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琥珀糖に舞う、金桂と紫子さん。  作者: YUQARI
第六章 謀反の疑い。
19/43

✤謀反✤

 チュン、チュンチュン──

 チュンチュンチュンチュン──

 

 

 ん……? スズメ……の鳴き声……?

『!』

 僕はハッとして目を覚ます。

 

 いつの間にか日は高く登っていて、朝になっていた。

 辺りを見回せば、既に布団は片付けられていて、一緒に寝たはずの宗昌(むねまさ)さまの姿は、もうどこにもなかった。

 

 しまった……!

 とんだ失態だ。僕は飛び起きる。

 宗昌(むねまさ)さまがいない!

 

 僕は飛び起きて、宗昌(むねまさ)さまを探した!

 

 だって僕も一緒に、盛誉(せいよ)のところへ連れて行ってもらう予定だったから。

 確かに自分で行こうとは思っていたよ? だけど道がうろ覚え。それよりも宗昌(むねまさ)さまに連れて行ってもらった方が確実だったから!

 

『にゃうー、にゃうぅー』

 必死に探した。だけど宗昌(むねまさ)さまは、どこにもいない。

 

 う、うそ。嘘でしょ?

 確かに僕、寝坊しちゃったかもだけど、まだそんなに遅いわけじゃない。宗昌(むねまさ)さまはお客さんだから、帰るにしても昼頃のはずだって思うんだ。

 どこかに絶対いる──!

 

 

「これこれ玉垂(たまたる)? そんなに騒いでどうしたの?」

 

 

 僕の鳴き声を聞きつけて、玖月善女(くげつぜんにょ)さまがやって来た。

 僕は一生懸命説明する。

 

『うにゃうにゃう。にゃうにゃう……っ!』

「まぁ、玉垂(たまたる)ったら、どうしたのかしら……?」

 

 …………分かるわけないよね。

 うん。分かってる。

 

 だけどだけど、せっかく盛誉(せいよ)に会えるかもしれないチャンスを、僕はみすみす逃すわけにはいかない。だからこの状況に、動揺せずにはいられない……!

 

 そんな僕を見て、玖月善女(くげつぜんにょ)さまは悲しげに笑った。

「……玉垂(たまたる)。まさかお前も盛誉(せいよ)に会いたいの?

 もしかして、宗昌(むねまさ)について行こう……とか思っていたの?」

『……』

 図星を指されて、僕は押し黙る。

 そして、玖月善女(くげつぜんにょ)さまのその悲しげな声に、僕はハッとした。

 

 そう、だよね。

 そうだよ。なんで気づかなかったんだろう。

 玖月善女(くげつぜんにょ)さまだって、盛誉(せいよ)に会いたがってた。僕だけ会いに行くなんて、ずるいよね?

『にゃう……』

 僕は鳴くのをやめた。

 

 だって一番心配しているのは、玖月善女(くげつぜんにょ)さまだって思ったから。

 

 

「……玉垂(たまたる)

 

 

 玖月善女(くげつぜんにょ)さまは小さく呟いて、僕を優しく抱っこしてくれた。

 

(わたくし)の大切な大切な玉垂(たまたる)

 宗昌(むねまさ)は急に行ってしまったの。(わたくし)も止めることは出来なかったのよ。

 ……夜中に使者がやって来て、あの子は慌てて出て行ってしまったの。

 やっぱり……やっぱり、心配していた通りになってしまったの! あの子たちに、謀反の疑いが掛けられてしまったの……!!」

 

『!?』

 

 衝撃的な言葉だった。

 ポロポロと涙を流す玖月善女(くげつぜんにょ)さまを見上げ、僕は青くなる。

 

 謀反の疑い……?

 

 それって、どういう事?

 盛誉(せいよ)はいったい どうなるの?

 

 僕は目を見張る。

 

『……』

 人は仲間同士で、いがみあう生き物だ。

 

 猫と違って変なところでムキになって、武器を使って相手を簡単に死へと 追いやってしまう。

 

 宗昌(むねまさ)さまから薫る血の匂いが、まだ僕の鼻の奥に残っている。俗世から退いた盛誉(せいよ)からは、けして薫る事のない粘り(まと)わりつくような、あの強い匂い。

 

 洗っても洗っても落ちないくらいに、濃く深く刻みつけられた血の匂い。

 そんな人間たちが、盛誉(せいよ)を疑ってる──?

 

『──……っ!』

 

 ゾクッと悪寒が走った。

 嫌な予感しかしない。

 

 いや、ちょっと待って。今、玖月善女(くげつぜんにょ)さまはなんて言った?

 疑われているのは【あの子たち(・・・・・)】?

 盛誉(せいよ)だけでなくて、宗昌(むねまさ)さまも疑われているの?


『……』

 考えてみれば、そりゃそうだなって思った。


 いやどちらかと言うと、地頭である宗昌(むねまさ)さまの方に、より嫌疑は掛かってくると思うんだ。

 だけどあの あっからかんとした性格のせいか、そんな感じは少しも感じなかった。

 

 僕はふと、もっと嫌なことを考えた。

 ……となると玖月善女(くげつぜんにょ)さまはどうなるの?

 

 玖月善女(くげつぜんにょ)さまは直接には関わっていない。だけどあの二人のお母さんだ。何もない……なんてことあるだろうか……?

『……』

 僕は青くなって玖月善女(くげつぜんにょ)さまを見た。

 

 けれど玖月善女(くげつぜんにょ)さまは自分のことより、あの二人の事だけが、ひどく気掛かりのようだった。

 

 

「……あぁっ」

 

『!』

 

 不意に悲鳴を上げ、ぶるぶる震えながら玖月善女(くげつぜんにょ)さまが座り込む。

 僕を床に下ろし、その両手で自分の顔を覆った。

 

「あ、あの子たち、……宗昌(むねまさ)盛誉(せいよ)も、謀反の疑いを掛けられたの。

 ただ、ただあの子たちは、頼貞(よりさだ)さまをお諌めしただけなのに。心の底から四郎さまや長寿丸さまを想って、ただひたすらに穏やかな世界を願っただけなのに。

 それなのに何故? 何故このような事になっているの……?」

 

 ぶるぶると震えるその細い指先の間から、玖月善女(くげつぜんにょ)さまの真っ青な顔が見え、僕は恐ろしくなる。

 菩薩さまのように穏やかな玖月善女(くげつぜんにょ)さまの顔とは思えないほど、その表情は恐怖に歪んでいた。

『……!』

 

 ああ、人間って、なんて恐ろしいんだろう?

 

 さっきまで優しく微笑んでいた人が、一瞬にして苦痛な表情をその顔に浮かべ、鬼となる。

 こんなにも……こんなにも簡単に、人を恐怖に(おとしい)れるなんて……!

 

『みゃあ……、みゃあ……!』

 

 僕は玖月善女(くげつぜんにょ)さまに擦り寄った。

 どうにかして慰めたいと思った。

 

「あぁ、玉垂(たまたる)玉垂(たまたる)……っ!」

 玖月善女(くげつぜんにょ)さまは僕を抱いた。

 

「大丈夫。きっと大丈夫だから……。

 きっと四郎さまは、分かって下さる……っ、」

 

 自分に言い聞かせるように、玖月善女(くげつぜんにょ)さまは そう何度も呟いた。

 

 僕も必死になって、玖月善女(くげつぜんにょ)さまを(なだ)めようとしたけれど、僕だって不安だ。

 

 大好きな盛誉(せいよ)が、とんでもない事に巻き込まれている!

 どうにかして、どうにかして盛誉(せいよ)を救い出したかった。

 

 

 

 

           × × × つづく× × ×

   ┈┈••✤••┈┈┈┈••✤ あとがき ✤••┈┈┈┈••✤••┈┈



     お読み頂きありがとうございますm(*_ _)m


        誤字大魔王ですので誤字報告、

        切実にお待ちしております。


   そして随時、感想、評価もお待ちしております(*^^*)

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        更新は不定期となっております。

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