✤玉垂《たまたる》の記憶✤
【猫もどき】の名前は【玉垂】と言うらしい。
朝露の玉が垂れるように可愛らしい……と名付けられたようだけれど。
「……可愛らしい……?」
マジかよ。
瑠奈さんは唸る。
どう見ても【可愛らしい】から遠く離れたところにいる目の前の猫……かも知れない生き物を見て、思わず呟いた瑠奈さんのその言葉に、玉垂が照れた。
「……」
クネクネと揺れながら、耳をパタパタさせている。
「……」
喜んでいるようだから、もう、何も言うまい……。瑠奈さんは下を向く。
けれど真っ黒くて、でっかいその体は、猫と言うより熊に近い。だって二本足で立ってるし。
可愛い……と言うよりかは、どちらかというと恐怖を掻き立てられる。
「……」
けれど瑠奈さんは、あえて言葉を呑み込んだ。
スルー出来た自分を密かに褒めた……。
まぁ、それはさておき……。と紫子さんは、話を進めた。
「玉垂さんは長生きで、今年四四〇歳。」
「こら。」
瑠奈さん、遂に突っ込む。
確かに見た目は非常識だけど、年齢まで非常識とか。
流石に四百超えは、言い過ぎだろう……と思ったけれど、突き詰めるのも馬鹿らしくなって、瑠奈さんはズズズ……と冷めた抹茶を飲み干した。
「……」
冷めてても その抹茶は美味しくて、『もう一杯飲みたいな……』と玉垂を見れば、玉垂は、大きな肉球をニギニギしながら『まだいるかい?』とばかりに首を傾げ瑠奈さんを見ている。
「……まだ、飲みたいです」
瑠奈さんは、そんな玉垂にスススと茶碗を返した。
玉垂は、瑠奈さんから茶碗受け取ると、それを丁寧に洗い清めてから再び抹茶を点ててくれた。
シャカシャカシャカシャカ……
シュンシュンとお湯の沸く音と、抹茶を点てる音に、瑠奈さんは、しばし心を奪われる。
「あぁ、秋なんだなぁ……」
思わずそんな声を漏らす。
「九月のお彼岸の頃になると、ちょうど庭の薄黄木犀の花が悲しく香るから、玉垂さんは嫌な事を思い出してしまうんですって。
だから来てくれて嬉しいって」
紫子さんもそう言って、飲んでしまったお茶碗を返しながら おかわりを頼む。
どうやら紫子さんには、でっかい猫の玉垂の言葉が分かるようだ。
「……」
けれど瑠奈さんには分からない。
なんで紫子さんは、分かるのだろう……?
玉垂の言葉が分からないから、だから紫子さんの話が本当なのか、瑠奈さんには判断する事が出来ない。
「……」
玉垂は、おかわりを頼まれたのが嬉しいのか、ゴロゴロと喉を鳴らしたけれど、頭の上の耳がシュン……と垂れていた。
猫のようなその顔は、表情なんて全く分からないのだけれど、けれどその耳を見ると、どうやら紫子さんの話は、本当らしいと言うことだけは、なんとなく分かった。
「嫌な事……?」
瑠奈さんは、呟く。
確かに四四〇年も生きていれば、嫌な出来事は一つ二つでは おさまらないかも知れない。
……いや、その話が本当ならの話だけれど……。
「そう……。昔、ね──」
そう言って語り出したのは、いつも無口な紫子さん。
「……」
瑠奈さんはそんな紫子さんの様子に、少し驚いたけれど、話を聞くことにした。
でっかい猫が作る美味しい抹茶を飲みながら、昔話を聞くのも悪くない。
瑠奈さんはそう思って、紫子さんの話に耳を傾けた。
× × × つづく× × ×
┈┈••✤••┈┈┈┈••✤ あとがき ✤••┈┈┈┈••✤••┈┈
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更新は不定期となっております。
9月のお彼岸……と書きましたが
ここ九州では
キンモクセイは10月初めに香るかな。
……と、思う。けど、どうだろ?
そこまで、気にしたことなんてなかったもんね?
あるお寺のウスギモクセイの花がみたくて
今か今かと待ってるんですけど
どうだろ。10月なのかな?
てか、
今からやっと、本題だったりする……。