✤金桂舞う秋の夜長✤
その夜、僕は夢を見た。
あの懐かしい玖月善女さまと、盛誉の夢。
盛誉は玖月善女さまを叱ってた。
『玉垂は、母さまの玩具ではないんですよ!』
って。
そしたら玖月善女さまは笑った。あの少し目尻の垂れる、盛誉と同じ微笑みで。
『あらあら、言いますわね。
言っておきますけれど、私にだって、私の人生があるのです。それをあなたが決めるのは、どうかと思うのですよ?』
その言葉に、盛誉は ぐっと息を呑む。
『な、何を言われるのですか!
こちらはこちらで、それなりに計画を……!』
『計画? 計画とはどんな?
……あぁ、アレですの? 自分が冤罪で死ねば、相良家が憐れむとでも?』
『……うぐ』
『あの家がそんなタマであるものですか!
あれだけの名家、人の命の一つや二つ、ただの駒に過ぎませんわよ?
ヤるならヤるで、私のように、徹底的にしませんと!』
『は、母さま……。全く反省してませんね?』
『【反省】?
はて? なんの事でございしょう?』
『母さま!』
僕は困って、その間に座って二人を見上げた。
『にゃあぁぁあ!』
『! た、玉垂?』
『あらあら。玉垂が困ってますよ』
玖月善女さまがそう言うと、盛誉は溜め息をついて僕を抱き上げた。
死んだはずの盛誉だったけれど、抱き上げられると、とてもあたたかだった。
僕は嬉しくなる。
ゴロゴロと喉を鳴らして、その胸に自分の鼻面を押し付けた。
懐かしい白檀の香りが、僕の鼻をくすぐった。
僕を見つめる盛誉。その目は、紫子さんと同じ飴色の瞳。その優しい目が細くなる。
『玉垂?
私たちは、何も喧嘩をしている訳ではないのだよ?
ただ私は、お前が不憫でならなかったのだ』
『にゃ?』
『私は、母さまにお願いしたはずですよ?
玉垂には母が必要だから、傍にいて欲しいと!
それなのに、こんなに長い間 ひとりぼっちにさせるなんて……』
すると玖月善女さまはムスッとする。
『えぇ、えぇ、確かに承りましたわよ?
けれど一番先に逝ってしまったのはあなたでしょう?
預けたっきり、一度も会いにも来なくて……! 無責任にも程がありますわ!
そんなあなたが、私にばっかり文句を言う筋合いはないと思いますわ。
……ねぇ? 玉垂? 玉垂は、私と盛誉、どちらが正しいと思って?』
玖月善女さまはそう言って僕を見る。
『……みゃあ』
僕は困って小さく鳴く。
どちらもコチラもない。
だって二人とも僕をおいて逝ってしまったから。
だけどそれは、仕方のない事だったとも思う。
あの時の時代が、二人をそうさせたんだって、今ならそう思う。
『ふふ。可愛い……』
盛誉はふとそう言って、項垂れた僕の頭を撫でてくれた。
『まぁ盛誉ったら、都合の良い……。
けれど玉垂?
私との約束は、これからなのですからね?』
約束?
これから?
『?』
僕は首を傾げる。
すると玖月善女さまの顔色が、サッと変わった。
『ま、まぁ、その顔! 忘れてしまったのね!』
『……』
玖月善女さまは僕を見て、ぷりぷりと怒り出す。
すると盛誉が ふふふと楽しげに微笑んだ。
『母さま? それはいつの約束なのですか?
まさか、四百年も前の話をしておいでなのでは?』
『……。よ、四百年だろうと五百年だろうと関係はありません! 約束は約束。
ねぇ、玉垂? 本当に忘れてしまったの?』
『にゃ、にゃう……』
僕は困って盛誉の腕の中で縮こまる。
するとそんな僕を撫でながら、盛誉が微笑み、助け舟を出してくれる。
『ほらほら母さま? そのように玉垂を苛めないで下さい。玉垂が可哀想です』
『いいえ! 盛誉。
玉垂はきっと覚えてます!
だって、あなただってあの死の間際に言っていたではありませんか! 玉垂は賢い子なのだと!』
『!』
なんで玖月善女さまがご存知なの? とは思ったけれど、僕はそこで思い出す。
そう言えば、玖月善女さまは言っていた。
──あの子を見守って。
と。
いつか出会うからって。
『……』
『ふふ。それ、それですわ。
ねぇ、出会えたでしょう……あの子に──』
……そこで僕は目覚めた。
ゆっくり開けたその目の前で、
紫子さんが穏やかな寝息を立てて
眠っていた。
『……』
僕はてっきり宗昌さまのことだと思ってた。
だけど多分、それは違ったんだって
安らかな紫子さんの寝顔を見ながら、そう思った。
× × × つづく× × ×
┈┈••✤••┈┈┈┈••✤ あとがき ✤••┈┈┈┈••✤••┈┈
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