✤お葬式のような、お正月✤
村人たちの話の内容からは、『盛誉さまに限って』と楽観的なものを感じたけれど、実際お偉いさんたちの考えは複雑だったみたいだ。
頼貞さまの謀反騒ぎからずいぶん日も経って、城下も落ち着いてきたらしいのに、三日月城からは なんの音沙汰もなかった。
「なぜ、このような事に……」
『にゃあ……』
玖月善女さまは、来る日も来る日も近くの市房権現さまに詣でて、二人の無実が証明される事を祈った。
盛誉と宗昌さまは……と言うと、盛誉の寺である普門寺に自ら籠り、謹慎の体を示した。
自分たちに、謀反を起こす気持ちなどない。これはとんでもない冤罪であると、世間に伝えるために。
だけどそれは、どれだけ謹慎してればいいんだろう?
玖月善女さまもその事に心を痛めていたんだ。
噂に聞く盛誉と宗昌さまは、昼も夜もずっと普門寺の本堂に篭っていて、お経を唱えているらしい。
その話を聞いて、『私も……!』と言って玖月善女さまもそれに倣った。
ただ僕は、チャンスだ! とも思った。
……その読経の声を頼りに見つけられるかも知んない。普門寺。
僕がそう思って、再び普門寺探索に出る。
時は既に春の足音が聞こえ始めていた。
まだまだ寒いんだけれど、朝日は少しずつ白く輝き出し、清々しい空気が辺りを包み込み始めた。
「はぁ……。まさか、こぎゃんこつになるとはのぉ」
「しかし、あれだろたい? 盛誉さまが、ウチらん為に年貢ば軽うしてくれと言い回ったり、農作業の時期だけん、戦での男手は加減して欲しかて、上に言うたけんだろたい?
要は、恨まれとるとじゃなかと……?」
「おいおい……滅多なこと言うと、おったちが危なかぞ?」
村人たちは顔を見合わせて、ぶるる……と身震いする。
それと同時に声も低くしたので、僕はジリジリと更に傍へと近づく。
「だけど、そぎゃんじゃなかと? 現に軽うしてもらえたじゃなかかい? 先の戦じゃ農民からの徴兵はなかったじゃろ?」
「んー。先の戦は、特別やったからな。死ぬこと前提……て言うても過言じゃなかったしな。働き手の農民は、少しでも生かしとこうと思うただけかも知れん。
……だけど、……そうだろない……。盛誉さまは、ちと目立ち過ぎとたからのぉ」
「……どぎゃんかならんつね?」
「どぎゃん出来るつかい。ウチらにそげな力、あるわけなかど?」
「そげなコツ分かっとる。
……けどせめて、冤罪ば晴らせると良かつがなぁ〜」
「……うーん。よしっ! んならばいっちょ、証拠集めばすっばい!」
「どぎゃんやっつかい」
「……そりゃ、そん時決めりゃあよか! 出来るこつばすっだけたい」
「そぎゃん! ウチらはあぎゃん盛誉さまに世話ンなっとって、出来るこつばせんば、バチがあたる!」
「よーし、そんなら うかうかしとられんたい! 手分けして領主さまに言上するばい!!」
僕が普門寺を探していている時、村人たちのそんな囁き声を聞いた。
声は小さかったけれど、誰もが真剣な眼差しをしていた。
【言上】……本当ならそれは、命懸けのものだったはずだ。
だけど村人たちは、それを口にする人は一人もいなくて、ただただ、盛誉の為だねに動いてくれた。
僕はそれがとても嬉しくて、盛誉にも村人たちのことを、聞かせてやりたいなって思った。
盛誉はこの年のお正月、玖月善女さまの所へは一度も来なかった。
……盛誉はいつも来ないけどね。
だけど盛誉だけじゃない。お兄さんの宗昌さまも来る事はなかった。
それに本当なら、毎年正月になると盛誉は、村々の家を回っていたそうだ。
体調は崩していないかだとか、何か足りないものはないかって、村人を気遣った。
それからご先祖の供養に……と、無償でお経をあげていたらしい。
けれど今年、それはなかった。
疑われた自分を反省し、静かに普門寺に籠った。
姿を見せない二人の子どものことを、玖月善女は当然心配したけれど、『あの子たちの足でまといにはなりたくない』と言って、盛誉の代わりに家々を回った。
その年のお正月は、
誰もが顔を曇らせ、溜め息をついた。
まるでお葬式のような、そんなお正月だったんだ。
× × × つづく× × ×
┈┈••✤••┈┈┈┈••✤ あとがき ✤••┈┈┈┈••✤••┈┈
お読み頂きありがとうございますm(*_ _)m
誤字大魔王ですので誤字報告、
切実にお待ちしております。
そして随時、感想、評価もお待ちしております(*^^*)
気軽にお立ち寄り、もしくはポチり下さい♡
更新は不定期となっております。
……はい。人吉、八代方面の方々ごめんなさいm(._.)m
ワタクシ熊本北部の人間でして
熊本南部の方言、知りません( ̄▽ ̄;)
なので、知ってる分だけ出しました。
違和感あるかもです。。。




