✤忍び込んだお寺の中で✤
あの時の僕は、ただただ状況の変化に驚いて、裏口からそっと中へと入った。
日はもう沈み切り、辺りは真っ暗になっていたから、静かにこっそり……それから目を少し細めて忍び込めば、真っ黒い体の僕は、誰にも気付かれずに お寺の中に入ることが出来た。
お寺の中は、懐かしい盛誉の匂いでいっぱいだった。
物々しい状況だったけれど、僕の心は弾んだ!
遂に会えるんだ! 盛誉に会える!!
高鳴る胸をおさえながら、僕は盛誉を探した。
盛誉! 僕、ちゃんと一人で帰って来れたよ!
盛誉は、本堂にいた。
大きな仏像を前にして、いつもの様にお経を唱えている。
──盛誉だ!
僕は喜び勇んで、盛誉に駆け寄ろうとした、正にその時。
横から変な影が飛び出してきた!
『!』
僕は慌てて立ち止まる。
見ればその【影】は、あの千右衛門だった!
『!?』
……あっという間の出来事だった。
止める?
止める事なんてまず無理だ。僕、猫だし。
気づいたとしても、驚いて逃げるどころの騒ぎじゃない。
ましてや盛誉は、お経を唱えていたんだよ?
音もなく背後にサッと近づいてきた刺客を、どうやったら躱せるっていうの?
そんなの、絶対に無理だよ……。
だから斬られた。
僕の目の前で盛誉は、
信じられないほど呆気なく、千右衛門に斬られた。
「ぐ……ふ……っ、」
盛誉は小さく呻き、その場に崩れ落ちる。
『!』
僕は目を見開いて、ただただそれを見た。
盛誉は、ひどくゆっくり
倒れていった。
何が起こったか……なんて、直ぐに理解できなかった。
『……』
呆然と盛誉を見つめる僕のすぐ傍で、野太い声が響く。
「寺は焼き払え!
遺体はそのまま、炎で全てを浄化する」
ビュン……と刀を一振して血糊を吹き飛ばし、千右衛門は叫んだ。
「は! 準備はできております」
「よし。
しばらく燃え落ちたのを確認した後、撤退する!」
「は!」
バタバタと多くの人が慌ただしく移動し、そして辺りは一気に静かになる。
キーンと耳鳴りがする程の静けさに、僕は恐ろしくなって目眩がした。
『……みゃあ』
目の前が真っ暗になって、倒れそうになるのをグッと堪え、僕は取り残された盛誉に、恐る恐る近づいてみる。
『……』
盛誉はピクリともしない。
もうダメだって、その時思った。
傷は深い。
倒れた盛誉の周りには、信じられないくらいの量の血溜まりが出来ていた。
しかもその血溜まりは、時間を追うごとに大きく拡がっていく。
『……っ、』
助かりっこない。
こんなの、絶対、助かりっこない。
× × × つづく× × ×
┈┈••✤••┈┈┈┈••✤ あとがき ✤••┈┈┈┈••✤••┈┈
お読み頂きありがとうございますm(*_ _)m
誤字大魔王ですので誤字報告、
切実にお待ちしております。
そして随時、感想、評価もお待ちしております(*^^*)
気軽にお立ち寄り、もしくはポチり下さい♡
更新は不定期となっております。




