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琥珀糖に舞う、金桂と紫子さん。  作者: YUQARI
終章 けれど全ては闇の中。
43/43

✤薫風かおる秋深し✤

「おそようございます……」

 

 瑠奈(るな)さんの呆れた声が響いた。

 

「ん……。

 おそよう……今、何時……?」

 

 気だるそうに紫子(ゆかりこ)さんは瑠奈(るな)さんに尋ねる。

 

 

「今?

 今はまさかの午後三時ですよ……」

 

 再び瑠奈(るな)さんの呆れ返った声が響く。

 

 

 

 今日は日曜日。

 

 特に誰も、なんの用事もありません。

 だから、紫子(ゆかりこ)さんも瑠奈(るな)さんも、玉垂(たまたる)さんのお家に泊まりました。

 

 だって、化け猫屋敷ですよ!

 リアル ハロウィン?

 ちょっとワクワクしますよね。

 

 

 けれど玉垂(たまたる)さんのおうちは、普通の洋館でした。残念。

 

 ……いや違うか。

 見た目は洋館でしたけれど、中身はガッツリ和風でした。

 

 だから三人は布団を川の字に並べて寝たんです。

 だから玉垂(たまたる)さんが起きた時、目の前に紫子(ゆかりこ)さんの寝顔が見えました。

 

 紫子(ゆかりこ)さんは飛び起きます!

 玉垂(たまたる)さんも飛び起きました!

 

 

「!」

『!?』

 

 紫子(ゆかりこ)さんは悲鳴をあげ、言いました。

 

「うそ。

 朝ごはんとお昼ごはん、食べ損ねてしまった……」

 

『……………………』

 そこ?

 

 玉垂(たまたる)さんは黙って起き上がり、紫子(ゆかりこ)さんを見る。

 

 

 そう言えば盛誉(せいよ)家族、食に関して妙なこだわりがあったっけ……。

 

 玉垂(たまたる)さんはのっそり起き上がって布団をしまうと、顔を洗って、ごはんの用意をし始めます。

 

 すっかり遅くなってしまって、朝ごはんでもお昼ごはんでもなくて、気の早い夕ごはんみたいになってしまうけれど、ないよりはいいかも知れない。

 そう思いながら、玉垂(たまたる)さんは食事を作りました。

 

 

 

 

 トントントントン……。

 

 

 

 優しいリズムの包丁の音を聞きながら、紫子(ゆかりこ)さんは瑠奈(るな)さんを見上げます。

 

 早くに起きていた瑠奈(るな)さんが、ごはんを食べたか気になったのです。

 

 

「……」

 

 だけど一目見てすぐに分かる。

 

 ……あ、1回帰ったの、ね……?

 

「……」

 

 

 紫子(ゆかりこ)さんに冷たい視線を送る瑠奈(るな)さんは、既にきっちり着替えていて、昨日の服じゃない。

 

「……」

 

 紫子(ゆかりこ)さんは もそもそと起き上がり、昨日と同じ服(・・・・・・)を着込もうとする……が、瑠奈(るな)さんが新しい服をサッと出してくれました。

 

「……!」

 

 紫子(ゆかりこ)さんはそれを見て、ぱっと顔を輝かせ、新しい服に腕を通す。

 

 瑠奈(るな)さんが持ってきてくれた洋服は、もちろん洗いたてで、優しい柔軟剤の香りがする。

 その甘い香りに包まれて、紫子(ゆかりこ)さんは嬉しくなりながら台所へ行くと、いつの間にやらたくさんの ごはんが出来ていた。

 

 メニューは……。

 

 つぼん(じる)に お漬物。

 栗とカボチャの甘露煮と たたきごぼう。

 ナスの煮びたしに 紅白なますまである。

 それからアレは……尺鮎? の塩焼き……?

 

「……これはまた、古風な」

 

 川で鮭を獲る熊のごとく身構え、尺鮎を狙う玉垂(たまたる)を想像し、瑠奈(るな)さんが思わず唸る。

 しかも、さっき起きたばかりで、こんなに作ったの?

 

 驚きを通り越し、少し後ずさる瑠奈(るな)さんを尻目に、紫子(ゆかりこ)さんは席に着く。

 

「……いただきます」

 

 そっと手を合わせたその後に、真っ先に手を伸ばしたのは【つぼん汁】。

 

 

 つぼん汁は人吉の郷土料理で、鶏肉、かまぼこ、里芋、ごぼう、人参、大根などの野菜を出汁(だし)で煮て、醤油で仕上げた具だくさんの汁ものです。

 

 もともとは人吉球磨地域で、秋祭りに振る舞われていた会席料理の一つなのですって。

 

 その名前の由来は、ふつう会席の膳では、浅いお椀と深いお椀を使うのだけれども、このつぼん汁は、蓋付きの深い椀に汁を盛り付けていたことから、【壺の汁】……【つぼん汁】と呼ばれたのだそう。

 

 

「はぁ……。美味しい……」

 

 一口飲んで、紫子(ゆかりこ)さんはニッコリ笑った。

 

「あ。薄黄木犀……」

 

 ホッと一息ついてテーブルを見ると、そこには花瓶があって、薄黄木犀の花のついた小枝が生けてあった。

 紫子(ゆかりこ)さんは、ふふふと笑う。

 

「薄黄木犀は、生けてはダメなのに……」 

 

 つんつんと花をつつきながらポツリと言った紫子(ゆかりこ)さんに、瑠奈(るな)さんは昨日の話を思い出す。

 

「あぁ、木犀の花は、散りやすいから……?」

 紫子(ゆかりこ)さんは頷いて、それから ふふふと笑った。

 

「そう。

 ……だけど私は、落ちた薄黄木犀の花も、好きなのよ……?」

 言って玉垂(たまたる)さんに微笑みかけた。

 

 

『……』

 ああ。やっぱり、似ている……。

 

 

 ハラハラと散るその花は、まるで粉雪のようで、

 

 玉垂(たまたる)さんの憂いを

 少しずつ少しずつ、

 

 溶かしてくれたのでした。

 

 

 

        × × × (ホントにw)おしまい× × ×

 

   ┈┈••✤••┈┈┈┈••✤ あとがき ✤••┈┈┈┈••✤••┈┈

 

 

     お読み頂きありがとうございますm(*_ _)m

 

        誤字大魔王ですので誤字報告、

        切実にお待ちしております。

 

   そして随時、感想、評価もお待ちしております(*^^*)

     気軽にお立ち寄り、もしくはポチり下さい♡

 

        

   これで『琥珀糖に舞う、金桂と紫子さん。』のお話は

         おしまいです(*^^*)

 

    長々となってしまったお話を最後までお読み頂き

    ありがとうございました(*・ω・)*_ _)ペコリ

 

 

   2022.10.19 秋企画『歴史』テーマ『手紙』でした。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 「秋の歴史2022」から来て一気読みさせていただきました。 相良藩の化け猫伝説、あまり詳しく知らなかったのですが、中々切ないお話なのですね。 そして玉垂くん、友達ができてよかったね。 [一…
[良い点] お疲れ様でした! 史実に独自解釈を入れ、ファンタジー要素を加味する、よくある手法ですが、キッチリ書かれていました。猫の空気感がよかったと思います。 [気になる点] この種のもの、短編(1…
感想一覧
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