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琥珀糖に舞う、金桂と紫子さん。  作者: YUQARI
第七章 ただただ過ぎる、不安な日々。
22/43

✤諦めの境地✤

 月日は流れ、どんどん春の気配が近づいてきた。

 

 相変わらず二人は普門寺に篭っていて、玖月善女(くげつぜんにょ)さまは、 ぼんやりとお縁から庭の木々を見つめている。

 

 あれから随分と日が経ったけれど、領主さまからのお達しは未だない。

 生殺しのような日々に疲れ、玖月善女(くげつぜんにょ)さまはもう既に諦めの境地にいた。

 

「そもそもなぜ、悪いことをしていないのに、謹慎などしなければならないの?」

『……』

 僕はと言うと、そんな玖月善女(くげつぜんにょ)さまの傍らに寝そべって、ゴロゴロ ゴロゴロ喉を鳴らしながら されるがままになっていた。

 

 え? 普門寺探しはどうしたかって?

 ちゃんとやっているよ?

 

 今は随分あたたかくなったから、昼間は玖月善女(くげつぜんにょ)さまの傍にいて、そのお心を(なだ)めるのが今の僕の仕事。

 夜になって玖月善女(くげつぜんにょ)さまが寝静まってから、僕は普門寺を探す事にした。

 

 ……だって、未だ二人は謹慎中で、玖月善女(くげつぜんにょ)さまに会いに来てくれないんだ。

 

 それなのに、僕までその傍を離れる……なんて事になったら、玖月善女(くげつぜんにょ)さまも心細くなるに違いない。

 だから出来るだけ、傍にいようって思ったんだ。

 

 

『……』

 僕は最近思うんだ。

 

 盛誉(せいよ)は自分が、ここへあまり来ないことを自覚していた。だから自分の代わりに僕をここへ置いたんじゃないかって。

 

 

 僕はもう、あの頃の子猫のままじゃない。

 

 

 自分でも驚くほど体は大きくなったし、たくさん歩くことも出来るようになった。

 もちろん考え方だって変わったし、まわりの様子も良く見えるようになった。

 

 大好きな盛誉(せいよ)の事も、自分の欲目だけで見ずに ちゃんと第三者の目として、冷静に見ることも出来た。

 

 

 

 盛誉(せいよ)は多分、上に立つ者にとって脅威以外の何者でもない。

 教養を兼ね備え、賢く優しく、それから確固たる地位もある。

 

 ……そりゃ、地頭湯山の継承からはこぼれ落ちはしたけれど、その地位が全くなくなったわけじゃない。

 

 もし万が一、地頭である兄の宗昌(むねまさ)さまが亡くなったのなら、その後を継ぐのは盛誉(せいよ)だ。

 今は戦国の世。何が起こるか分からない。

 

 そこを見れば明らかに盛誉(せいよ)は、恐るべき存在だった。

 

 

 僧としての知識。それから民心を掴むその手腕。

 誰もが盛誉(せいよ)を頼もしい人物だと賞賛し、支えようとしている。

 ……しかも、しかもだよ? 盛誉(せいよ)が望む望まないに限らず、それを全部手にしている。そして農民たちは、そんな盛誉(せいよ)を守るために、今もどこかで奔走(ほんそう)しているんだ。

 

 確かにそれはありがたいことで、盛誉(せいよ)為人(ひととなり)(うかが)い知ることのできる出来事ではあるよ?

 だけどそれは、僕たち当事者の考えであって、他の盛誉(せいよ)と同じ地位の人たち……地頭たちは、どう見てるんだろう? そして、どう思われているんだろう?

 

 他の地頭だけじゃない。

 新しく領主さまになった四郎さまは? その重鎮たちは?

 

 ……四郎さまはまだ幼いというから、実際盛誉(せいよ)のことを気にかけるとなると、その側近たち。

 ……そう、あの深水さま重鎮たちが、盛誉(せいよ)の事をどう思っているのかが、僕は心配になった。

 

『……』

 盛誉(せいよ)の人の良さと その行動力は、長所でもあり、短所でもある。

 

 

 宗昌(むねまさ)さまは以前言っていた。『盛誉(せいよ)は恨まれている』と。

 ……その意味が、今は何となく分かる。

 

 盛誉(せいよ)が上に立つ立場の人間だったのなら、仕えるのにはありがたい存在かも知れない。優しいし行動力はあるし、それにちゃんと自分にルールを課せる人だから。

 

 だけど、自分の下につけるとなると、……どうなんだろう?

 煙たい存在になるんじゃないだろうか?

 

 しかも盛誉(せいよ)は武士じゃない。僧侶だ。

 あくまで【仏】に仕える身……。

 表面上 従っているように見えるけれど、盛誉(せいよ)(あが)めているのはあくまで【神仏】。

 

 

 

『にゃあ』

 僕は玖月善女(くげつぜんにょ)さまを見上げ、ひと鳴きする。

 

 すると物思いに沈んでいた玖月善女(くげつぜんにょ)さまは、ハッとして僕を見た。

 そして静かに僕を見ると、いつもと変わらない優しいその笑顔を見せてくれる。

 

「ふふ。どうしたの? 玉垂(たまたる)。お腹が空いたの?」

『にゃお』

 

 相変わらずのセリフに僕は苦笑して、それから前足を枕にして眠ったフリをした。

 決まり事のように掛けてくるその言葉が、今はもう、逆に嬉しくなる。

 

『……ふふ。玉垂(たまたる)はなんて可愛いのかしら。

 お前といると、この憂いも少しは楽になるのですよ』

 そう言って、僕を優しく撫でてくれた。

 

 

 

 昼間 僕は、玖月善女(くげつぜんにょ)さまと一緒に過ごす。

 

 けれど玖月善女(くげつぜんにょ)さまは、一日のそのほとんどを、自分の息子たちの為にお経を唱える。無実の罪を晴らせますようにと……。

 

 だから僕はその(かたわ)らで、そのお心を慰め、その優しい読経の声を聞きながら、ゆっくり体を休めることも出来るんだ。

 

 

 行動を起こすのは、なにも昼間である必要は無い。

 

 だから僕はこうやって昼間は玖月善女(くげつぜんにょ)さまの傍で眠って、夜になってから普門寺を探すようになった。

 

 ふふ。だけどもう、普門寺が見つかるのもあと少しだ!

 だってだって、昨日やっと……やっと見知った景色に出会えたもの。

 

 きっともうすぐ……、もうすぐ会えるからね!

 

『にゃあ』

 

 ああ、盛誉(せいよ)はいったい、どんな顔をするだろう?

 驚くだろうか?

 

 大きくなった僕を見て、もしかして誰だか分からないってことはないよね?

 だって僕、すっごく大きくなっちゃったんだ。

 

 ……まぁ、猫のオスって、メスと比べればガタイはいいけれど、僕の場合ちょっと度が超えてるって言うか、なんと言うか……太っちゃったんだよね……。

 

 事あるごとに『腹は減ってないか』と、玖月善女(くげつぜんにょ)さまと宗昌(むねまさ)さま……それからお付きの人たちがそう言って、食べ物を分けてくれるから、このご時世に僕だけブクブク太ってしまった。

 

 あ。でも、筋肉がないわけじゃないよ?

 その分、他の猫より動けるし。(って言う、いい訳でもないからね!)

 

 ……だからもしかしたら、盛誉(せいよ)。分からないかも知れない。僕だって事。

 

 そんな不安が、全くないわけじゃない。

 猫は少しの月日で、凄く成長するものだから。

 

 けれど会った時の盛誉(せいよ)の反応がものすごく楽しみで、僕は思わず微笑んでしまう。

 

 ふふ。分からなかったら、この爪で引っ掻いてやろう。

『ふにゃ』

 僕はそんな悪巧みをする。

 

 

 

 情勢は本当に思わしくなかったんだけれど、

 だけど……、

 

 僕はあの時、

 盛誉(せいよ)と会える

 その日を想って、

 その日が待ち遠しくって、

 

 ただそれだけが、

 楽しみで仕方なかった。

 

 

 

 

           × × × つづく× × ×

 

 

   ┈┈••✤••┈┈┈┈••✤ あとがき ✤••┈┈┈┈••✤••┈┈



     お読み頂きありがとうございますm(*_ _)m


        誤字大魔王ですので誤字報告、

        切実にお待ちしております。


   そして随時、感想、評価もお待ちしております(*^^*)

     気軽にお立ち寄り、もしくはポチり下さい♡


        更新は不定期となっております。



      『宗昌が死んだらその跡継ぎとして』と、

           書きましたが、

        実際はどうだろ? 宗昌にも子ども、

         いたとは思うんですよね。


        恐らくは宗昌、この時四十前後。

   一方盛誉は、年齢不詳。(いつ生まれたのか分からない)


      ま、どちらにしても子どもはまだ幼いだろうし

     いっか! と楽天視した結果こうなりましたがなw


         色んなところがあやふやで、

      想像と、けして答えの出ない推理をしつつ

          書いています( ̄▽ ̄;)

      (歴史小説なんて、所詮そんなもの。。。)

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