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琥珀糖に舞う、金桂と紫子さん。  作者: YUQARI
第七章 ただただ過ぎる、不安な日々。
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✤お葬式のような、お正月✤

 村人たちの話の内容からは、『盛誉(せいよ)さまに限って』と楽観的なものを感じたけれど、実際お偉いさんたちの考えは複雑だったみたいだ。

 

 頼貞(よりさだ)さまの謀反騒ぎからずいぶん日も経って、城下も落ち着いてきたらしいのに、三日月城からは なんの音沙汰もなかった。

 

 

 

「なぜ、このような事に……」

『にゃあ……』

 

 玖月善女(くげつぜんにょ)さまは、来る日も来る日も近くの市房(いちふさ)権現さまに詣でて、二人の無実が証明される事を祈った。

 

 盛誉(せいよ)宗昌(むねまさ)さまは……と言うと、盛誉(せいよ)の寺である普門寺に自ら籠り、謹慎の(てい)を示した。

 自分たちに、謀反を起こす気持ちなどない。これはとんでもない冤罪であると、世間に伝えるために。

 

 

 だけどそれは、どれだけ謹慎してればいいんだろう?

 玖月善女(くげつぜんにょ)さまもその事に心を痛めていたんだ。

 

 噂に聞く盛誉(せいよ)宗昌(むねまさ)さまは、昼も夜もずっと普門寺の本堂に篭っていて、お経を唱えているらしい。

 その話を聞いて、『(わたくし)も……!』と言って玖月善女(くげつぜんにょ)さまもそれに(なら)った。

 

 ただ僕は、チャンスだ! とも思った。

 ……その読経の声を頼りに見つけられるかも知んない。普門寺。

 

 僕がそう思って、再び普門寺探索に出る。

 

 

 時は既に春の足音が聞こえ始めていた。

 まだまだ寒いんだけれど、朝日は少しずつ白く輝き出し、清々しい空気が辺りを包み込み始めた。

 

 

「はぁ……。まさか、こぎゃんこつ(こんな事)になるとはのぉ」

 

「しかし、あれだろたい? 盛誉(せいよ)さまが、ウチらん為に年貢(ねんぐ)(かろ)うしてくれと言い回ったり、農作業の時期だけん、戦での男手は加減して欲しかて、上に言うたけんだろたい?

 要は、恨まれとるとじゃなかと……?」

 

「おいおい……滅多なこと言うと、おっ(おれ)たちが危なかぞ?」

 

 村人たちは顔を見合わせて、ぶるる……と身震いする。

 それと同時に声も低くしたので、僕はジリジリと更に傍へと近づく。

 

「だけど、そぎゃんじゃなかと? 現に(かろ)うしてもらえたじゃなかかい(ないかい)? 先の戦じゃ農民からの徴兵はなかったじゃろ?」

 

「んー。先の戦は、特別やったからな。死ぬこと前提……て言うても過言じゃなかったしな。働き手の農民は、少しでも生かしとこうと思うただけかも知れん。

 ……だけど、……そうだろない(そうだろうなぁ)……。盛誉(せいよ)さまは、ちと目立ち過ぎとたからのぉ」 

 

「……どぎゃんか(どうにか)ならんつね(ならないとかね)?」

 

「どぎゃん出来るつかい(出来るもんかい)。ウチらにそげな(そんな)力、あるわけなかど?」

 

「そげなコツ分かっとる。

 ……けどせめて、冤罪ば晴らせると良かつがな(良いとだけどな)ぁ〜」

 

「……うーん。よしっ! んならば(だったのなら)いっちょ、証拠集めばすっばい!」

 

「どぎゃんやっつかい(やるのか)

 

「……そりゃ、そん時決めりゃあよか! 出来るこつばすっ(する)だけたい」

 

「そぎゃん! ウチらはあぎゃん(あんなに)盛誉(せいよ)さまに世話ンなっとって、出来るこつばせんば(しなければ)、バチがあたる!」

 

「よーし、そんなら うかうかしとられんたい! 手分けして領主さまに言上するばい!!」

 

 

 

 僕が普門寺を探していている時、村人たちのそんな囁き声を聞いた。

 声は小さかったけれど、誰もが真剣な眼差しをしていた。

 

 【言上】……本当ならそれは、命懸けのものだったはずだ。

 

 だけど村人たちは、それを口にする人は一人もいなくて、ただただ、盛誉(せいよ)の為だねに動いてくれた。

 僕はそれがとても嬉しくて、盛誉(せいよ)にも村人たちのことを、聞かせてやりたいなって思った。

 

 

 盛誉(せいよ)はこの年のお正月、玖月善女(くげつぜんにょ)さまの所へは一度も来なかった。

 

 ……盛誉(せいよ)はいつも来ないけどね。

 だけど盛誉(せいよ)だけじゃない。お兄さんの宗昌(むねまさ)さまも来る事はなかった。

 

 それに本当なら、毎年正月になると盛誉(せいよ)は、村々の家を回っていたそうだ。

 体調は崩していないかだとか、何か足りないものはないかって、村人を気遣った。

 それからご先祖の供養に……と、無償でお経をあげていたらしい。

 

 けれど今年、それはなかった。

 疑われた自分を反省し、静かに普門寺に籠った。

 

 姿を見せない二人の子どものことを、玖月善女(くげつぜんにょ)は当然心配したけれど、『あの子たちの足でまといにはなりたくない』と言って、盛誉(せいよ)の代わりに家々を回った。

 

 

 その年のお正月は、

 誰もが顔を曇らせ、溜め息をついた。

 

 まるでお葬式のような、そんなお正月だったんだ。

 

 

 

           × × × つづく× × ×

 

   ┈┈••✤••┈┈┈┈••✤ あとがき ✤••┈┈┈┈••✤••┈┈



     お読み頂きありがとうございますm(*_ _)m


        誤字大魔王ですので誤字報告、

        切実にお待ちしております。


   そして随時、感想、評価もお待ちしております(*^^*)

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        更新は不定期となっております。



    ……はい。人吉、八代方面の方々ごめんなさいm(._.)m

        ワタクシ熊本北部の人間でして

       熊本南部の方言、知りません( ̄▽ ̄;)

       なので、知ってる分だけ出しました。

          違和感あるかもです。。。

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― 新着の感想 ―
[良い点] むぅ、謹慎も史実ですねぇ〜 さて、誤解により、盛誉は……はどうなるのでしょう? [気になる点] うーーん、お葬式→お通夜の方が一般的なような。
感想一覧
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