✤涙の味✤
「『私の代わりに、この子の母に』──」
盛誉が帰って行ってから、玖月善女さまは、ぼんやり薄黄木犀を見ながらそう呟いた。
「ねぇ、お前。お前はどう思う?」
『にゃ?』
「あの子はお前の母になろうとしたのか、それとも」
──それとも、お前になろうとしたのか……。
『……』
ポツリと呟いたその声は震えていて、僕は玖月善女さまが泣いているんじゃないかと心配になった。
『にゃ、にゃあ……!』
カシカシ……と前足で玖月善女さまに触れると、玖月善女さまはハッとしたように僕を見て微笑んだ。
「ふふ。お腹がすいたのね?
少し待っていてね。今、ごはんを持ってきてあげますよ」
ち、違うから!
そうじゃなくて……!
部屋から出ていこうとする玖月善女さまを、僕は必死で追いかけた。
まったく! この母子って……!
考えることが一緒で、なんだか泣けてくる。
玖月善女さまもまた、盛誉に遠慮してたのかな?
何かを言いたげなその横顔も、イライラするほどにそっくりだ! まったく二人とも、不器用にも程がある……!
慌てて僕が追い掛けていると、途中、サラサラと立つ衣擦れの音がピタリと止まり、玖月善女さまは くるりと僕を振り返った。
『?』
何が起こったのかよく分からなくて、僕は首を傾げ、玖月善女さまを見上げる。すると、玖月善女さまはサッと僕を抱き上げた。
『にゃ!?』
何が起こったのか分からなくて、僕は思わず爪を出しちゃったんだけど、玖月善女さまは怒らなかった。
怒らず僕を包み込む。
『……』
腕のそのあたたかさと、優しい香りに包まれて、僕は目眩がするほど嬉しくなった。
盛誉も好きだけれど、玖月善女さまも大好き!
『みゃあ。みゃあ!』
どうにかその事が伝えたくって、僕は擦り寄った。
すると玖月善女さまが震えるように呟いた。
「私は、お前の母になろう。
あの子がお前を愛おしむように、私はお前を愛おしみ、あの子が私の大切な子であるように、お前を私の大切な子としよう……」
そう言って、しくしく しくしく……と泣き始めた。
僕はビックリして、その涙を舐めた。
涙は塩辛くて少し驚いたけれど、僕は大好きな玖月善女さまに笑っていて欲しくて、泣き終わるまでずっと傍にいた。
きっと玖月善女さまも、盛誉の傍にいたかったのに違いない。
僕の本当のお母さんも、こうやって僕のこと、心配してくれているのだろうか?
僕はふと、そんな事を思いながら、
玖月善女さまの涙を舐めた。
× × × つづく× × ×
┈┈••✤••┈┈┈┈••✤ あとがき ✤••┈┈┈┈••✤••┈┈
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