を拾ってくれたこの盛誉は、地頭(土地を管理し、税を集めたりする職)の家に生まれました。
当然身分的には申し分ない家柄ではありましたが、いかんせん盛誉は次男坊。
家を継ぐ……どころか、継承争いの火種になりかねない彼を、家族は早くから普門寺という寺に出家させていました。
その当時、盛誉はまだ、十一歳になったばかり。本当なら大好きな家族の傍にいて、まだまだ甘えていたい年頃ですよね。
けれど出家は親の言いつけ。
【親】……と言っても、相手は地頭。
【親】の想いだけでなく、多くの【家臣】の想いも、そこには含まれているのです。逆らうわけにはいきません。
ですから、まだ幼い盛誉は泣く泣く家族と離れ、この普門寺へ入ったのでした。
でもそれはもう、ずいぶん昔の話です。
今ではもう、この盛誉も、立派な若者になっています。
泣く泣くやって来た寺ではありますが、住めば都。その人柄の良さも相まって、盛誉はメキメキと頭角を現し、今やこの普門寺の院主を務めるまでになりました。
その上、表向きは寺の坊主……ですが、元は地頭の子ども。
当然その発言力も、弱いものでは有り得ません。
自分の吐き出すその言葉、そしてその行動に、それなりの力がある事を盛誉は良く心得ていて、常に民心に寄り添い、そして自分の行動を省みながら、その思いを地頭である父宗豊や兄の宗昌へ伝えていました。
よりよい政治が行えるように……、いつもその事を頭に置きながら、地頭である家族の手助けをしていたのです。
そんな真面目な性格の盛誉でありましたが、可愛い子猫を前にしては型なしです。
「ふふ。ノミばかりではないか。
これではさぞ、痒かったろう?」
盛誉は玉垂を温かい湯の中に入れて、体を洗ってくれました。
《気持ちいい……》
玉垂は優しく撫でてくれる盛誉が大好きになって、おとなしく体を洗われると、近くの家から貰ってきたという牛の乳を飲ませて貰いました。
お腹がとても空いていたので、たくさんもらって来ていた牛の乳は、あっという間になくなりました。
玉垂がそれをすっかり飲み干すと、牛の乳で真っ白になった口許をぺろぺろと舐めながら、盛誉を見上げました。
盛誉は、まさかこんなに小さな子猫がこんなに飲むとは思っておらず、呆れたような、困ったような顔で言いました。
「今はこれしか手に入らなかった。夜なのだから仕方がない。
このように、腹ぺこだったとは。
明日は村人に、魚を分けてもらおうかの……」
あごを撫でながら、盛誉は呟きます。
『みゃあ!』
「お。意味が分かるのか? ふふ、お前は賢いの」
そう言って玉垂の頭を撫でてくれました。
『みゃあ。みゃあ!』
正直玉垂は、まだ【魚】と言うものを食べたことがなかったけれど、優しい盛誉がくれるものなのならば、きっと美味しいに違いない! と嬉しくなったのでした。
× × × つづく× × ×
┈┈••✤••┈┈┈┈••✤ あとがき ✤••┈┈┈┈••✤••┈┈
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※あ、そうそう。子猫に牛乳を飲ませてはダメです※
お腹、壊すからねw