✤薫風かおる秋深し✤
「おそようございます……」
瑠奈さんの呆れた声が響いた。
「ん……。
おそよう……今、何時……?」
気だるそうに紫子さんは瑠奈さんに尋ねる。
「今?
今はまさかの午後三時ですよ……」
再び瑠奈さんの呆れ返った声が響く。
今日は日曜日。
特に誰も、なんの用事もありません。
だから、紫子さんも瑠奈さんも、玉垂さんのお家に泊まりました。
だって、化け猫屋敷ですよ!
リアル ハロウィン?
ちょっとワクワクしますよね。
けれど玉垂さんのおうちは、普通の洋館でした。残念。
……いや違うか。
見た目は洋館でしたけれど、中身はガッツリ和風でした。
だから三人は布団を川の字に並べて寝たんです。
だから玉垂さんが起きた時、目の前に紫子さんの寝顔が見えました。
紫子さんは飛び起きます!
玉垂さんも飛び起きました!
「!」
『!?』
紫子さんは悲鳴をあげ、言いました。
「うそ。
朝ごはんとお昼ごはん、食べ損ねてしまった……」
『……………………』
そこ?
玉垂さんは黙って起き上がり、紫子さんを見る。
そう言えば盛誉家族、食に関して妙なこだわりがあったっけ……。
玉垂さんはのっそり起き上がって布団をしまうと、顔を洗って、ごはんの用意をし始めます。
すっかり遅くなってしまって、朝ごはんでもお昼ごはんでもなくて、気の早い夕ごはんみたいになってしまうけれど、ないよりはいいかも知れない。
そう思いながら、玉垂さんは食事を作りました。
トントントントン……。
優しいリズムの包丁の音を聞きながら、紫子さんは瑠奈さんを見上げます。
早くに起きていた瑠奈さんが、ごはんを食べたか気になったのです。
「……」
だけど一目見てすぐに分かる。
……あ、1回帰ったの、ね……?
「……」
紫子さんに冷たい視線を送る瑠奈さんは、既にきっちり着替えていて、昨日の服じゃない。
「……」
紫子さんは もそもそと起き上がり、昨日と同じ服を着込もうとする……が、瑠奈さんが新しい服をサッと出してくれました。
「……!」
紫子さんはそれを見て、ぱっと顔を輝かせ、新しい服に腕を通す。
瑠奈さんが持ってきてくれた洋服は、もちろん洗いたてで、優しい柔軟剤の香りがする。
その甘い香りに包まれて、紫子さんは嬉しくなりながら台所へ行くと、いつの間にやらたくさんの ごはんが出来ていた。
メニューは……。
つぼん汁に お漬物。
栗とカボチャの甘露煮と たたきごぼう。
ナスの煮びたしに 紅白なますまである。
それからアレは……尺鮎? の塩焼き……?
「……これはまた、古風な」
川で鮭を獲る熊のごとく身構え、尺鮎を狙う玉垂を想像し、瑠奈さんが思わず唸る。
しかも、さっき起きたばかりで、こんなに作ったの?
驚きを通り越し、少し後ずさる瑠奈さんを尻目に、紫子さんは席に着く。
「……いただきます」
そっと手を合わせたその後に、真っ先に手を伸ばしたのは【つぼん汁】。
つぼん汁は人吉の郷土料理で、鶏肉、かまぼこ、里芋、ごぼう、人参、大根などの野菜を出汁で煮て、醤油で仕上げた具だくさんの汁ものです。
もともとは人吉球磨地域で、秋祭りに振る舞われていた会席料理の一つなのですって。
その名前の由来は、ふつう会席の膳では、浅いお椀と深いお椀を使うのだけれども、このつぼん汁は、蓋付きの深い椀に汁を盛り付けていたことから、【壺の汁】……【つぼん汁】と呼ばれたのだそう。
「はぁ……。美味しい……」
一口飲んで、紫子さんはニッコリ笑った。
「あ。薄黄木犀……」
ホッと一息ついてテーブルを見ると、そこには花瓶があって、薄黄木犀の花のついた小枝が生けてあった。
紫子さんは、ふふふと笑う。
「薄黄木犀は、生けてはダメなのに……」
つんつんと花をつつきながらポツリと言った紫子さんに、瑠奈さんは昨日の話を思い出す。
「あぁ、木犀の花は、散りやすいから……?」
紫子さんは頷いて、それから ふふふと笑った。
「そう。
……だけど私は、落ちた薄黄木犀の花も、好きなのよ……?」
言って玉垂さんに微笑みかけた。
『……』
ああ。やっぱり、似ている……。
ハラハラと散るその花は、まるで粉雪のようで、
玉垂さんの憂いを
少しずつ少しずつ、
溶かしてくれたのでした。
× × × (ホントにw)おしまい× × ×
┈┈••✤••┈┈┈┈••✤ あとがき ✤••┈┈┈┈••✤••┈┈
お読み頂きありがとうございますm(*_ _)m
誤字大魔王ですので誤字報告、
切実にお待ちしております。
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これで『琥珀糖に舞う、金桂と紫子さん。』のお話は
おしまいです(*^^*)
長々となってしまったお話を最後までお読み頂き
ありがとうございました(*・ω・)*_ _)ペコリ
2022.10.19 秋企画『歴史』テーマ『手紙』でした。




