✤猫が語る。にゃにゃにゃにゃにゃ✤
【猫もどき】の家へつくと、でっかいそいつは、お縁の端にちょこんと座って、ぼーっと外を眺めていた。
「……」
その姿がなんだか少し悲しそうで、瑠奈さんは思わず足を止める。
けれど紫子さんは、そんな事には気づきもしない。パタパタパタ……と走り寄ると、その 【猫もどき】に抱きついた。
『!?』
当然【猫もどき】は驚いて、目を見張る。
けれどすぐに紫子さんを見て微笑んだ。
『にゃにゃにゃにゃ、にゃにゃにゃ……』
「……」
【猫もどき】は、何事か言って、いそいそと奥へと引っ込んだ。
「お茶……煎れてくれるって」
紫子さんは微笑んだ。
「……」
いやいや、あれは『にゃにゃにゃ……』としか言ってない。
瑠奈さんは、そんな紫子さんの後に続きながら、顔をしかめて部屋へ入いる。
けれど、そこにはちゃんとお茶の用意がしてあって、正直瑠奈さんは、面食らう。
「……」
まさか本当に、お茶を煎れるとか……。
【猫もどき】が煎れた……いや、ちゃんと茶筅で点ててくれたお抹茶は、とても風味豊かで美味しかった。
と言うか、そもそもなんで、猫が茶が点てられるの……?
「……」
……いや、そもそもこの猫もどきが本当に【猫】なのかどうかは、とても怪しい。
だってこの猫もどきは、限りなく【熊】の大きさに近い上に、なんだか凄く人間じみている。
まるで誰かが中に入っているみたい。
「…………。ズズズズズ(お茶を啜る音)」
瑠奈さんは現実逃避したくなって、わざと大きく音を立ててお茶を啜ると、そのまま外を眺めた。
「……」
ホッと溜め息をつき、抹茶の入った温かい茶碗を両手で撫でながら、お縁の向こうの庭を見ると少し心が落ち着いた。
庭には、可愛らしい小さな花が咲き誇っている。
色は優しいクリーム色。
あの色とは違うけれど、あれと同じような花をどこかで見た事がある。
そうそう。アレですアレ。優しい香りを放つアレ。
「……あれは、キンモクセイ?」
ぽつりと呟いて見たけれど、金木犀とは違うみたい。だって色が薄いもの。
という事は、あれが噂の銀木犀?
お皿に置かれた紫子さんの作った琥珀糖を、瑠奈さんはそっとつまんで覗き込む。
キラキラ光る琥珀糖のその中には、黄色……と言うよりオレンジ色と言った方がいいほどの、濃い色をした可愛いい花弁が、いくつもいくつも踊るように散って見えた。
うん。コレとは違う。
だからあれは多分……
「ウスギモクセイ」
「……」
うん。銀木犀じゃなかった。
瑠奈さんは黙って、琥珀糖をシャリと噛む。とても甘い砂糖の味がして、それからほんのりと優しい香り。
答えたのは紫子さんだった。
(そりゃそうか……)
瑠奈さんは思う。
だってその他にいるのは、あの【猫もどき】。
猫もどきは、『にゃにゃにゃ……』としか言わないもの。
紫子さんがぽつりと答えると、横に座っていた【猫もどき】がウンウンと頷いた。
にゃにゃにゃ……と言いながらご機嫌だ。
まるで『その通り!』と、言っているかのよう。
「ウスギモクセイ……?」
何だそれは? と瑠奈さんは首を傾げる。
「金木犀は中国からやって来た外来種。
ウスギモクセイは、九州の方で自生していた品種なんですって。前に聞いたことがあるの」
あまり話さない紫子さんが説明してくれた。
「……!」
なんて珍しい……。
瑠奈さんは少し目を丸くする。
ウスギモクセイは、その名の通り色が薄い。
匂いもあまりしない。
金木犀は、とてもよく薫る花なのに、目の前のウスギモクセイは、まるで存在を知られたくないかのように、楚々と咲いていた。
紫子さんはホゥとため息をついて、『でも』と小さく呟いて、そっと口を開いた。
「あの花には、雌株と雄株があって雌株には実がなるのね?
そんなの全然知らなかった……」
誰かと話しているような口ぶりに、瑠奈さんは思わず吹き出した。
「……いや、知らなかったって、誰に聞いたの」
瑠奈さんが苦笑気味に紫子さんを見ると、紫子さんは瑠奈さんを見て、少し目を丸くした。
「……え?」
「え?」
『にゃ?』
「……」
『……』
「……誰って」
紫子さんは目を少し彷徨わせ、呟いた。
「えっと、【玉垂】さんに……?」
「!?」
誰だよそれ……!
「……」
聞いたこともない名前に、瑠奈さんは眉を寄せる。
「……えっと……その、……今、教えて貰って……」
紫子さんは困った顔で、【猫もどき】を見る。
『……?』
【猫もどき】は──
ピッと人差し指(?)の爪だけニョキっと出して、それからそっと、自分を指さした。
「え?」
瑠奈さんは、唸った。
紫子さんは、ウンウンと頷いている。
「ええええぇぇええぇぇええ……!?」
× × × つづく× × ×
┈┈••✤••┈┈┈┈••✤ あとがき ✤••┈┈┈┈••✤••┈┈
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