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琥珀糖に舞う、金桂と紫子さん。  作者: YUQARI
第六章 謀反の疑い。
20/43

✤企み✤

 年が明けて、世の中は少し落ち着いてきた。

 

 噂になった頼貞(よりさだ)さまの挙兵。

 実際その謀反は、実行に移された。

 

 盛誉(せいよ)宗昌(むねまさ)さまがお(いさ)めしたけれど、結局なんの足しにもならなかった。

 それどころかそのせいで、二人はあらぬ疑いを掛けられた。

 

 ……結果から言うと、頼貞(よりさだ)さまのその謀反は成功しなかった。相良の重鎮たちが、大事になる前に収めてしまったからだ。

 

 

 三日月城は、盛誉(せいよ)の住んでる湯山の地区から随分と離れている。

 だからその情報が僕たちの耳に入ったのも、全てが終わった年の暮れだったか年明けすぐだったか……確かそのあたりだったと思う。すごく寒くて、地面が真っ白に凍っていたのを僕は覚えている。

 

 あの日僕は、相変わらず盛誉(せいよ)の住んでいる寺……普門寺を探していた。

 

 本当に必死になって探してた。

 玖月善女(くげつぜんにょ)さまの所で頼貞(よりさだ)さまが挙兵するかも知れないって話を聞いて、ひどく焦っていたから。

 

 だけどだけど、見つからないんだ!

 

 そもそも寒くって、そんなに長いこと外にいられない。

 僕たちの住んでいる肥後国は、比較的温暖な地域ではあるけれど、雪が全く降らないわけでもない。

 冬の寒さで凍りついた地面は痛いほどに冷たくて、僕の探索の邪魔をした。

 

 そもそも、そんなに離れてはいなかったんだよ? 盛誉(せいよ)のいる普門寺と、玖月善女(くげつぜんにょ)さまの住んでいる場所は。

 だからすぐに見つかると思ったのに、まさかの年越えとか、ビックリだよね。ホント泣きたくなる。

 

 あぁ、もう! 盛誉(せいよ)のバカ!

 あんなに寄り道するから、何が何だか分からなくなっちゃったじゃないか……っ!

 

 泣きそうになって茂みの片隅で休んでいたあの時、僕は頼貞(よりさだ)さまのその噂を聞いたんだ。

 

 

 あれはいつのことだったろう? 確かひどく寒い夕暮れ時だったと思う。

 

 

 

 

頼貞(よりさだ)さまが三日月城に攻め入って失敗なさったそうだ』

 

 

 

 

 村人たちの話は、そんな話だった。

 

 ゾクリ……と胸騒ぎがした。

 遂に心配していた事が、起こったんだって思った。

 僕は茂みの間から、こっそり顔を出してその話に耳を傾けた。

 だって、状況次第では謀反の疑いを掛けられている盛誉(せいよ)に、とんでもない事が降り掛かってしまうんじゃないかと思ったから。

 

『……』

 こんな時に黒い体って便利だよね。村人たちのすぐ傍まで近づいて話を聞いたけれど、全く気づかれなかったもの。

 村人たちは話を続ける。

 

 

「あぁ、知っとる知っとる。なんでん(なんでも)、あん多良木(たらぎ)の地頭の岩崎さまも加勢なされたとか?」

 

そぎゃんたい(その通り)。火縄銃も持ち出して、結構な騒ぎになったらしかとよ……」

 

「火縄銃てな! どっからそげなもん(そんなもの)出して来よらした(来なさった)とだろか?」

 

「なんでん、薩摩兵ば駆り出して挙兵したとか言いよらしたばってん?」

 

「は? じゃ、裏に島津公がおらすとか(いらっしゃるのか)? そりゃなかど(ないだろう)。島津公は確か四郎さま側だろうけんが」

 

「そぎゃんこと言うたって、現に負傷された岡本さまン腹ン中から火縄銃の玉が二つ出てきよらした(きなさった)もん。間違えはなかどて(ないだろうと)思うけどな?」

 

「玉!? んで、そン岡本さまは──」

「生きとらす」

「……あぁ、そ」

「……」

 

 結局のところ、頼貞(よりさだ)さまは相良家の重鎮の一人、深水さまと その後の話をしたそうだ。

 

 深水さまは、四郎さまを義陽(よしひ)さまの跡目に……と、薩摩の島津公と交渉を行った人物でもあるし、義陽(よしひ)さまが信頼を寄せ、『亀千代を頼む』と後を託した人物でもある。

 

 その深水さまの話はこうだ。

 

 

『三日月城の中の者は、頼貞(よりさだ)さまの意見に同感です』

 

 

 

 ……。

 え? 本当、何言ってんの?

 僕は呆れ返る。

 あれほど信頼されていた深水さまが、城を襲われまさかの降参?

 

 けれどこれには、続きがあった。

 

 

 

『けれど、上球磨(かみくま)の者たちの意見は分からないので、出向いて行って詳細を聞いてみて欲しい』

 

 

 

『……』

 明らかに怪しい物言いだ。

 なのに頼貞(よりさだ)さまはその言葉に従って、上球磨へ出向いたらしい。

 

 そこに待ち受けていたのが島津兵。

 

 頼貞(よりさだ)さまの兵は、瞬く間に取り囲まれ、討たれ……はしなかった。そこで何故か頼貞(よりさだ)さまは、とくと(さと)される事になる。

 どんなにこの挙兵が無謀な事なのか、勝ち目のない戦なのかを……。

 

 

 

「ふーん。そんで頼貞(よりさだ)さまはどぎゃんしなはったと(どうされたの?)?」

 

「んー。それが分からんとたいねー。

 一緒に挙兵した多良木の地頭、岩崎さまと共に日向へ逃れたって言いよったけどね?」

 

「日向……。(ちか)かな」

 

「ま、おおごてにならんで(大事にならなくて)良かった良かった」

 

(ほら)、あれて言いよったじゃなかか? 普門寺の盛誉(せいよ)さまも、頼貞(よりさだ)さまの仲間に……と狙われとったとだろ? 危なか危なか」

 

「なんが、危なかね! あン坊さんが加わるわけなかどもん(ないだろう)

 あぎゃん人の良か人捕まえて、危なかてあるかい」

 

「まぁ、そぎゃんたいね。あはははは……」

 

 

 ……と、そこでは笑い話になってたけれど、僕はホッとした反面、青くなる。

 

 盛誉(せいよ)のお兄さんが言ってた、【事はそう簡単じゃない】って言うのが頭から離れない。

 

 確かに頼貞(よりさだ)さまは日向に逃げた。

 島津兵に取り囲まれたのなら、さぞ怖かったに違いない。だから二度と挙兵なんて馬鹿な真似はしないと思う。

 

 けれど何故、島津公はそこで頼貞(よりさだ)さまを討たなかったのだろう?

 諭すよりも討つ方が簡単なように思えた。

 

 ……事前に深水さまに頼まれたから?

 

 真相は分からない。

 けれど頼貞(よりさだ)さまがなんのお咎めも受けなかったのは確かだ。

 

 ……逃げちゃったから、しょうがないと言えばしょうがないけれど、でも捕まえようと思ったのなら捕まえられたとも思う。

 だって諭す(・・)ことが出来たんだもん

 

 確かに前領主義陽(よしひ)さまの弟君ではあるけれど、謀反人には変わりない。

 

『……』

 何故だか少し気味が悪い。

 僕は、震えが止まらなかった。

 

 

 

 人は平気で嘘をつく。

 

 頼貞(よりさだ)さまを誘い出した、その深水さまっていう人がいい例だ。

 一旦従うと言ったその後に、頼貞(よりさだ)さまを()めたんだ。

 

 そうやって幼い領主……四郎さまを守ったのかも知れないけれど、盛誉(せいよ)はそんな世の中で生きている。

 

 宗昌(むねまさ)さまは盛誉(せいよ)が恨みをかっていると言っていた。

 それは盛誉(せいよ)だけじゃなくて、宗昌(むねまさ)さまだって同じだ。

 もし、二人を快く思わない人間が何かを画策していたら……?

 

『……っ、』

 そう思うといても立ってもいられない。

 

 僕はその時、必ず普門寺を見つけ出して、絶対盛誉(せいよ)に会うんだ! と心に決めた。

 

 

 

 ……ただ、この状況はかなり厳しい。

 

 せめて寒くなかったのなら、もっと早く盛誉(せいよ)の所に辿り着けたはずなのに……。

 

 それがひどく、口惜しかった。

 

 

 

  ┈┈••✤••┈┈┈┈••✤✤••┈┈┈┈••✤••┈┈

 

 頼貞(よりさだ)はこの騒ぎの後、

 日向の国の伊東氏を頼り逃亡したと史実にはある。

 

 けれどこの時既に伊東氏は、日向を追われており頼貞(よりさだ)を助けることは不可能だったと言われている。

 

 そしてその後の頼貞(よりさだ)の消息は

 掴めていない──。

 

 

 

 

           × × × つづく× × ×

 

   ┈┈••✤••┈┈┈┈••✤ あとがき ✤••┈┈┈┈••✤••┈┈



     お読み頂きありがとうございますm(*_ _)m


        誤字大魔王ですので誤字報告、

        切実にお待ちしております。


   そして随時、感想、評価もお待ちしております(*^^*)

     気軽にお立ち寄り、もしくはポチり下さい♡


        更新は不定期となっております。



       これ、なかばホラーなんじゃないかと

         思い始めてます( ・-・ )

           分類間違ったか?

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