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琥珀糖に舞う、金桂と紫子さん。  作者: YUQARI
第六章 謀反の疑い。
17/43

✤青い目と金色の目✤

 本格的な寒い冬が来た。

 ピューピューと吹き付ける風がとても冷たい。

 

 義陽(よしひ)さまが亡くなられ噂の通り、その跡目を継いだのは亀千代さまだった。

 人質とされていた島津の家から返され、そこから慌ただしく元服なさって、その名を【忠房(ただふさ)】さまと改められた。

 通称【四郎太郎】さま。

 

 

 相良家に戻ったのは、この四郎さまただお一人。

 一緒に人質として島津へ行っていた弟君であられる長寿丸(ちょうじゅまる)さまは、帰ることは叶わず引き続き島津家の人質となった。

 

 だけど領主さまが決まったからと言って、安心してはいけない。状況は何も変わらなかったんだから。

 

 と言うのも、もう一つの噂もだんだん現実味を帯びてきて、活性化してきたんだ。

 

 【義陽(よしひ)さまの義弟頼貞(よりさだ)さまが、四郎さまを討つべく挙兵する】

 ……噂は、そんな噂だった。

 

 

 

 そしてその噂の火の粉は、盛誉(せいよ)とその兄宗昌(むねまさ)さまに降り掛かる。

 

 だってあの時(・・・)……義陽(よしひ)さまが亡くなってすぐ、二人は頼貞(よりさだ)さまに会いに行ったもの。

 義陽(よしひ)さまのお悔やみと、……そして、頼貞(よりさだ)さまがよからぬ事を考えないように、釘を刺すために……。

 

 

 盛誉(せいよ)とそのお兄さんの宗昌(むねまさ)さまは、あの日、領主さまの義弟(おとうと)君の頼貞(よりさだ)さまにお会いした。

 

 不思議にも頼貞(よりさだ)さまは落ち着いておられ、その日はお悔やみと、軽い世間話をして帰ったそうだ。

 当然、その【軽い世間話】には、しっかり釘を刺して来たと言っていたから、本当に二人は抜かりない。さすがだなってその時は思ったよ?

 

 当時から頼貞(よりさだ)さまは、腫れ物のような扱いを受けていた。

 だけど盛誉(せいよ)のみならず、そのお兄さんの宗昌(むねまさ)さま本当に人が良くって、【家督を狙っている】……と疑惑の渦中にいた頼貞(よりさだ)さまの相談でも二人は(こころよ)く受けとめ、話を聞いていたようなんだ。

 

 もちろん盛誉(せいよ)宗昌(むねまさ)さまも、相良の家臣として『仲違いをするような、そのような事をしてはなりません』……と(なだ)める意味合いもあったんだよ?

 

 だけど問題は、そこじゃない。

 話の内容じゃなくて、【会っていたこと】が問題視された。

 

 

 

義陽(よしひ)さまが亡くなられ、次の領主として頼貞(よりさだ)さまにと画策しているのに違いない』

 

 

 

 どこをどう取ったら、そうなるんだろう?

 絶対にそんな訳ないんだけど、二人の事を快く思わない人たちは、そう噂した。それが領主になったばかりの、まだ十歳になるかならないかの四郎さまの耳にまで届いた。

 

 そうなると【ただの噂】では済まなくなる。

 

 

「あの子、あの子はどうなるのでしょう?

 宗昌(むねまさ)盛誉(せいよ)、……盛誉(せいよ)を見舞っては頂けませんか?

 盛誉(せいよ)とあなたはお悔やみに行っただけですのに、他にも頼貞(よりさだ)さまと会っていた方など、たくさんいますのに、何故このような……」

 

 宗昌(むねまさ)さまは険しい顔をしながら、よろける玖月善女(くげつぜんにょ)さまを支えた。

 

「母上、どうぞお気を確かに。

 母上は盛誉(せいよ)の事となると、どうしてこうも取り乱されるのか……。

 盛誉(せいよ)のことなら、この宗昌(むねまさ)にお任せ下さい。

 なに、心配は要りませぬ。盛誉(せいよ)と私は頼貞(よりさだ)さまをお諌めしていたに過ぎませぬ。周りにはちゃんと人もいて、三人だけで会った……などと言うことはしておりませぬゆえ、ご案じ召されますな。

 それに、その事を知らぬ者などおりませぬ」

 宗昌(むねまさ)さまはそう言って、カカと笑った。

 

『……』

 笑っていたけれど、僕は見た。……目が笑っていないのを。

 だから僕は、少し不安になる。

 

『にゃ、にゃーにゃーにゃー』

 僕はいてもたってもいられなくて、宗昌(むねまさ)さまにしがみついて鳴いた。

 

「ん? どうした玉垂(たまたる)。腹が減ったのか?」

『……』

 

 何なんだろね? この母子(おやこ)兄弟揃いも揃って。

 僕が鳴けば、それ腹が空いたのだろうって……。僕、そんなに食い意地張ってないんだからね……!

 

 ムッとして見上げると、宗昌(むねまさ)さまは笑って僕を抱き上げた。

 僕を見て破顔する宗昌(むねまさ)さまのその顔は、やっぱり盛誉(せいよ)に似ている。

『……』

 

 兄弟だから当たり前か。

 あの懐かしい盛誉(せいよ)にとても良く似たその笑顔を見て、僕は泣きたくなる。

 もう、ずいぶんと盛誉(せいよ)に会っていない。

 

 僕を玖月善女(くげつぜんにょ)さまに預けたっきり、盛誉(せいよ)は一度も遊びには来てくれなかった。きっと、僕のことなんて忘れてしまったのに違いない。

 

 懐かしい面影を見て、僕は悲しくなった。

 だけどどう足掻いても、僕はただの【猫】。言葉なんて通じない。会いたいって叫んでも、会うことは叶わない。

『……』

 僕はじっと、宗昌(むねまさ)さまを見た。

 

 玖月善女(くげつぜんにょ)さまも、ひどく盛誉(せいよ)に似ているけれど、目の前の宗昌(むねまさ)さまは、それとは比べ物にならないほど、盛誉(せいよ)に良く似ていた。

 

 声だって、苦しくなるほどにそっくりだ。

 その声で、宗昌(むねまさ)さまは僕に話し掛けてくる。

 

玉垂(たまたる)盛誉(せいよ)がお前に会いたがっていた」

『にゃ……!?』

 

 宗昌(むねまさ)さまの言葉に、僕の心臓がドキリと跳ねる!

 盛誉(せいよ)!? 盛誉(せいよ)は僕を覚えていてくれているの!?

 

 僕が目を丸くすると、宗昌(むねまさ)さまはフフと笑う。

「私はお前の小さい頃を知らぬがな、なんでも目の色が違ったのだろ?」

 宗昌(むねまさ)さまは言う。

 

 ……ん? 目の色? なにそれ。

 

 僕がキョトンとしていると、玖月善女(くげつぜんにょ)さまがホホホと笑った。

「ええそうです。盛誉(せいよ)がそのような事を?」

「ええ、母上。盛誉(せいよ)は申しておりました。『垂玉(たるたま)は愛らしい』のだと『真っ青なその目は、朝露が滴り落ちるようだ』とも。

 けれど私が見る玉垂(たまたる)の目の色は、雫の色ではありませぬゆえ、不思議に思っていたところです」

 

『にゃ……?』

 宗昌(むねまさ)さまの言葉に、僕は目を丸くする。

 目の色……。え? 僕の目の色って、変わるの!?

 

 ちっとも青くない……と、ブツブツ文句を言いながら、宗昌(むねまさ)さまは僕を覗き込んだ。

盛誉(せいよ)は、『ドキリとするほど美しい瞳』と言っていたのにな。見ること叶わず、惜しいことです』

 

『にゃう……』

 僕は焦る。

 【ドキリ】とするのは、僕の方だ。

 

 盛誉(せいよ)に似た宗昌(むねまさ)さまの少し薄い、飴色のその目で見られると、どうしたらいいか分からなくなる。

 すると玖月善女(くげつぜんにょ)さまが、震えるように息を吐き、口を開いた。

 

「まだ今よりも小さかった頃は、蒼空(そら)のような、それは透き通った美しい青色だったのですよ。今はお日さまのような金色に変わってしまって、不思議なこと……と、あの子にも文を出したのだけれど……」

「ふふ。言っていた言っていた。そう言えば、そんな事を言っていたな。『金の目になった玉垂(たまたる)をこの目で見たい』と……」

『にゃあ、にゃあ……!』

 僕も会いたい。会いたい! 僕も盛誉(せいよ)に会いたい!!

 

 宗昌(むねまさ)さまはそう言って笑いながら、僕をふわりと抱きしめる。

 ああ、やっぱり通じない。

 猫の僕の声は届かない。

 

 もういっそ、僕の方から盛誉(せいよ)に会いに行こう!

 ……でもあの道を、僕は覚えているだろうか?

 寄り道をしながら盛誉(せいよ)と歩いた、あの道のり。

 

 もう既に過去となったあの日。たくさん寄り道をした為に、その道はもううろ覚えだ。

 だけど会いたい。

 

 どうにかして見つけよう。

 きっと盛誉(せいよ)に会うんだ……!

 

 僕は宗昌(むねまさ)さまに抱かれながら、そう決心した。

『……』

 そして、【ある事】に気づいた。

 

 

 確かに宗昌(むねまさ)さまは盛誉(せいよ)に似てる。

 

 似ているけど、でも違う。

 見た目は似ていても、その【匂い】が違った。

 

 盛誉(せいよ)はお香の優しい、いい匂いがした。

 でも、宗昌(むねまさ)さまは──。

 

 

 

 宗昌(むねまさ)さまは、ほんのり血の匂いがした。

 

 

 

           × × × つづく× × ×

 

   ┈┈••✤••┈┈┈┈••✤ あとがき ✤••┈┈┈┈••✤••┈┈



     お読み頂きありがとうございますm(*_ _)m


        誤字大魔王ですので誤字報告、

        切実にお待ちしております。


   そして随時、感想、評価もお待ちしております(*^^*)

     気軽にお立ち寄り、もしくはポチり下さい♡


        更新は不定期となっております。



      うーん。後書きに説明書いたと思うのに

       消えてますね。キトンブルーの説明。

          (場所間違えたか?)

        なので、再び説明。

    どっかに同じ説明出てくるかも( ̄▽ ̄;)へへ……。




         さてキトンブルーとは。。。


     猫ちゃんは赤ちゃんの時、青い目をしています。

         (基本、どこの子も全部)

     その色のことを【キトンブルー】と言います。


       玉垂の目の色の変化も、そのせいです。

          盛誉と出会った頃は、

       よほど おチビちゃんだったのでしょうw


      まぁ、子猫の時って黒目(瞳)が大きくて、

   色なんてあんまり分からないイメージありますけどね。

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