✤思わぬ、状況の変化✤
それから数ヶ月後。
情勢が変な方向に動き出した。
……いや、見た目的には、とりわけおかしいって事はなくて、ただ、戦乱の世の習いと言うか、なんと言うか……とにかく! 僕たちの領主さまは、たくさんの兵を引き連れて、戦に出た。
……ただ、戦を仕掛けた相手がおかしかった。
その相手というのが、本当だったら味方であるはずの【阿蘇氏】だったんだ。
肥後国は、九州の真ん中に位置する。
その肥後国の中にある【人吉】と言う場所に、僕たちは住んでいた。
自然豊かな山々と、広大な平地部。それから大きな球磨川っていう川がそこには流れていて、僕たちの生活を支えてくれていた。
温暖な気候と山から流れる豊富な水に恵まれ、この地域では、稲作が盛んだ。
当然、米の収穫量が多いこの地域では、酒蔵が多く点在し、有名な地酒もたくさんある。
……と言うか、僕はお酒は飲まないけれどね。猫だし、子猫だし、飲めないし。
いや、そうじゃなくて、ここ。ここの場所。
ここの場所が問題なんだ。
作物が多く取れるとか取れないとかの問題じゃなくて、ここの位置! ここ人吉は、日向国(宮崎県)と薩摩国(鹿児島県)の国境にあたる。
最も守りを堅くしなくちゃならないこの場所に、僕たちは住んでいた。要は不安定な土地柄なんだよね。お隣さんの動向とか?
人吉城……別名 三日月城の主、相良義陽。
それが僕たちの主の名前。
僕たちはその人の庇護の元、この人吉に住んでいた。
ついでに言うと、その人吉の地頭の一人が盛誉のお兄さん。つまり湯山宗昌って人になる。
湯山の地には、さっきも言ったけれど酒蔵の他、温泉もあって土地柄には恵まれているんだよ? だけど他の国が隣合っている場所でもある。
ただ、もちろん協定を結んでいるからこそ、ひとまずは安心して暮らせるし、盛誉だって日向国へ修行に出ることだって出来ていた。
盛誉だけじゃなくって、村のみんなだって、旅に出たり、行商したりとかしていたんだよ?
不安定ではあるものの、それなりの【利益】っていうものも、ちゃんとあった。
だけど今は【戦国の世】。何が起こるかは分からない。
不安定な状況と、それから油断ならない場所なのには、間違いなかった。
そんな状況の中、三日月城の主、義陽さまが遂に兵を率いて出陣なさったんだ。
本当なら薩摩が敵であるはずなんだけど、この時の相手は なんと阿蘇家。阿蘇家は、肥後の北部に位置する有力者の一人だった。
まさかの隣国ではなくて、自国の有力者。
でも、戦乱の世だから なんでもありだよね。みんなそう思った。
けれど理由は何であれ、肥後国の民がそれを許すはずもない。
初めの頃こそ調子も良くって、義陽さまたちの兵は甲佐城と堅志田城の二つの城を次々に攻め落し、状況から言えば勝ち戦だったんだ。
だから誰もが喜んでいたし、みんな安心しきっていた。
ただこの時、状況も変わり始めていた。
その夜、領主さまたちは祝杯を上げながら、敵将の首実検をしていたらしい。
首実検って言うのはね、取った敵将の首を並べて、これがどこそこの大将首で、誰々が上げた……なんて言うやつ。
……想像すると最悪だよね。
それ見ながら祝杯とか、豪気超えて狂気だよ?
『……』
義陽さまはもしかしたら、戦上手だったのかも知れない。
隣国と睨みを効かせ合う場所にいて、弱い……なんてことあるわけないんだけれど、きっとたくさん人を殺してるんだろな。
僕は会ったことはないけれど、どんな人だったんだろうと、時々思いを馳せる。
時はそんな冷たい北風が吹き始めた、極月に入ったばかりの日。
そんな凍えるような、寒い夜。状況は一変したんだ。
油断に油断を重ねた領主義陽さまの陣に、御船城主である甲斐宗運が攻撃を仕掛けた。
宗運は、阿蘇家筆頭の家臣。
阿蘇家に歯向かうとなれば、真っ先に相対しなければならない相手だった。
義陽さまの軍は、そこで総崩れとなる。
勇士七十名、雑兵二百名が討たれ、これはもうダメだと判断した家臣たちは、主である義陽さまに、逃げるよう説得をした。
……にも関わらず義陽さまは、何故かそれを拒否。
なんの抵抗もなく床几に座ったまま、総大将である義陽さまは、呆気なく討たれてしまった。
その知らせは瞬く間に、盛誉のお母さんである玖月善女さまの耳に入った。
「な、なんてこと!」
玖月善女さまは真っ青になってその報告を聞いた。
何故真っ青になったかと言うと、その義陽さまって言う人は、国境の要だったから。
……いや、それだけじゃない。本当に大切な人だったんだ。
隣国の薩摩国からこの肥後国を守っていた人物。そして不安定なこの情勢の中、唯一の希望だった義陽さま……。
その【要】が亡くなってしまったのだから、玖月善女さまでなくても、きっとみんな動揺したに違いない。
だって、この義陽さまが討たれた事によって、
今までの情勢が、ゴロリと変わることは
間違いないのだから……。
× × × つづく× × ×
┈┈••✤••┈┈┈┈••✤ あとがき ✤••┈┈┈┈••✤••┈┈
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