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琥珀糖に舞う、金桂と紫子さん。  作者: YUQARI
第一章 懐かしいあの日の思ひ出。
3/43

✤猫が語る。にゃにゃにゃにゃにゃ✤

 【猫もどき】の家へつくと、でっかいそいつは、お縁の端にちょこんと座って、ぼーっと外を眺めていた。

 

「……」

 その姿がなんだか少し悲しそうで、瑠奈(るな)さんは思わず足を止める。

 けれど紫子(ゆかりこ)さんは、そんな事には気づきもしない。パタパタパタ……と走り寄ると、その 【猫もどき】に抱きついた。

 

『!?』

 

 当然【猫もどき】は驚いて、目を見張る。

 

 

 けれどすぐに紫子(ゆかりこ)さんを見て微笑んだ。

『にゃにゃにゃにゃ、にゃにゃにゃ……』

「……」

 【猫もどき】は、何事か言って、いそいそと奥へと引っ込んだ。

 

「お茶……()れてくれるって」

 紫子(ゆかりこ)さんは微笑んだ。

 

「……」

 いやいや、あれ(・・)は『にゃにゃにゃ……』としか言ってない。

 

 瑠奈(るな)さんは、そんな紫子(ゆかりこ)さんの後に続きながら、顔をしかめて部屋へ入いる。

 けれど、そこにはちゃんとお茶の用意がしてあって、正直瑠奈(るな)さんは、面食らう。

 

「……」

 まさか本当に、お茶を()れるとか……。

 

 

 【猫もどき】が()れた……いや、ちゃんと茶筅(ちゃせん)()ててくれたお抹茶は、とても風味豊かで美味しかった。

 

 

 と言うか、そもそもなんで、猫が茶が点てられるの……?

「……」

 

 ……いや、そもそもこの猫もどき(・・・・)が本当に【猫】なのかどうかは、とても怪しい。

 

 だってこの猫もどきは、限りなく【熊】の大きさに近い上に、なんだか凄く人間じみている。

 

 まるで誰か(・・)が中に入っているみたい。

 

「…………。ズズズズズ(お茶を(すす)る音)」

 

 

 

 瑠奈(るな)さんは現実逃避したくなって、わざと大きく音を立ててお茶を啜ると、そのまま外を眺めた。

「……」

 

 ホッと溜め息をつき、抹茶の入った温かい茶碗を両手で撫でながら、お縁の向こうの庭を見ると少し心が落ち着いた。

 

 庭には、可愛らしい小さな花が咲き誇っている。

 

 色は優しいクリーム色。

 あの色とは違うけれど、あれと同じような花をどこかで見た事がある。

 そうそう。アレですアレ。優しい香りを放つアレ(・・)

 

 

「……あれは、キンモクセイ?」

 

 

 ぽつりと呟いて見たけれど、金木犀とは違うみたい。だって色が薄いもの。

 という事は、あれが噂の銀木犀(ぎんもくせい)

 

 お皿に置かれた紫子(ゆかりこ)さんの作った琥珀糖を、瑠奈(るな)さんはそっとつまんで覗き込む。

 キラキラ光る琥珀糖のその中には、黄色……と言うよりオレンジ色と言った方がいいほどの、濃い色をした可愛いい花弁が、いくつもいくつも踊るように散って見えた。

 

 うん。コレ(・・)とは違う。

 だからあれは多分……

 

 

 

ウスギモクセイ(・・・・・・・)

 

 

 

「……」

 うん。銀木犀じゃなかった。

 

 

 瑠奈(るな)さんは黙って、琥珀糖をシャリと噛む。とても甘い砂糖の味がして、それからほんのりと優しい香り。

 

 答えたのは紫子(ゆかりこ)さんだった。

 

 (そりゃそうか……)

 

 瑠奈(るな)さんは思う。

 だってその他にいるのは、あの【猫もどき】。

 猫もどきは、『にゃにゃにゃ……』としか言わないもの。

 

 紫子(ゆかりこ)さんがぽつりと答えると、横に座っていた【猫もどき】がウンウンと頷いた。

 にゃにゃにゃ……と言いながらご機嫌だ。

 まるで『その通り!』と、言っているかのよう。

 

「ウスギモクセイ……?」

 何だそれは? と瑠奈(るな)さんは首を傾げる。

 

「金木犀は中国からやって来た外来種。

 ウスギモクセイは、九州の方で自生していた品種なんですって。前に聞いたことがあるの」

 

 あまり話さない紫子(ゆかりこ)さんが説明してくれた。

「……!」

 なんて珍しい……。

 

 瑠奈(るな)さんは少し目を丸くする。

 

 

 

 ウスギモクセイは、その名の通り色が薄い。

 匂いもあまりしない。

 

 金木犀は、とてもよく薫る花なのに、目の前のウスギモクセイは、まるで存在を知られたくないかのように、楚々と咲いていた。

 

 紫子(ゆかりこ)さんはホゥとため息をついて、『でも』と小さく呟いて、そっと口を開いた。

「あの花には、雌株と雄株があって雌株には実がなるのね?

 そんなの全然知らなかった……」

 誰かと話しているような口ぶりに、瑠奈(るな)さんは思わず吹き出した。

 

「……いや、知らなかったって、誰に聞いたの」

 

 瑠奈(るな)さんが苦笑気味に紫子(ゆかりこ)さんを見ると、紫子(ゆかりこ)さんは瑠奈(るな)さんを見て、少し目を丸くした。

 

「……え?」

「え?」

『にゃ?』

 

「……」

『……』

「……誰って」

 

 紫子(ゆかりこ)さんは目を少し彷徨(さまよ)わせ、呟いた。

 

「えっと、【玉垂(たまたる)】さんに……?」

 

「!?」

 誰だよそれ……!

 

 

「……」

 聞いたこともない名前に、瑠奈(るな)さんは眉を寄せる。

 

「……えっと……その、……今、教えて貰って……」

 紫子(ゆかりこ)さんは困った顔で、【猫もどき】を見る。

 

 

『……?』

 【猫もどき】は──

 

 

 

 ピッと人差し指(?)の爪だけニョキっと出して、それからそっと、自分を指さした。

 

 

 

「え?」

 

 瑠奈(るな)さんは、唸った。

 紫子(ゆかりこ)さんは、ウンウンと頷いている。

 

 

 

 

「ええええぇぇええぇぇええ……!?」

 

 

 

 

           × × × つづく× × ×

 

   ┈┈••✤••┈┈┈┈••✤ あとがき ✤••┈┈┈┈••✤••┈┈



     お読み頂きありがとうございますm(*_ _)m


        誤字大魔王ですので誤字報告、

        切実にお待ちしております。


   そして随時、感想、評価もお待ちしております(*^^*)

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― 新着の感想 ―
[良い点] 3/5 ・タマタル、タマタル、謎の響き [気になる点] にゃっ!
[良い点] 猫語が分かるのかな。 [気になる点] ウスギモクセイ、どんな香りがするのでしょう? 金木犀に近い? [一言] お茶の作法では、お菓子が先ですw
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