✤謀反✤
チュン、チュンチュン──
チュンチュンチュンチュン──
ん……? スズメ……の鳴き声……?
『!』
僕はハッとして目を覚ます。
いつの間にか日は高く登っていて、朝になっていた。
辺りを見回せば、既に布団は片付けられていて、一緒に寝たはずの宗昌さまの姿は、もうどこにもなかった。
しまった……!
とんだ失態だ。僕は飛び起きる。
宗昌さまがいない!
僕は飛び起きて、宗昌さまを探した!
だって僕も一緒に、盛誉のところへ連れて行ってもらう予定だったから。
確かに自分で行こうとは思っていたよ? だけど道がうろ覚え。それよりも宗昌さまに連れて行ってもらった方が確実だったから!
『にゃうー、にゃうぅー』
必死に探した。だけど宗昌さまは、どこにもいない。
う、うそ。嘘でしょ?
確かに僕、寝坊しちゃったかもだけど、まだそんなに遅いわけじゃない。宗昌さまはお客さんだから、帰るにしても昼頃のはずだって思うんだ。
どこかに絶対いる──!
「これこれ玉垂? そんなに騒いでどうしたの?」
僕の鳴き声を聞きつけて、玖月善女さまがやって来た。
僕は一生懸命説明する。
『うにゃうにゃう。にゃうにゃう……っ!』
「まぁ、玉垂ったら、どうしたのかしら……?」
…………分かるわけないよね。
うん。分かってる。
だけどだけど、せっかく盛誉に会えるかもしれないチャンスを、僕はみすみす逃すわけにはいかない。だからこの状況に、動揺せずにはいられない……!
そんな僕を見て、玖月善女さまは悲しげに笑った。
「……玉垂。まさかお前も盛誉に会いたいの?
もしかして、宗昌について行こう……とか思っていたの?」
『……』
図星を指されて、僕は押し黙る。
そして、玖月善女さまのその悲しげな声に、僕はハッとした。
そう、だよね。
そうだよ。なんで気づかなかったんだろう。
玖月善女さまだって、盛誉に会いたがってた。僕だけ会いに行くなんて、ずるいよね?
『にゃう……』
僕は鳴くのをやめた。
だって一番心配しているのは、玖月善女さまだって思ったから。
「……玉垂」
玖月善女さまは小さく呟いて、僕を優しく抱っこしてくれた。
「私の大切な大切な玉垂。
宗昌は急に行ってしまったの。私も止めることは出来なかったのよ。
……夜中に使者がやって来て、あの子は慌てて出て行ってしまったの。
やっぱり……やっぱり、心配していた通りになってしまったの! あの子たちに、謀反の疑いが掛けられてしまったの……!!」
『!?』
衝撃的な言葉だった。
ポロポロと涙を流す玖月善女さまを見上げ、僕は青くなる。
謀反の疑い……?
それって、どういう事?
盛誉はいったい どうなるの?
僕は目を見張る。
『……』
人は仲間同士で、いがみあう生き物だ。
猫と違って変なところでムキになって、武器を使って相手を簡単に死へと 追いやってしまう。
宗昌さまから薫る血の匂いが、まだ僕の鼻の奥に残っている。俗世から退いた盛誉からは、けして薫る事のない粘り纏わりつくような、あの強い匂い。
洗っても洗っても落ちないくらいに、濃く深く刻みつけられた血の匂い。
そんな人間たちが、盛誉を疑ってる──?
『──……っ!』
ゾクッと悪寒が走った。
嫌な予感しかしない。
いや、ちょっと待って。今、玖月善女さまはなんて言った?
疑われているのは【あの子たち】?
盛誉だけでなくて、宗昌さまも疑われているの?
『……』
考えてみれば、そりゃそうだなって思った。
いやどちらかと言うと、地頭である宗昌さまの方に、より嫌疑は掛かってくると思うんだ。
だけどあの あっからかんとした性格のせいか、そんな感じは少しも感じなかった。
僕はふと、もっと嫌なことを考えた。
……となると玖月善女さまはどうなるの?
玖月善女さまは直接には関わっていない。だけどあの二人のお母さんだ。何もない……なんてことあるだろうか……?
『……』
僕は青くなって玖月善女さまを見た。
けれど玖月善女さまは自分のことより、あの二人の事だけが、ひどく気掛かりのようだった。
「……あぁっ」
『!』
不意に悲鳴を上げ、ぶるぶる震えながら玖月善女さまが座り込む。
僕を床に下ろし、その両手で自分の顔を覆った。
「あ、あの子たち、……宗昌も盛誉も、謀反の疑いを掛けられたの。
ただ、ただあの子たちは、頼貞さまをお諌めしただけなのに。心の底から四郎さまや長寿丸さまを想って、ただひたすらに穏やかな世界を願っただけなのに。
それなのに何故? 何故このような事になっているの……?」
ぶるぶると震えるその細い指先の間から、玖月善女さまの真っ青な顔が見え、僕は恐ろしくなる。
菩薩さまのように穏やかな玖月善女さまの顔とは思えないほど、その表情は恐怖に歪んでいた。
『……!』
ああ、人間って、なんて恐ろしいんだろう?
さっきまで優しく微笑んでいた人が、一瞬にして苦痛な表情をその顔に浮かべ、鬼となる。
こんなにも……こんなにも簡単に、人を恐怖に陥れるなんて……!
『みゃあ……、みゃあ……!』
僕は玖月善女さまに擦り寄った。
どうにかして慰めたいと思った。
「あぁ、玉垂。玉垂……っ!」
玖月善女さまは僕を抱いた。
「大丈夫。きっと大丈夫だから……。
きっと四郎さまは、分かって下さる……っ、」
自分に言い聞かせるように、玖月善女さまは そう何度も呟いた。
僕も必死になって、玖月善女さまを宥めようとしたけれど、僕だって不安だ。
大好きな盛誉が、とんでもない事に巻き込まれている!
どうにかして、どうにかして盛誉を救い出したかった。
× × × つづく× × ×
┈┈••✤••┈┈┈┈••✤ あとがき ✤••┈┈┈┈••✤••┈┈
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