✤人の戦《いくさ》と、捕って来てくれるお魚✤
盛誉のお母さんの名前は【玖月善女】って言った。
これは本名じゃなくて、お寺に入った時につけたんだと思う。
玖月だから、九月に出家したのか、九月生まれだったのか……それとも九月が好きだったのか、どちらにせよ名前に入れてるくらいだから、【九月】に思い入れがあったのだと思う。
秋風吹く、今の時期にはピッタリな名前だった。
盛誉のお母さんは、なんで出家してしまったんだろう?
人間の偉い人たちは、自分の近しい人が亡くなると俗世を離れると言うから、この玖月善女さまも、大切な人を亡くしたのかも知れない。
……それって、誰かな?
盛誉のお父さん?
……確か名前は、宗豊さま(だったかな?)がもう、お亡くなりになっているからかな?
盛誉に教えてもらったんだけど、今、人間たちは【戦】と言うものに明け暮れている。
【戦乱の世】……って言うんだって。
まあ、盛誉に教えてもらわなくったって、薄々気づいてはいたんだけどね。
見て回った町の中でも、怪我を負った人たちが結構いたから。
戦は、大勢の人たちが寄り集まって、その手に武器を持ち、自分の陣地を犯す人間たちを殺すんだ。
何故かっていうと、富と名誉のため?
僕にはよく分からないけれど、そーゆーモノのために、人間たちは躍起になって同じ人間を……仲間を殺している。
だから盛誉のお父さんも、きっとそんな戦で亡くなったのに違いない。
人はよく、仲間同士で争う。
まあ、僕たち猫だってそうだよ?
だけどこんなに大勢で、しかも武器を持って、何年も何年もいがみ合わなくちゃいけないものなんだろうか?
【自分の生活を守るため】……なんて言ってるけれど、死んじゃったら元も子もない。
僕は大切な人には、ずっとずっと生きていて欲しいって思う。
盛誉のお父さんだって、まだこの世に生きていたのなら、玖月善女さまだって ひとり寂しく、お寺の片隅で生きていく……なんてことには ならなかったんじゃないかな?
『……』
そう思うと、なんだか少し悲しくなる。
僕は盛誉には、ずっとずっと傍にいて欲しいと思うから。
盛誉が言ってた。
盛誉の家……湯山家が仕えている ここの領主の相良家では、跡目争いが激しいんだって。
ううん。でもそれは、相良家だけじゃない。
今は【戦乱の世】ってやつだから、どこでも争いが絶えないんだって。
どこの家でも、親兄弟が殺しあってる。
盛誉が仕えているここの領主さま。……相良義陽さまには、同じ日に生まれた異母弟がいて、折り合いが悪いって言ってた。
『ただでさえ不安定な世の中なのに、身内に闇を抱えていては、幸せになんて、なれるはずがない』
……盛誉はよくそう言って、辛そうな顔をした。
本当はその頼貞って人も、盛誉みたいに家督争いを避けるため、子どもの頃に出家してたんだって。
だけどその人は、盛誉みたいにお寺に大人しく入ってなんかいなかった。
気性の荒い頼貞さまは、勝手に還俗(出家したことをなかったことにする)しちゃったらしいんだ。
……そんな事って出来るの?
そして今、その頼貞さまは、隣の薩摩国との国境に住んでいて、不穏な動きを見せているらしい。
だから盛誉は、『油断がならない』……と言っては、いつも悩んでいた。
『このままいくと、兄弟同士で争いが起きる。
何としてでも止めなくては……』
どうにか和解させられないものかって。
人間って なまじ頭がいいものだから、ひとたび誰かを恨むとホントに怖い生き物だと思う。
……僕もいつかそうやって、何かを恨む日が来るんだろうか?
僕は……そうは なりたくない。
何かを恨みながら生きていくのは、とても辛いことのように思えた。
『あまり良いものを食べさせられなくて、済まないな。
せめて魚くらいは、私が捕ってきてあげよう』
僕が拾われてすぐの頃、盛誉はそう言ってくれた。
見上げればいつも、優しい盛誉の笑顔があった。
『……』
今はあまりいい状況ではないから、食料が乏しいのだと、盛誉は嘆いていた……。
働き手が戦に駆り出されるから、思うように畑仕事が出来ない。だから畑は荒れ放題で、作物も思うように採れないって。
そして飢えるのは、いつも弱い立場の者ばかりなのだって。……そう、言っていた。
今の世の中どこも品薄で、さっき農民たちがくれると言った柿や魚だって、本当は貴重なものなんだ。
そんな苦しい中でも、みんなで分け合って、笑いあってる……。
本当なら僕みたいなちっぽけな猫、放っておかれて当たり前なんだ。
あ……あのね、あのね盛誉!
僕なら平気なんだよ?
ここにいていいって言われたから、安心して過ごせるし、だから自分で狩りだって覚えた!
僕は小さい子猫かも知れないけれど、ネズミを捕まえて食べることくらい出来る。
庭がとても広いから、虫だって探せるもの。
だって僕は強いもの!
だからだから無理してお魚、捕って来なくても大丈夫なんだよ?
盛誉は盛誉の事だけ考えて、僕を傍にいさせてくれさえすれば、それだけで僕は満足なんだ。
『にゃうにゃうにゃう!!』
「ふふふ。そうかそうか。腹が減ってはしょうがないな。
待て待て、すぐに用意をしてやるぞ?」
ちがーう!!
違う違う、盛誉! そうじゃなくって!!
……僕はそう言うんだけれど、猫の僕の言葉は、人間の盛誉には伝わらない。
だから盛誉は、必ず僕にお魚をくれた。
自分は絶対口にしないのに、僕のために捕ってきてくれるんだ。
お坊さまって、お魚捕ってもいいのかな?
……ダメな気がする。
『……』
そんな風にも思ったんだけれど、大好きな盛誉がせっかく捕まえて来てくれたお魚を、僕は無駄にはしたくなくて、いつも悦んでそれを食べた。
盛誉の捕って来るお魚は、すごく活きがよくて、すっごく美味しかったんだ!
× × × つづく× × ×
┈┈••✤••┈┈┈┈••✤ あとがき ✤••┈┈┈┈••✤••┈┈
お読み頂きありがとうございますm(*_ _)m
誤字大魔王ですので誤字報告、
切実にお待ちしております。
そして随時、感想、評価もお待ちしております(*^^*)
気軽にお立ち寄り、もしくはポチり下さい♡
更新は不定期となっております。
盛誉のお母さん玖月善女。
この名前って、戒名(死んだ後の名前)なんじゃ!? と
最初私は思ったんですよ。
……だけど、他の名前しらないんですよね( ̄▽ ̄;)
なので、作るわけにもいかず
出家後の名前にしました。。。
で、問題はですよ、【どこに住んでいたか】
住んでいた場所が見つけられなくてですね。
私の想像では『市房神社』付近……と
目星をつけています。
なぜそこなのか。。。は、
後日説明したいと思います( ̄▽ ̄)へへ。
さて、ここから
史実要素が濃くなるので、
ついてきてくれると嬉しいです( ̄▽ ̄;)
説明、上手く出来たらいいんですけどね。
『歴史小説』は、そこら辺がね、
難しいですよね。。。