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琥珀糖に舞う、金桂と紫子さん。  作者: YUQARI
終章 けれど全ては闇の中。
42/43

✤金桂舞う秋の夜長✤

 その夜、僕は夢を見た。

 

 あの懐かしい玖月善女(くげつぜんにょ)さまと、盛誉(せいよ)の夢。 

 盛誉(せいよ)玖月善女(くげつぜんにょ)さまを叱ってた。

 

玉垂(たまたる)は、(はは)さまの玩具(おもちゃ)ではないんですよ!』

 

 って。

 そしたら玖月善女(くげつぜんにょ)さまは笑った。あの少し目尻の垂れる、盛誉(せいよ)と同じ微笑みで。

 

『あらあら、言いますわね。

 言っておきますけれど、(わたくし)にだって、(わたくし)の人生があるのです。それをあなたが決めるのは、どうかと思うのですよ?』

 

 その言葉に、盛誉(せいよ)は ぐっと息を呑む。

『な、何を言われるのですか!

 こちらはこちらで、それなりに計画を……!』

 

『計画? 計画とはどんな?

 ……あぁ、アレ(・・)ですの? 自分が冤罪で死ねば、相良(さがら)家が憐れむとでも?』

 

『……うぐ』

 

『あの家がそんなタマ(・・)であるものですか!

 あれだけの名家、人の命の一つや二つ、ただの駒に過ぎませんわよ?

 ヤるならヤるで、(わたくし)のように、徹底的にしませんと!』

 

『は、(はは)さま……。全く反省してませんね?』

 

『【反省】?

 はて? なんの事でございしょう?』

 

(はは)さま!』

 

 僕は困って、その間に座って二人を見上げた。

『にゃあぁぁあ!』

 

『! た、玉垂(たまたる)?』

 

『あらあら。玉垂(たまたる)が困ってますよ』

 

 玖月善女(くげつぜんにょ)さまがそう言うと、盛誉(せいよ)は溜め息をついて僕を抱き上げた。

 

 死んだはずの盛誉(せいよ)だったけれど、抱き上げられると、とてもあたたかだった。

 僕は嬉しくなる。

 

 ゴロゴロと喉を鳴らして、その胸に自分の鼻面を押し付けた。

 懐かしい白檀の香りが、僕の鼻をくすぐった。

 

 僕を見つめる盛誉(せいよ)。その目は、紫子(ゆかりこ)さんと同じ飴色の瞳。その優しい目が細くなる。

 

玉垂(たまたる)

 私たちは、何も喧嘩をしている訳ではないのだよ?

 ただ私は、お前が不憫でならなかったのだ』

 

『にゃ?』

 

『私は、(はは)さまにお願いしたはずですよ?

 玉垂(たまたる)には母が必要だから、傍にいて欲しいと!

 それなのに、こんなに長い間 ひとりぼっちにさせるなんて……』

 

 すると玖月善女(くげつぜんにょ)さまはムスッとする。

 

『えぇ、えぇ、確かに承りましたわよ?

 けれど一番先に逝ってしまったのはあなた(・・・)でしょう?

 預けたっきり、一度も会いにも来なくて……! 無責任にも程がありますわ!

 そんなあなたが、(わたくし)にばっかり文句を言う筋合いはないと思いますわ。

 ……ねぇ? 玉垂(たまたる)玉垂(たまたる)は、(わたくし)盛誉(せいよ)、どちらが正しいと思って?』

 

 玖月善女(くげつぜんにょ)さまはそう言って僕を見る。

 

『……みゃあ』

 僕は困って小さく鳴く。

 

 どちらもコチラもない。

 だって二人とも僕をおいて逝ってしまったから。

 

 だけどそれは、仕方のない事だったとも思う。

 あの時の時代が、二人をそうさせたんだって、今ならそう思う。

 

 

『ふふ。可愛い……』

 

 盛誉(せいよ)はふとそう言って、項垂(うなだ)れた僕の頭を撫でてくれた。

 

『まぁ盛誉(せいよ)ったら、都合の良い……。

 けれど玉垂(たまたる)

 (わたくし)との約束は、これから(・・・・)なのですからね?』

 

 約束?

 これから(・・・・)

 

『?』

 僕は首を傾げる。

 

 すると玖月善女(くげつぜんにょ)さまの顔色が、サッと変わった。

 

『ま、まぁ、その顔! 忘れてしまったのね!』

 

『……』

 

 玖月善女(くげつぜんにょ)さまは僕を見て、ぷりぷりと怒り出す。

 すると盛誉(せいよ)が ふふふと楽しげに微笑んだ。

 

(はは)さま? それはいつの約束(・・)なのですか?

 まさか、四百年も前の話をしておいでなのでは?』

 

『……。よ、四百年だろうと五百年だろうと関係はありません! 約束は約束。

 ねぇ、玉垂(たまたる)? 本当に忘れてしまったの?』

 

『にゃ、にゃう……』

 僕は困って盛誉(せいよ)の腕の中で縮こまる。

 するとそんな僕を撫でながら、盛誉(せいよ)が微笑み、助け舟を出してくれる。

 

『ほらほら(はは)さま? そのように玉垂(たまたる)を苛めないで下さい。玉垂(たまたる)が可哀想です』

 

『いいえ! 盛誉(せいよ)

 玉垂(たまたる)はきっと覚えてます!

 だって、あなただってあの死の間際に言っていたではありませんか! 玉垂(たまたる)は賢い子なのだと!』

 

『!』

 

 なんで玖月善女(くげつぜんにょ)さまがご存知なの? とは思ったけれど、僕はそこで思い出す。

 

 そう言えば、玖月善女(くげつぜんにょ)さまは言っていた。

 

 

 

 ──あの子を見守って。

 

 

 

 と。

 いつか出会うから(・・・・・・・・)って。

 

『……』

 

『ふふ。それ、それですわ。

 ねぇ、出会えたでしょう……あの子に(・・・・)──』

 

 

 

 

 

 

 

 ……そこで僕は目覚めた。

 

 ゆっくり開けたその目の前で、

 紫子(ゆかりこ)さんが穏やかな寝息を立てて

 

 眠っていた。

 

 

『……』

 

 僕はてっきり宗昌(むねまさ)さまのことだと思ってた。

 だけど多分、それは違ったんだって

 

 安らかな紫子(ゆかりこ)さんの寝顔を見ながら、そう思った。

 

 

 

           × × × つづく× × ×

 

   ┈┈••✤••┈┈┈┈••✤ あとがき ✤••┈┈┈┈••✤••┈┈



     お読み頂きありがとうございますm(*_ _)m


        誤字大魔王ですので誤字報告、

        切実にお待ちしております。


   そして随時、感想、評価もお待ちしております(*^^*)

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        更新は不定期となっております。

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