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琥珀糖に舞う、金桂と紫子さん。  作者: YUQARI
第六章 謀反の疑い。
18/43

✤玉垂の、名前の由来✤

 宗昌(むねまさ)さまは、その日は玖月善女(くげつぜんにょ)さまのところに泊まった。

 

 僕はいつも玖月善女(くげつぜんにょ)さまと眠るのだけれど、その日は宗昌(むねまさ)さまのところへ行った。

 だって、どうにかして盛誉(せいよ)に会いたかったから。

 

 宗昌(むねまさ)さまと一緒にいたら、もしかしたら僕を連れて行ってくれるかも知れないって、思ったんだ。

 

 暗闇の中で、こっそり宗昌(むねまさ)さまの寝所に忍び込むと、宗昌(むねまさ)さまはビクッと身を震わせて、僕を見た。

 あまりの驚きように、僕の方が飛び跳ねる。

 

「ぶ。なんだ、お前か……驚かすなよ……」

 そう言って、布団をひろげてくれる。

『にゃ』

 入ってもいいって言う仕草だって分かるから、僕は遠慮なくお邪魔する。

 

 

 今はもう冬。

 正直寒かった。

 

 布団の中はあったかくて、気持ちがいい。

 だけどやっぱり血の匂いがする。

 

 宗昌(むねまさ)さまは、確かに湯浴みをしていたんだよ? だけどそれでも取れないこの血の匂い。もう体に染み付いちゃってるんだ。

 きっと宗昌(むねまさ)さまは、いっぱい人を斬っているに違いない。

『……』

 

「しかし、驚いたな」

 宗昌(むねまさ)さまは、ふふふと笑う。

『にゃう?』

「知っていたか? お前の名前は、盛誉(せいよ)がつけたんだぞ?」

『!?』

 僕は目を丸くする。

 

「ふふ。猫にそんな事を言っても、分かるわけないか」

 宗昌(むねまさ)さまは笑いながらうつ伏せになると、僕の鼻をつついた。

「ホントに真っ黒だな。鼻まで真っ黒とか、笑っちゃうよな」

『……にゃう』

 

 匂いは全く違うんだけれど、やっぱり宗昌(むねまさ)さまは盛誉(せいよ)に似ていて、僕はずっと、宗昌(むねまさ)さまを見ていたくなる。

 

 宗昌(むねまさ)さまは、そんな僕に微笑んで、盛誉(せいよ)が僕を見つけたときのことを話して聞かせてくれた。

 

 あの夜盛誉(せいよ)は、夜のお勤めを終えて寝所へと向かっているところだったらしい。

 

「──するとな、子猫の鳴き声が縁の方でするものだから、心配になって外へと出たらしいんだ。

 ところが、どうした事か気配がすぐさま消える。鳴き声一つ、物音一つしないのだそうだ。

 けれど確かに子猫の声を聞いたから、必ずいるはずだからと、盛誉(せいよ)はお前を必死になって探したそうだよ。

 放っておけばいいのにな。

 だけど子猫であれば人恋しかろうし、腹が空いていては可哀想だと、見つけるまでは絶対に部屋には上がらぬと決めていたそうだぞ。

 我が弟ながら頭が下がるよ。ま、直ぐに見つかったわけだがな」

 そう言って僕の頭を撫でる。

 

「そしたらな、今のお前みたいに寺の縁下で【青い玉】が浮かんでたらしいんだ。

 確かにドキリとしたよ。暗闇に目だけ浮いてるんだからな。ま、俺が見たのは【金の玉】だったがな」

 クククと宗昌(むねまさ)さまは笑う。

 

「……それがひどく綺麗な【青】だったと言うんだ。

 だから、お前の名前は玉垂(たまたる)。朝露が美しく垂れるさまを思い浮かべたそうだ。

 お前も盛誉(せいよ)に、助けを求めていたのだろ? 小さく震えるその【青い玉】が、ひどく可愛くて愛おしかったと言っていたよ」

 

『……』

 僕はすごく、恥ずかしくなる。

 

 

 確かにあの時、誰かに助けて欲しかった。

 

 寂しくてお腹がすいて、悲しかった。

 

 だけど、怖くもあった。

 知らないその【誰か】は、僕に優しくしてくれるだろうか?

 そう思うと、見つかっちゃいけない気がして、僕は息を殺して物陰に隠れた。

 

 それを盛誉(せいよ)が見つけて、救ってくれたんだ。

 

 

 

 そうか。

 僕の名前は盛誉(せいよ)が付けてくれたのか。

 玖月善女(くげつぜんにょ)さまが付けてくれたのだと思い込んでいた。

 だって盛誉(せいよ)は、僕の名前を呼んでくれたことがなかったから……。

 

『にゃうにゃう』

 名前を付けてくれたのが盛誉(せいよ)なのだと思うと、僕はなんだか嬉しくなった。

 思わず宗昌(むねまさ)さまの胸に、その鼻面を擦り付けた。

 

「ふふ……よせよ。くすぐったいだろ?」

 

 ゴロゴロと喉を鳴らしながら宗昌(むねまさ)さまに擦り寄れば、宗昌(むねまさ)さまは僕の毛並みから逃れるように、頭を振った。

 宗昌(むねまさ)さまは続ける。

 

「その【青】が【金】になったと言うから、盛誉(せいよ)もそれが見たいと言って、ここへ来たがっていたけどな。

 ……聞いただろ? 頼貞(よりさだ)さまの話」

 

『……』

 宗昌(むねまさ)さまの顔から、笑みが消えた。

 

 ぐるっと仰向けになって、宗昌(むねまさ)さまは天井を凝視する。

 

「……母上には、あぁ申しはしたけれど、本当は状況は すこぶる思わしくない」

『……』

 宗昌(むねまさ)さまの声は掠れるように小さかった。

 

 きっと僕に話しているんじゃない。自分に言っているんだろうと、僕は思った。

 宗昌(むねまさ)さまは、深く溜め息をつく。 

 

「……盛誉(せいよ)はなにも、ここに来たくなくて来ないわけじゃない。戦に駆り出された男手の代わりを担っているし、年貢を軽くしてくれと各所に言って回っている。そのせいで、有力者からの恨みだってかってるんだ。

 だからこその この噂……。このままで済むはずがない……」

 宗昌(むねまさ)さまの声は消え入りそうだ。

 

「あぁ、それから薩摩の長寿丸さまも心配だ。

 今はまだ、頼貞(よりさだ)さまが挙兵するかも知れないという噂に過ぎないけれど、もし本当に頼貞(よりさだ)さまが挙兵し、万が一にでも家督を継ぐとなれば、ご気性の荒いあの方だ。きっと薩摩に攻め込むに違いない。

 その時人質であられる長寿丸さまが無事でいられるとは、到底思えない。

 薩摩の力は強大だ。簡単に倒せるものではないが、その事に頼貞(よりさだ)さまは気づいていらっしゃらない。

 目先の利益に囚われているんだ……」

 宗昌(むねまさ)さまは、軽く目を腕で押さえた。

 

「だからこそ、先代の義陽(よしひ)さまは我が子を人質として、差し出しているのに……。

 玉垂(たまたる)? 今のご当主さまはな、弟御の長寿丸さまと共に、人質として薩摩の国にいたんだ。知ってるだろ? 当然、和議のためにだ。

 今は家督を継ぐために四郎さまだけがここへ返された。……四郎さまの心内(こころうち)はいかばかりかと、俺はいつも思うよ。

 ……俺にだって盛誉(せいよ)がいる。

 だから、四郎さまの気持ちは痛いほどわかる。四郎さまにとって長寿丸さまは大切な肉親。掛け替えのない弟君なのだ。

 だから盛誉(せいよ)も、……どうにかして、頼貞(よりさだ)さまを……」

 

 宗昌(むねまさ)さまの声が掠れはじめ、遂にはスースーと規則正しい寝息が聞こえ始めた。

 

『……うにゃ?』

 ……眠った、の……?

 

 宗昌(むねまさ)さまの寝息を聞きながら、僕はぼんやりと思う。

 

 多分盛誉(せいよ)は今、必死なんだろうなって。

 どうにかして、甥を追い落とそうとする頼貞(よりさだ)さまを説得しようかと、頭を悩ませているのだろう。

 

 ……だからここには、来てくれない。来れなかったんだ。

 

『……』

 それがすごく寂しくて、僕はどうにかして盛誉(せいよ)に会えないものだろうかと考えた。

 

 僕だって寂しい。

 盛誉(せいよ)に会いたい。

 

 そんな事を思いながら、

 いつの間にか僕も、眠ってしまっていた。

 

 

 

           × × × つづく× × ×

   ┈┈••✤••┈┈┈┈••✤ あとがき ✤••┈┈┈┈••✤••┈┈



     お読み頂きありがとうございますm(*_ _)m


        誤字大魔王ですので誤字報告、

        切実にお待ちしております。


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